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第四章七節

 裏路地を通って人目を避け、やがて見えてくるのは宿屋街。見慣れた街並みと灯り、見慣れた宿屋アンナの宿の看板。  クロスは自分の足に力を入れるとアミエラから離れて自力で立ち、やや乱暴に離れられた事に少々不快にも感じたがアミエラは微笑みある事を問いかける。 「あの子の前では弱みを見せない、ってことなのかな?」 「……依頼主に余計な心配をかける訳にはいかない。召喚札師(リスナー)として当然だ」 「そんなボロボロじゃすぐバレるのに?」  アミエラの言うボロボロというのは見た目ではなく消耗状態の事。魔力がほぼゼロなので召喚はおろかカードを利用した物事全てが行使できず、他の召喚札師(リスナー)の気配を察知する事もできない。  その為か顔色も良いとは言えず、本人がどんなに気丈に振る舞おうと強がりがバレバレである。  そんなクロスを見てアミエラはくすくすと笑い始め「面白いやつ」と言い、くるりとクロスの周りを一周して手を後ろにやや前のめりに顔を出して見つめる。 「何がそんなにイケメン君を奮い起たせるか気になるけれど、それはまた今度ね。さ、早いとこ戦利品の確認しなきゃね〜」  そう無邪気に言ったアミエラは一足先に宿へと入って行き、クロスもため息を小さくついてから今か今かと待っているワンドの待つ場所へ入っていった。 ――  意識の朦朧する中、クロスは目を開けた。目に映るのは年季の入った木造の天井、その後感じたのは程よい温かさ。 (……ぶっ倒れたのか)  窓から射し込む陽射しを受けつつ、身体を起こしながらクロスは最後の記憶を辿る。アミエラと共に宿に帰還した後、出迎えたワンドの顔を見たら緊張の糸が切れてその場で寝てしまった。  消耗してたせいももちろんあるのだが、それ以上にワンドの無事に安堵した事のが大きい。守るべきものがいる、それは力を与えてくれると同時に喪失した時の絶望の深さとも比例する。  ジャケットを脱がされて寝ていたクロスは起き上がるとベッドから立ち上がり、部屋のテーブルに置かれた自分のカード入れがついたベルト、増幅手袋(ブーストグローブ)に触れて小さく息をつく。  感覚的に一昼夜、いやそれ以上に寝てしまったのは何となく理解でき、すぐにベルトを巻いてカード入れを身に着け、手袋を両手にはめてジャケットを羽織って部屋を飛び出しかけたが、扉の前に気配を察して気を鎮めその主が入ってくるのを待った。  ドアノブが回り、塞がった両手に代わり身体を使って扉を開けて入って来たのは…銀のポットとカップを抱え持ったワンドだ。 「……っ! く、クロスさんっ!!」 「いきなり走るな、転ぶぞ」  目を見開き自分の目覚めに驚きと興奮を隠せず小走りして来たワンドに呆れつつも、クロスは彼が抱え持つポットとカップを受け取って机の上に置く。 「……どのくらい寝てた?」 「今日で三日目で、今は夕方ですよ。でもよかった……」  三日も寝ていた事実に驚きつつ、表情に出さずにクロスはワンドの持ってきたポットの中身をカップに注ぎ、横目でワンドが微笑みつつも目に涙をためているを見続ける。  心配をかけてしまった。唯一安堵できたのは三日の空白期間にワンドが無事である事、だろう。 「すまない、情けない所を見せた」 「いいんです。クロスさんもアミエラさんも無事でしたから」  無事で済んだのは運が良かった、とはクロスはとても言えなかった。もしバエルが見逃さねば自分は囚われていた、仮に戦ったとしても勝てる相手ではないのも今にして思えばわかってくる。  幸運と言えばそうなのだが、それに頼るようでは自分が未熟な証拠。運に頼らずに危機を乗り切らねば、真の強さには程遠い。 (まだまだ……だな)  カップに注いだ焦げ茶色の飲み物を一口含み、その独特のえぐみと渋みのする味を耐えながらクロスは自己反省を済ませる。  飲み物の正体は召喚札師(リスナー)用の特殊なお茶。疲労と魔力回復にはとても効くが凄まじい味の為に敬遠する者も多い。効能自体はかなりものであるので、クロスも味の後に訪れる爽快感が身体を巡るのを感じ取る。寝起きの身体にも、きつけ薬代わりにはなる。  一息つくクロスは自分を見上げて微笑むワンドと目を合わせ、カード入れよりグレムリンのハントを召喚してワンドの頭に乗せてやった。ハントは慣れた様子でワンドの頭に乗るものの、クロスの方に丸い目を向け首を傾げており、心配をしている様子だ。 「しー?」 「大丈夫だ。心配ない」 「ししっ!」  クロスの言葉にハントも元気を取り戻したらしく、ワンドの頭からクロスの身体へ飛び移るとそのまま肩に登って行く。その様子にワンドもさらに安堵し、やや呆れ気味のクロスは小さく息をつくとワンドと共に部屋を出て宿の一階へと下りていった。
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