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第四章六節

 強敵、という言葉が正しいと言えるルードの繰り出したガイテイオウ。力ではダインに勝り、魔法による錯乱は対魔法処理を施した鎧で攻略する。  だがクロス側が全く不利という訳ではなく、ダインとセレッタの倒され間際の攻撃によりガイテイオウの左腕を破壊し、破壊部より流し込んだ多量の水により駆動部にダメージは与えられている。 (あとひと押し……だな)  破壊(ブレイク)によるダメージはかなり大きい。正直言ってクロス自身……敗北を覚悟はしている。  だが、自分が倒れたら仲間(アセス)達に、そしてワンドがどうなるかわからない。  ふと脳裏に浮かぶのは幼き自分を鍛えてくれた恩人の言葉。それが諦めかけていたクロスの思考を止めて奮い起たせ、深呼吸の後にクロスは残る魔力を振り絞ってカード入れよりエックスのカードを引き抜いた。 「生命を燃やし姿を現せ、エックス!」  困難に立ち向かう覚悟を決めたクロスに呼応し呼び出されたファイアードレイクのエックス。力強く床を踏みしめ、ドラゴンキラーを手にするガイテイオウを見ても怯まずにいる。 「ほう、ファイアードレイクか……忌々しい奴を思い出すが、大したものだな。だがドラゴンキラーを備えた我がガイテイオウに勝てるかな?」 「さぁな、だが確かなのは最後まで立ってた奴が勝者って事だけさ」  余力は正直ない。だが、エックスの姿を見てルードにも僅かに動揺が感じられる。  会話の中でそれを感じたクロスにも余裕が僅かにできた。自然と心が落ち着き、しかし思いは熱く円環(サークル)を展開してるにも関わらずエックスの咆哮がオークション会場を揺らす。 「……行け!」  クロスの言葉を皮切りにエックスが翼を広げガイテイオウに一気に突っ込み、振り抜かれる剣を腕の鱗を使って受け流し頭を手で押さえつけながら円環(サークル)に抑えつける。  さらにそこから口内に赤い炎を溜めて至近距離から吐きつけ、徐々にガイテイオウを溶かし始めた。 「それ以上はさせん! 呪文(スペル)発動……」 「呪文(スペル)発動、アンチマジック」  ルードの呪文に対してカウンタースペルのアンチマジックを使用するクロス。発動前に使う事で相手の呪文を無効化、破壊するが消費魔力も大きい。  エックスはブレス攻撃でガイテイオウを押し切ろうとしていたが、クロスの魔力の余力を考えてブレスを中断。高熱により軟質化した鎧に爪を食い込ませて力づくで引裂くも、突き出されるドラゴンキラーが脇腹を切り手傷を負わせる。 「そのまま両断しろ!」  ルードの叫びに応じたガイテイオウが剣を横に振り抜き始めかけたが、その時既にクロスは別の呪文(スペル)ドラゴンハートを発動済み。それを受けたエックスが青き炎を引き裂いた箇所へぶつけ、内部より焼き尽くしガイテイオウを爆発四散させた。 「ば、馬鹿な……何処にそんな力が…! ぐぅ……っ!」  吹き飛ぶ破片を避けながら驚きを隠せないルードだが、破壊(ブレイク)のダメージが跳ね返りその場に倒れ伏す。  あまりの衝撃音にデミトリア兵達も集まり、円環(サークル)が消えると当時に力を使い果たしたクロスも膝をついてエックスを何とかカードに戻してカード入れへと戻す。 「ルード様! おのれ!」  ルードを倒したもののデミトリア兵達が一斉にクロスを取り囲んで拘束しようとする。と、そこに「やめろ」と一言声が響き、拘束を覚悟したクロスが顔を上げるとルードの横へ歩いてやってくる仮面の男が目に映る。 「召喚札師(リスナー)同士の戦いにおいて、勝者を取り囲んで捕らえようなど愚の骨頂。ましてや自分から進んで相手の挑戦を受けたならな」 「ば、バエル……代わりに奴を……」 「貴様の尻拭いをする道理はない。もっとも、この男とはいずれ相対するつもりだがな」  デミトリア軍最上級召喚札師(リスナー)バエル。どうやら何処からか戦いを見ていたらしい。  倒れ伏すルードの懇願を一蹴したバエルは疲弊したクロスを見つめ何か思案しているようにも見えた。クロスからするとここから逃げられるかわからないのに変わりはない。 「……次はあんたとやればいいのか」 「満身創痍の相手を叩きのめしても我が仲間(アセス)達は満足しない。俺自身、万全の相手を全力で倒さねば何の意味もないと考える。今回は同じ召喚札師(リスナー)として、勝者に対して敬意を払うというだけのこと。気が変わらぬ内にこの場から消えるがいい」  何かしら目的があるように、そして自分の事を知っているようにクロスはバエルの言動から感じる事ができた。  しかしその場では深く考える事はなく、何とか疲労した身体を起こしてゆっくり歩き始め、道を開けるデミトリア兵達の間を進みオークション会場の外へと出た。 ――  オークション会場より少し進んだ路地でようやくクロスは気を抜き、壁に背を当て大きく息を吐く。幸運に救われたというのは否めない、アミエラの事もあるが、今はワンドの所へと早く戻らねばという事がまず頭に浮かんだ。  きれぎれの息遣いのままふらふらと歩き始めたクロスだが、気配を感じて振り返りカードを引き抜こうとするも疲労から上手く抜けずに落としてしまい、すぐ前に来た気配の主がカードを拾ってクロスに手渡す。 「お疲れ様。随分と派手にやったのね」  気配の主はアミエラ。傍らには幽体の羽衣を被ったサスツルギが金庫を足に掴んで飛んでおり、クロスは「いたのか」と悪態をつくように答えるものの倒れかけてアミエラが支え、肩を貸して共に歩き始める。 「ホントはカード手に入れたらとんずらするつもりだったんだけどねぇ……あの子の笑顔とか忘れられなくてさ。それにあんたが召喚札師(リスナー)倒してくれたおかげでカード手に入れられたのもあるしね」  エックスがガイテイオウを倒し、それによりルードが倒れたと同時にサスツルギと交戦していた機械人形も急に動きを止めた。また、デミトリア兵がクロスの所へと集まったのもあり、アミエラは容易に脱出する事ができたのだ。
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