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第四章五節b

呪文(スペル)発動、ミニマムファイア」  クロスの詠唱と共に手に持つカードが燃え尽き、機甲兵カルファに向かって小さな火の玉が飛んでいく。直接攻撃系のスペルの一つミニマムファイア、しかし炎を弱点としない限りは有効打にはならない初歩呪文(スペル)の一つ。  カルファはそんなミニマムファイアに反応したのか向きを炎の方に変え、その瞬間にギルツが背後から一気に接近し刃を振り上げ切りかかりに行った。が、カルファの頭部分がカパッと縦に割れ、姿を現すのは三叉の小型の槍。  クロスはすぐさまエスケープのカードを引き抜こうとしたが、それを阻止するようにギルツが力強く叫ぶ。 「この程度で怯むギルツではない!!」  攻撃態勢となっているギルツに向かって槍が射出されて胸を貫く、しかしそれに怯まずにギルツも刃を力強く振り抜いてカルファにめり込ませ、血を流しつつも破壊に成功。相討ちに持ち込んでからその身を光に変えてクロスの元へと戻っていく。  破壊(ブレイク)状態となったギルツのカードの絵柄は灰色となり、クロスもギルツが傷ついた左胸のあたりに強い痛みを感じ疲労が強くなる。倒されたとはいえ、その強い思いはクロスにとって闘志を燃やす事へと繋がる。 (悪いなギルツ、休んでてくれ)  一度カードを見つめてからカード入れへとクロスはカードを戻し、次に召喚すべき仲間(アセス)を考え始める。その間にルードも破壊されて動かなくなったカルファをカードに戻し、こちらもカード入れから新たな仲間(アセス)を呼び出さんと思案をし始めていた。 (様子見とは言えカルファの反撃に動じない仲間(アセス)か……それほどの相手ならば、出し惜しみしては不利となるな!)  ルードの魔力が高まるのをクロスは感じ取り、周囲に重苦しい空気が立ち込め始める。次の勝負がこの戦いの決着となる、そう予感したクロスはためらいなくファイアードレイクのエックスのカードを引き抜き、ここが正念場と予感する。 ――  クロスとルードの戦いが続く中、デミトリア兵達が警戒のためにオークション会場を駆け回る。そんな中をアミエラは幽体の羽衣で姿を消しているため、堂々と進んで奥へと進む。 (クロス……性格はともかく、目の保養にはなったなぁ。ま、あたしが誰かに仕えるなんて真っ平ごめんだし、さっさと仕事してとんずらしますか)  自分の目的はあくまでもカード。手に入れる為に利用できるものは利用する、アミエラにとって他人の願いなど自分の益になるかどうかが重要なこと。  それを踏まえるとクロスはもちろん、ワンドの願いを聞き入れるというのは不利益にしかならない。  そう思ってはいるのだが、何故か今回だけは後ろめたさのようなものが胸に突き刺さる。このままカードだけ手に入れて逃げたとしても、それは残り続けるだろう……ではどうすれば消えるのかもすぐに頭には浮かび、だが首を大きく横に振って振り払おうとしてみる。 (ダメダメ、絶対にあたしにはなんの得にもならないって! あんな小さな子についてっても……何も、ないはずなのに……)  宿にて話したワンドの顔が浮かぶ。亡国の王子で純粋な存在、デミトリアに対抗しうる召喚札師(リスナー)として自分に白羽の矢を立てた。  本来ならば国で平和に暮らしていたはずの道を閉ざされ、使命を抱いて奔走する立場。なのに常に笑顔を見せるようにしているのは、辛さを隠す為。  ふと、アミエラは自身の過去を思い出す。ワンドと似た境遇、かつて自分も家族を失って今に至る。別にそれが理由、とは思いたくないものの、やはり、気になってしまう。 (素直になったら? 本当は……) (言わないでよ。あたしだって、わかってるんだから)  左腰から下げるカード入れの仲間(アセス)が語りかけてくる。アミエラは深呼吸をして気持ちの整理を済ませると、自分が何をすべきかを再認して再び歩を進める。ひとまずは、カードを手に入れることが先決。  当初の予定通り、オークション会場のカード置き場には空のショーケースが並ぶ。  カードそのものはまだ展示されておらず、ショーケース側にある堅固な金庫の中にある。  召喚札師(リスナー)用のカードというのもあって金庫そのものは非常に頑強、加えて魔法によって施錠されている為に本来の鍵以外で開けようものなら即座に追放の魔法が発動し、あらぬ場所に飛ばされてしまう。  そうした堅牢さと安全性からか、デミトリア兵はこの場にはいない。アミエラにとっては好都合。 (さーて、始めますか)  幽体の羽衣を脱ぎ捨ててカードに戻し、アミエラは金庫の前へと赴く。  見た目は両手で抱えられる程の大きさの金庫だが、カード製作技術を応用して作られたそれは中に納められるカードの数はかなりのもの。  指先でカード入れのカードの一枚を引き抜き、アミエラはそれを召喚。呼び出したのは新緑色の羽を持つスズメに似た小鳥、手に乗せると金庫の方に顔を向けさせその中身を透視させる。 「さーてナギちゃん、いつものように中身と罠の確認よろしくっ」  警戒鳥アラーバード。非力ではあるが透視能力を持ち警戒心も非常に強い為、盗賊はもちろん警護として飼われる事が多い小さな魔物。  アラーバードのナギは金庫の中にアミエラの目当てであるカードがある事、そして鍵の罠がいかほどかを確認して小さくさえずり、それを聴き分けアミエラは対処法を考え始めた。 (金庫を開けようとすれば追放の魔法が発動する基本的なタイプ……他に罠はない、のね)  オークション会場にしてはやけに手薄すぎる金庫。この程度ならば多少時間はかかるが開けられないことはなく、仕事をするだけならば容易く済むこと。  しかし、アミエラは警戒する。逆説的に考えれば金庫の堅牢さだけで守ろうとすること、警備を配置しないのは不自然な事である。  
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