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第四章五節a

 組織に属す召喚札師(リスナー)には階位として下級や中級など、実力に応じたものが与えられる。上級召喚札師(リスナー)ともなれば確かな実績と実力を兼ね備えているというメッセージとなる。  無属性使いというルードの雰囲気からしてあまり強さは感じないものの、注意するとひと目ではわからない程に魔力を抑えているのがわかった。普段から力を抑える事で非戦闘時の魔力消費を最低限とする術。  召喚札師(リスナー)が自身の魔力がどの程度なのかを知られない為の基本術の一つだが、ルードのそれは意識しない限りわからないほど自然体であり、それだけでも魔力の総量はわからずとも確かな技量があるのが示されていた。  しかし二人がかりならば勝つ見込みはあるだろう、そう思ったクロスだったが直後に背中をドンと強く押されて幽体の羽衣も落ちてしまい、不意に押された事による物音に気づいたルード達がこちらに目を向け捉えられてしまう。 「誰だ!」 (あの女……!!)  怒りの矛先を向けるべき相手、背中を押したアミエラは既にそこに姿はなくクロスは舌打ちしつつカード入れに手をかけて構え、それに反応したデミトリア兵は一瞬たじろぐ。 「狼狽えるな。お前達は他の者達を呼んで周囲の警戒をしろ、仲間がいるやもしれぬ。召喚札師(リスナー)の相手はこのルードが引き受ける」  冷静な指示と、臨戦態勢となる事で抑えていた魔力が周囲に風を吹かせる。上級召喚札師(リスナー)とだけあり、やはり簡単に倒せる者ではないだろう。  避けられない戦いを強いられた怒りはあれども、クロスは息を吸って軽く吐いて気持ちを切り替える。このような場面を想定してなかったわけではないし、同時に上級召喚札師(リスナー)相手に自分の力が通用するのかを試してみたいというチャレンジスピリッツもある。  強い相手に立ち向かい勝つ事、それが己の力を高めるのだから。 「デミトリア軍所属ルードだ。名前を聞いておこう」 「俺の名はクロス。別に討ち取りに来た訳じゃないが……召喚札師(リスナー)が相対した以上、逃げる訳にはいかないな」 「なるほど……まぁいい、ここのところ鬱憤がたまりにたまっているでな。貴様を打ちのめして憂さ晴らしとしよう!」  両者共に臨戦態勢となり、同時に二人の周囲に円環(サークル)が張られて結界となり召喚札師(リスナー)の戦いが始まる。   屋内とは言えそれなりに広く、円環(サークル)内には机などの障害物が含まれる。やや薄暗いものの、戦うには充分だろう。  とは言え、魔力が全快ではないのもありクロスはやや不利、それに拍車をかけているのはルードが使う仲間(アセス)の属性だ。 「いでよ陸戦機甲兵カルファ!」  腰のカード入れより引き抜いてルードが召喚したのは、頭に二本の鳥脚がついたような出で立ちの機械。頭の部分には左右ニ門ずつのボウガンが備えられている。 (やはり人造仲間(ゲアセス)か)  人造仲間(ゲアセス)とは人の手により生み出された存在を仲間(アセス)としたもの。古いものではゴーレムなどがあり、ルードのそれは金属を用いた機械。  総じて人造仲間(ゲアセス)は四大元素の加護を受けられず、必然的に属性というものを持たない。無属性の仲間(アセス)になりうる生物自体は天然自然にもいるにはいるものの、人造仲間(ゲアセス)は自ら製作したりできる為に体制さえできてれば無尽蔵に補充が効くのである。  また、造られる為に初見で特性を見抜きにくく、そうした面でも厄介であった。  クロスは同じ無属性であり、また道具や機械の扱いに長けたグレムリンのハントを召喚しようとも考えカードに手をかける。グレムリンは初めて見る複雑なからくりでも簡単に分解できる為、機械には滅法強いからだ。  だが今までの経験からグレムリン対策をしていると推測、カード入れから召喚すべき仲間(アセス)をハントではないものに変えた。 「道を切り開け、ギルツ!」  クロスが召喚するのは黒豹の獣戦士ギルツ。軽鎧に黒い毛並みと半月形の刃を武器とする、勇猛な獣戦士と言われる豹戦士の中でも特に勇ましい一族である。 「黒豹戦士……なかなかの相手だが、果たしてこのルードの人造仲間(ゲアセス)相手に勝てるかな?」  黒豹戦士ギルツを見てもルードは特に驚かず平静を保っている。それに関してはクロスも織り込み済み、ギルツもまたクロスと同じくルードがかなりの召喚札師(リスナー)なのを感じ取り静かに指示を仰ぐ。 「マスター、ご命令を」 「……いつも通りだ。先陣は任せる」  生真面目な性格のギルツは普段と変わらぬクロスの指示を受けたものの、彼が全快ではないのに気づき、闘志をさらに高める。  自分を最初に出すというのは流れをこちらに掴むためのもの、未知数の相手に対して少しでも有利に立とうというクロスの思惑。  体を一旦沈めて片手を床につけて低い姿勢を取ったギルツが一瞬で姿を消し、目にも止まらぬ速さで縦横無尽に円環(サークル)内を駆け巡る。  対する陸戦機甲兵カルファは向きだけはギルツの動きについてきており、常に真正面を捉えるように方向転換を繰り返す。  ここで召喚札師(リスナー)呪文(スペル)などの支援をするという方法もあるが、お互いの手の内が見えてない状態ではカード一枚からでも予測と対策をされる。無論出し渋る事によって勝機を逃すというのもあり得る為、適材適所の判断と一手ごとに次の手をどう練るかを求められる。 (ギルツを見ても動揺は無し……余裕があるのか、ただのポーカーフェイスか……)  慎重に事を進めたいが自身の魔力に余力はない。召喚の維持の事も考えると、ギルツのそれは小さいとは言えずこうしている間にアミエラが逃げてはワンドの為にもならず、自分がワンドから離れてる間に何かある可能性も大いにある。  どの道膠着状態となっているのをどちらかが炙り出さねば維持されるならば、と、クロスはカード入れよりカードを素早く引き抜き先手をかけた。
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