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第四章四節

――リックランプ東側の街、オークション会場近く。  日も傾いて来たその場所に到着したクロスとアミエラだったが、入り口に立つ衛兵の多さなどから近くに寄れず離れた路地から様子をうかがっていた。 「雑魚くらいなら何とかなるだろうけどさ、上級召喚札師(リスナー)と当たると面倒だからなー……それにイケメン召喚札師(リスナー)もお疲れだしね」  ため息混じりにそう言って細くした目を向けるアミエラにクロスは特に言い返さず、ジャケットのポケットからクッキーを取り出してかじり、肩に乗るグレムリンのハントにもそれを手渡して食べさせていた。 「魔力の方は全快でなくても何とかなる。問題は……」  言いかけたクロスの目の前に召喚札師(リスナー)の使うカードの裏のデザインが突然現れ、それがアミエラが差し出したものだと認識するのにクロスは少しだけ時を要した。  それをゆっくりと受け取るクロスだが、それがすぐに訳有のカードだと理解する。 「いつ盗んだんだ」 「なんのことかあたしわかんなーい」  棒読み気味に明るく答えながらそっぽを向くアミエラにクロスは小さく舌を打つが、懸念していた問題が一応解決した事は素直に受け入れる。  クロスの懸念していたのはカードの不足。道具(ツール)呪文(スペル)といったカード群は消耗品という性質の為、連戦の後は不足するものだ。  昼の大会で商品としてカードを受け取ってこそいるが、それが自分に適したカードとは限らない。事実、受け取ったカードでクロスに適するのは数十枚のうち数枚のみ、残りは価値こそあれど手に余るもの……もちろん、軍資金としては中々の数ではあるのだが。  アミエラが手渡したのは大会にて使い切ったエスケープを始めとした実用的なものであり、余裕はないが無いよりはマシである。 「ほら、早くお礼してよ?」  軽く前に出した手を手前に動かしてそう言ったアミエラに、クロスは何も言わずにカード入れからカードを数枚抜くとそれを手渡す。持て余していたカードの中から、アミエラに適している……と思われるものを選別し交換成立とした。 「毎度〜」 「で、どうするんだ。お前の手配書が出回ってる辺り、忍び込むにしても正面突破にしてもガードは硬いだろ」 「まーね。あたしもあんたらに会う前に一仕事したからね。でもま、あいつらの事は調査済みだよ。ちょうど戻ってきたね」  クロスに答えるアミエラが左手を前に伸ばすとそこへ何かが止まり、少しずつ新緑色の羽根を持つ鳥となって姿を見せた。姿を消せる鳥を使い、偵察していたらしい。 「……そいつを使って調べてたのか」 「この子とかは戦闘には向かないけど、その分偵察とかに向くからね。ま、姿見えないくてもわかる魔物もいるし、勘がいい人間とかでもバレたりする時もある。あの雇い主の男の子とか」  労をねぎらうように鳥を撫でてカードに戻したアミエラがクロスに目を向け、ワンドを指す言葉を口にする。ふとクロスは昼間にワンドが何かに気づいて空を見上げていた場面を思い出す、その時のことを言っているのだろう。 「……ただの亡国の王子、だろ。それ以上は興味ない、な」  冷淡にも聞こえる言葉を口にしたものの、ワンドの持つ不思議な力の事はクロスも気にはしていた。それに関してはクラブス、よりはルイの方が詳しく知っているような気もするが、恐らく問い詰めても言わないだろう。  何より知ってしまう事がワンドのプラスにはならないと直感できる。少なくとも、今はまだ言及すべきではない。  クロスの反応に「ふーん、そう」とアミエラは素っ気無く答えてから少しだけ路地から身を乗り出し、改めてオークション会場周辺の様子を覗いながら偵察した内容について話し始める。 「あの建物の正面入ってすぐの所はカード以外の品物、カードは奥の方のショーケースに飾られている。その数はざっと百数十枚ってところ。まぁ全部は難しくてもレアカードだけに絞れば時間はそうはかからないから、なんとかなるはず」  見取り図はない、しかし召喚札師(リスナー)にとって自身が何のカードを持ち得るのか、相手の仲間(アセス)の種族から予測できるカードの傾向などを把握する為に記憶力は良い。  アミエラの話から頭の中に想像図を浮かべていき、クロスはさらに彼女の話に耳を傾け続ける。 「責任者の名前はルード・ガントレット。デミトリア配下の上級召喚札師(リスナー)の一人、無属性使い。それ以外の奴は大した事がない下級召喚札師(リスナー)が何人かとふつーの警護兵、ルードさえ何とかすればいけそうね」 「……正面突破するか?」 「それじゃあ余計な力使うでしょーが。こっそり忍び込んで、ごっそりいただくよ」  オークション会場となる建物の周囲はデミトリア兵が人数をしっかり揃えて構えている。だが召喚札師(リスナー)ではない一般兵だ。  警戒する兵達に向かってクロスとアミエラは堂々と進む。しかし、兵達は存在を捕らえられずに素通りさせ、中の兵が外の兵と入れ替わるのに混じって容易く内部へと入った。  何故存在を悟らせずに侵入できたのか、その答えは至極簡単である。 (幽体の羽衣、か……)  そう思うクロスは身体を覆い隠すように長く透き通る衣を巻いていた。幽体の羽衣、極めてレアリティの高い道具(ツール)カードであり一度それを纏えば完全に景色と同化して姿を隠せるというものだ。  そしてもう一枚、転写鏡(コピーミラー)の呪文(スペル)カード。これにより本物の幽体の羽衣を写し取って同じカードを作り出して使用、二人分を確保するに至る。  幽体の羽衣を纏っている者同士は互いに視認ができるため、アミエラとはハンドシグナルなどでやり取りはできる。入り口から入ってアミエラの先導でエントランスホールを進み、ガラスのケースに入れられた絢爛豪華な品々を横目にカードの飾られる場所を目指す。  が、その手前でアミエラは止まり、クロスも合わせて足を止めて警戒を強める。カードの展示場前で話す者がいる、人数は数人程で怒鳴り声が聴こえた。 「まだ盗賊は見つからないのか! それとバエルが探してるという王子とやらもな!」 「も、申し訳ありません。リックランプギルドの監視も強く、この街では強く行動しては我らの活動に支障が出てしまいますので……」  話しているのはデミトリア軍上級召喚札師(リスナー)のルードとその部下達だ。憤慨している様子のルードはその場を行ったり来たりを繰り返し、その様子を覗うクロスの背後にアミエラがつく。 「どう?」 「……手強いのが一人、だな。あいつか」  召喚札師(リスナー)特有の雰囲気から、ルードが手強いとクロスは認識できた。配下の兵達は召喚札師(リスナー)である者とそうでない者とがいるが、こちらが二人で仕掛ければ強行突破もできるだろう。
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