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第四章二節b

 うんうんと頷く仕草の後、ワンドは何か思いついたように手のひらに拳を軽く打ち「それなら提案があります」と前置きをしてアミエラ、そしてクラブス、クロス全員が確認できる位置に直ってから話を切り出した。 「今度のデミトリア軍のオークションの物をこっそり盗んじゃいましょう」 「賛成!」 「断る」  ワンドの意見に大きく手を上げて明るく答えたアミエラに対し、クロスは対象的に冷ややかに答え、ワンドの前に行くと両頬を軽くひっぱり指を回し始める。 「お前泥棒とかって嫌なんじゃないのかよ。それに少しは相手の警備とかの事も考えろ」  あぅあぅとクロスが頬を回しながら話す間ワンドは唸り、それを止めようとクラブスはするがクロスの言い分もわかるのであえて止めには入らず、指を離した反動で後ろにこけるワンドを代わりに支えた。 「あらあら? イケメン召喚札師(リスナー)は怖いの? あんなに強いくせに意外と小心者ね、てかどうて……」 「……てめぇと違ってこっちは雇い主に何かあると面倒なんだよ。俺が賛成したとしても上で寝てる聖騎士は大反対するだろうよ」  ニヤニヤと笑うアミエラに対し、声を若干荒げながらもクロスは冷静さを保ち続ける。確かに、アミエラの協力を取り付けるという意味でもデミトリア軍のオークションの品を盗み出すのは相手への痛手に繋がること。  今後の事を考えておくと、楔として機能する事は考えられる。  が、やはりワンドの身分などを考えた時にそれが果たして良いものなのか、またこの場にはいないルイが猛烈に反論するのは、ワンドにも容易に想像がついた。 「なら、今から盗みに行こうか? どーせあたしもオークションの品は盗むつもりだったしね。そしてこれはあたしが個人的にやる事であって、たまたま通りがかったイケメン召喚札師(リスナー)は巻き添えになった事……何も知らない王子様には関係の無いこと……それなら文句はないんじゃない?」  アミエラの意見にクロスは口元に手を当てて考え始める。屁理屈としか言いようのないものだが、一応の形はできてはいる。   とは言え、情報が何もないのに飛び込む危険性は大いにある。さらに言えば、アミエラの提案には大きな欠陥もある。 「僕も行きます!」 「ついて来ちゃ意味ないだろ。あくまでお前は知らない事、にするんだからな。 だからといって、お前から離れる事もできない……」  クロスはワンドから離れねばならない事を気にしていた。無論、この宿が安全なのは間違いないものの、万が一がないとも言い切れない……そして、クロス自身は何かを思い返しているのか、途中で言葉を途切れさせてしまっていた。  それを察してか見守っていた宿の女将アンナは「仕方ないね」と言い、着ているエプロンのポケットから黒い木製のカード入れを取り出す。 「何かの時は私が必ず守ってやるよ。それならクロスも動けるだろう?」 「そういう訳には……」 「私以外にも他の宿の用心棒にも声かけるから心配ないよ。大丈夫、もうあの時の二の舞いになんてさせないよ」  ふと、ワンドはクロスがいつになく弱気に見えた気がした。そして会話から過去に何かがあり、それがクロスを慎重にさせているのだと。  アンナに後押しされたクロスは「わかった」と答えて承諾の意を示し、ワンドの傍へ行くとカード入れからカードを引き抜いてワンドに手渡した。   「何かあったらこのカードを使え。召喚札師(リスナー)でなくても使える呪文(スペル)だ」  手渡されたのは祈りを捧げる巫女を包む光の膜が画かれた【結界】のカード…その効力は自らに対する脅威を退ける結界を張り巡らせるもの。  呪文(スペル)カードの中でも護身用に分類されるものであり、魔力を使い切るなど満身創痍の召喚札師の身を守る術のひとつ。性質上カード側に魔力が蓄積されておりそれを消費し発動される為に使い捨てだが、召喚札師(リスナー)でなくても使えるカードであり旅人などが護身用に持つ事もある。 「クロスさん、ありがとうございます」 「……なるべく早く戻る。クラブス、聖騎士には適当に言っておいてくれるか」 「ハイ、承知しまシタ」  ワンドの頭を軽く撫でたクロスは宿の出入り口へと向かい、それを追うようにアミエラもそそくさと歩いて一旦ワンド達の方へ向き直る。 「そんじゃま、いってきまーっす」  満面の笑みと明るい言葉のアミエラとは裏腹に、先に外へ出たクロスは神妙な面持ちと心構えで静かに深呼吸をし、アミエラとの共闘へ気持ちを切り替え始めた。
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