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第四章二節a

 ゆっくりとした足取りで階段を降りてきたクロスに対し、囲炉裏前に座るアミエラが自由になった手を動かすのをやめてムッとした表情で視線を向け、その後クラブスと共に慌ただしく降りてきたワンドには笑顔を見せられたのもあり苦笑で応える。   囲炉裏を挟んでワンドがアミエラと相対し、ワンドのすぐ横にはクラブスが座る。クロスは階段の手すりに寄りかかるように佇んで静観の姿勢を示し、改めてアミエラに事情を丁寧に説明するワンドを見守っていた。 「……という訳で、あなたにお願いしたくてここに来たのです。無理矢理になってしまった事は、本当にごめんなさい」 「君は別に何も悪くないよ。悪いのはすかした顔であたしを負かしたそこの召喚札師(リスナー)の方だしね」  丁寧で穏やかで、子供らしさの中に王族らしい育ちの良さを覗かせるワンドの言動にアミエラも耳を傾ける。一方で、そんな彼に付き添うクロスには細めた目で視線を送って不快感を示し、しかし目を閉じていた為に届かず改めてワンドと目を合わせた。 「召喚札師(リスナー)デミトリアの事は召喚札師(リスナー)の間じゃ有名、ふつーに考えれば立ち向かうより部下になる方が利口だけどね……でも、君はそんなデミトリアを倒そうと、倒せるだけの召喚札師(リスナー)を探している、か。そして白羽の矢があたしに立てられたってわけね」  自らの言葉として出しながらアミエラはワンドの言葉を整理する。デミトリアを倒せるだけの実力者……世界中に数多いるであろう召喚札師(リスナー)の中から名が挙がった中に自分はいる。  ハッキリ言えば実力に自信はある。が、比較対象となる相手が自他共に認める最強の召喚札師というのもあり、大抵の者の自信など軽く吹き飛んでしまう。  唇に人差し指を当てながら沈黙するアミエラの答えを待つワンドの鼓動が早くなる。正座する膝上に置く両拳にも、力が入る。  やがて何か閃いたように一瞬目を大きく開いたアミエラの唇から人差し指が離れた刹那、彼女は一呼吸の後にワンドに答えを提示した。 「道中であたしの仕事に協力してもらうのと、護衛としてならついてってもいいよ。あたしは自信はあるけど、そこの人に負けてるから期待に応えられないかもしれないし、もしかしたらもっといい召喚札師(リスナー)見つかるかもだからね」  条件付きながらもワンドの依頼を形式上引き受ける事を示すアミエラ。表情は穏やかで裏もない感じではあり、ワンドも「ありがとうございます!」と大きな声で答えるものの、あまりにあっさりと決まった事にクロスが目を開け警戒心を強めた。 「……仕事に協力ってのは、盗賊の仕事か」 「当然」  やり取りを聞いてワンドが固まる。そして数秒の後に目を大きく開けてあたふたとし、クラブスがすぐに両肩に手を置いて気を鎮めさせる。 「落ち着いてクダサイ」 「そ、そんなの無理です。悪い事、する訳にはいきませんし……」  俯き気味に小声になるワンドの反応は、アミエラも予想した通りである。育ちの良さ故に悪事には加担できない、言い換えれば純粋さを持っている事の裏返し。  戸惑うワンドの様子を微笑ましく見ながら、アミエラは聞き取りやすくよく通る声でゆっくりと、自らについて語り始めた。 「大丈夫大丈夫、あたしが狙うのは不正に得た資金やカードだけ……義賊って訳ではないけれど、可能な限り元の持ち主に返すようにもしてるよ。お金とかにも本来あるべき場所、元あるべき場所、相応しい場所があるからね。もちろん、その過程で悪い事をほんのりしてたりするけどね」  情報にはなかった事実に一応の納得をしつつクロスは真実かわからないと警戒するものの、聞く耳をしっかり立てて聞いているワンドは「そうだったんですねー」と感心する様子を見せ、あっさり信じてしまっている事にクロスは頭を抱えた。
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