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第四章一節

STORMー嵐の如くー  昼も過ぎた頃。リックランプの街の南部にて召喚札師(リスナー)の野試合が行われていた。  この街ではよく見慣れた光景、よくあるイベント。しかし、その場は異様な雰囲気に包まれている。 「……暇潰しにもならんな」  仮面の男バエルはそう言いながら目の前に倒れ伏す男を見下ろしていた。伏した男は息も絶え絶えであり、力が入らぬ手足をバタつかせながらバエルからすぐに離れようともがく。  何が起きたのか、その一部始終を見届けた観客や召喚札師(リスナー)達は言葉を失い静まり返っていた。一方的、あるいは恐ろしい強さ……ひとしきり辺りを見回してからバエルは「強い召喚札師(リスナー)はいないのか?」と問を投げかけ、恐る恐るそれに答えたのは観客の一人。 「べ、別の場所で何連勝もして商品をかっさらった奴がいるって……」 「……ほう? 詳しく聞かせろ」  バエルは直感していた。ワンドの護衛たる召喚札師(リスナー)が強者だということ、そして強者を求めればいずれ辿り着くと。掴んだ微かな可能性に、確信にも似た直感を抱いていた。 ――  同じ頃、リックランプの南西部。通称召喚札師(リスナー)の休息所と言われる宿屋街。  宿泊施設の集まるこの場所には召喚札師(リスナー)が寝泊まりしている。その中の裏道を入って外見からは存在がわからぬ宿に、ワンド達はいた。 「はー……すごいですね」  味わい深い木造の室内。囲炉裏と畳、和を思わせるその様式は何処か懐かしく落ち着いた。  その壁側にあるのは様々な召喚札師(リスナー)達の功績を記した新聞記事の切り抜き、あるいは彼らが大会等で勝ち取ったトロフィーやメダルが無数にあり、ワンドは口を開けて目を輝かせながら見ていた。  そんなワンドの姿を微笑ましく見守るルイだが、すぐに気を引き締めて「本当にここは安全なのか?」とカウンターにて記帳するクロスに訊ねる。  すると、クロスが答えるよりも前にカウンターごしにいる恰幅の良い初老の女性が大声で「当然だよ!」と答え、クロスを押しのけてカウンターより身を乗り出す。 「このアンナの宿はリックランプの商人ギルド公認の召喚札師(リスナー)専門の宿! 泊まってる客についてギルドの許可なく口外なんてしないよ! それにしても、まさかクロスが大勢連れてくるなんてねぇ……仕事とは言え珍しいんじゃないかい?」  女性の名はアンナ。宿屋アンナの宿の女将であり、リックランプでも有名な存在である。  台帳に書き込みを終えたクロスは「また厄介になる」と一言返すが、アンナはクロスを見ずに台帳を手元に引き、カウンターに駆け寄って来たワンドと目を合わせた。 「お世話になります!」 「うんうん、良い子だね。一番の部屋を用意してあるから夕飯まで休んでな、おばさんも腕によりをかけて美味しいもの作るからね」 「はい、ありがとうございます!」  笑顔と優しい言葉使いで応対するアンナにワンドも笑顔で応えてお辞儀をし、クラブスと共にカウンター横の階段を登って二階へと向かう。  遅れてルイも後を追うが、階段の手すりに手をかけたところで一度振り返り、囲炉裏の所に座ってそっぽを向くアミエラに目を向けた。 「……言っておくが、逃げようと思うなよ」  静かに釘を刺してからルイは二階へと上がり、その場に残るアミエラは舌打ちをしてから両手首に巻き付く黒い紙を何とかして千切ろうとする。  黒い紙は魔法を封じる聖水で浸して作られる簡易的な拘束具。召喚札師(リスナー)を始めとする魔力由来の能力者はこれで縛られると能力を使う事ができなくなり、さらに単純な力で引き千切る事もできない。 「ほんっと最悪! どーしてあたしがあの坊やの世話なんかしなきゃいけないのよ!」 「奉仕しろとは言ってない。そもそも……」  クロスが受付を済ます間に事情を聞いていたアミエラだが、当然それを断った。それに対するクロスの冷静すぎる応対に手元の台帳で頭を叩いたアンナが「あんたも二階行ってな!」とクロスを去らすよう促し、渋々クロスは足下でクッキーをかじるグレムリンのハントを呼んで二階へと上がって行く。  クロスはこの宿に何度も来ているので構造や女将の人柄も把握している。ワンドの部屋は二階に上がって突き当りの手前の部屋、その両隣はクロスとクラブス、ルイとアミエラの部屋として借りた。  幸い今は自分達以外の客はおらず、仮にいたとしても仕事中というのを知っている女将はワンドらが目立たぬように努めてくれる。  と、部屋へ向かおうとすると引き戸が開いてワンドが廊下に元気よく姿を見せ、クロスの所へとやって来て笑顔を見せた。 「クロスさん、いいところですね。ありがとうございます」  純粋な眼差しと思い、子供故の純真さはクロスには強烈な印象を与えた。そして、臆することなくハントを手に乗せて戯れる姿には召喚札師(リスナー)としての素質……とは異なるものが見え隠れしている。 「クラブスとルイは?」 「二人共お部屋にいます。外に出なければいいとルイさんから許しも貰ってますよ」  頷きながらクロスは何かを思いつつルイの部屋の戸に目を一度やり、次いでクラブスの部屋の戸に目をやってから再度ワンドを見下ろす。 「半ば無理矢理になったが、アミエラと接触できた。この次の事を考える必要があるな」  ワンドに話を切り出しながらも、クロスはこの後の展開を推測する。アミエラは女将のアンナが仲介として交渉の場を作ってくれるだろう、こちらの仕事内容をすぐに察して説得役を買って出てくれた。  上手く話がまとまればアミエラとワンドの雇用関係が成り立つが、その際の報酬をどうするかが問題だ。  雇用関係となる以上、その内容に見合う報酬は必須。逆に報酬が良い程に依頼内容も難しいとも言える。  今、ワンドが支払えるであろう報酬は王家の指輪程度。それ以外として古の契約書の断片もあるが、それは例外だろう。 「報酬はアミエラさんの欲しいもの……ですよね。何がいいのでしょう?」 「カード、だろうな。召喚札師(リスナー) にとって金以外だとそれが一番の報酬だ。問題は相当高く付くって事だ、ボランティアでやる物好きはいない」  腕を組んで話すクロスが何かを考え、それを察してワンドが疑問を投げかけようとするとちょうど階段を上がって女将のアンナが顔を覗かせ目があった。どうやら、交渉の場は作れたらしい。 「……あいつらはいた方がいいだろ」 「いえ、クラブスだけ呼んできます。ルイさんは少しお休みしたいということですから」  やや言いにくそうなワンドの話を聞きクロスはルイの休む理由を察する。力の抑制、その理由にはいくつか理由はあれど、今はまだ詮索する時ではない。  ルイもまた、戸の向こうでワンドがクラブスを呼んで共にクロスの元へと赴くのを察知しつつ、戸のすぐ前でうずくまっていた。 (全てはワンド様の為に……私は……)  強い意志がルイの支えとなり、そしてそれが抑制の要となる。しかし、同時に彼女の心に宿る思いを苦しめてもいる。 「……皆、私の使命に巻き込んですまない。本当に、申し訳、ない」  強く握られる左手にはカード入れが、その中の仲間(アセス)達に謝罪するような言葉を呟きながら、ルイは一人思いを抱え続ける。
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