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第三章七節

 音が静まり視界が戻ると、円環(サークル)中央にはダインがおり、雄々しいたてがみを鋭い爪を持つ脚に掴んで押さえつけられていた。  爪の主は深緑と青紫の色合いを持つハヤブサにも似た猛禽類、握力を持ってたてがみを掴んで押し倒そうとしてるもののダインもまた足の力を緩めず、鍔迫り合いの如くその場から身じろぎしつつ動きを封じ合っていた。 「それがお前の仲間(アセス)か」 「名前はナギサ、深き森に住まう擬態能力のを持つ猛禽類の魔物ネイファルコン……まさか露呈されるなんて、ね」  魔物ネイファルコン。擬態能力を持つ森の暗殺者とも言われる猛禽類に似た魔物。クロスも名前は聞いたことがあるが、実際に見るのは初めてであるほど姿を捉えるのが難しい。 (ダインが押しきれないか……翼が傷ついていても相当な力だな)  ダインによる引っ掻きによりナギサの左翼には小さな出血が見られる。が、ダインをたてがみを掴んで押さえつけていられる事から小柄な身体には似つかわしくない力を秘めてるのがわかった。  無論、ダインも全身に力を入れて押し返さんとしており、それに負けないようにナギサも押さえつけているという一進一退の状態。ここからは、召喚札師(リスナー)の支援が勝敗を分かつ。 「呪文(スペル)発動バインドアース!」 「呪文(スペル)発動プロテクトウィンド!」  互いに呪文(スペル)を発動し、クロスが発動するのは大地を割って大木の枝が相手を拘束するバインドアース。対するアミエラが発動するのは仲間(アセス)に対するスペルなどを防ぐ風のバリアを作るプロテクトウィンド。  対照的なスペルだが、さらに詠唱してからの発動時間も異なる。大地を割って迫るバインドアースは捕らえるまでにやや時間がかかり、プロテクトウィンドは即時に仲間を守る壁となってこれを防ぐ。  同時に呪文(スペル)使用による魔力の消費、さらにバインドアースによってダインの足元が僅かに揺れ、これによりダインが足を滑らせて姿勢を崩してしまう。 「そのまま仕留めてしまって!」  アミエラに応えるように甲高い声を上げたナギサがダインの巨躯を一度持ち上げ、力強く地面に叩き伏せる。が、激突の瞬間にダインの姿が消えてカードに戻り、回転しながらクロスの手元へと戻って行く。  一瞬、アミエラは呆気に取られるが冷静さをすぐに取り戻すと共に舌打ちをし「エスケープ……!」と言葉を漏らす。 「呪文(スペル)発動エスケープ。自分の仲間(アセス)を強制的にカード化させて疲弊(ダウン)状態にする」  冷淡にそう話すクロスの手元にはダインとは別に爆発を背景にジャンプする人が画かれたカードが握られ、直後にそのカードの隅にあった数字がゼロへとなって消滅した。  強制的にカード化させる代わりに仲間を疲弊させるというカード……しかし再召喚に時間がかかる破壊(ブレイク)と引き換えと思えばかなり安全策であり、召喚札師(リスナー)にとっては基本的な呪文(スペル)カードの一枚でもある。 「エスケープで戻したところで、今のあなたには代名詞でもあるファイアードレイクは召喚できるのかしらね?」  エスケープの使用によりクロスはポイントを一つ取られる形となる。次に召喚した仲間が疲弊だろうと破壊だろうと敗北する。  加えてクロス自身の疲労もピーク近く、ここでファイアードレイクのエックスを呼び出したとしても、短時間しか維持できないのは明白だった。  アミエラの挑発にも似た問いに対し、クロスは自身を案じるワンドに一度目をやって頷いて応え、静かにダインのカードをカード入れに戻してから別のカードを引き抜く。 「あんたには悪いがその仲間(アセス)破壊(ブレイク)させてもらう。仕事の時間だ、セレッタ!」  残る魔力をカードに込め、クロスが召喚するのはファイアードレイクのエックス…ではなくセレッタという名前の仲間(アセス)。  カードより飛び出るように現れるのは青白い体色と魚にも似た鱗とヒレを持つ水馬の魔物ケルピー。蹄には水を纏い、レースのような美しさを持っている。 「やっと僕の出番のようですが……その身体で僕の力を引き出せるのですか?」 「エックスを呼び出すよりは残ってるさ。それより……」 「わかっていますよ。我が主たる貴方の意向にはお応えしましょう」  セレッタと呼ばれたケルピーは人語を話してクロスの状態を把握する。弱音もなく態度も普段と変わらないが、余力はあまりない。  しかし闘争心は折れてはおらずその原動力となっているのがクロスを見守る存在……ワンドにある事も理解する。  対するアミエラはクロスの召喚したセレッタに少々驚きの表情を浮かべたが、すぐに冷静になって身構え続けていた。 「ケルピーなんてずいぶんセンチメンタルなこと……男に付き従うケルピーも珍しいけど、ね」 「故あって我が主をクロスにしたまでの事。お嬢さんとは、あとでゆっくりお話させてもらいます」 「そうね、あなた達が勝てれば……ね!」  アミエラと会話するセレッタは静かに足下に力を入れ、力強く腕を振ってナギサに合図を出した彼女の動きに合わせて蹄に纏う水を大きくして足下を水浸しとする。  水辺に住まい、水を操り水を疾駆する魔物ケルピー。かなりの神経質で同性にはまず心を許さないとされている珍しい魔物だ。
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