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第三章六節

呪文(スペル)発動…」 「それ、いただきね」  突然、クロスは手にしていたはずのカードが弾き落とされしまい、すぐに拾う間もなくカードの一枚は宙を舞ってアミエラの手元へと届けられてしまう。  これには会場からもどよめきの声があがり、見守るルイとクラブスもまた同じである。 「クラブス、今のは……」 「恐らくアミエラさんの仲間(アセス)でショウガ……姿が見えないとなると特定がデキマセン」  透明というのは視覚に頼るものにとって絶大な効果を発揮する。正体不明のそれがもたらす焦燥感、重圧は敵のペースをかき乱すのにもってこいである。  クロスが使おうとしていた呪文(スペル)をアミエラは確認し「ブラックスモークね」と漏らすと、カードを手に持ちながら自身のカードを引き抜く。 「呪文(スペル)発動【霧の呪縛】。追加コストとして呪文(スペル)カードのブラックスモークを使用、条件達成により対象は相手の仲間(アセス)のみを対象とする」  追加コストを支払うタイプの呪文(スペル)が発動され、円環(サークル)の中に薄紫色の怪しい霧が立ち込め始める。追加コストの支払いにより条件を満たすと範囲や効果が強化されたり効果が変わるため、この手の種類は状況に応じた使い方ができる。  すぐにクロスは対応しようとするが、先程の事もありカードを切るかを一瞬だけ躊躇う。  しかしもたもたしていては霧の呪縛の効果によりダインの能力を低下されられてしまう。魔法耐性が弱いダインに、呪文(スペル)による能力低下は倍増するからだ。 「道具(ツール)使用、魔除けの火種!」  クロスがカードを引き抜いて魔力を込めて空中に投げると、カードが爆散して無数の火の粉が降り注いで霧に触れるとそれをかき消していく。  へぇ、とアミエラが声を漏らすも、すぐに何かにアイコンタクトを交わし、直後にダインの左前足が大きく上げられ転倒させられてしまう。  転倒の衝撃が周囲に響いて土煙を巻き上げるもダインはまだ健在、クロスも驚く事なく冷静さを保って次なる一手を思案する。 (ダインがデカくてよかった。だが……)  ほんの一瞬だが、クロスはダインの足下より不自然な動きを見せた霧に気づいた。それは何かが通った事による風が吹いた事によるもの。  前足とは言え巨体のダインを転倒させたとなると、単純な力もそれなりにあると推測がつく。  召喚しているダインを戻すという選択肢はある。その場合、ダインは疲弊(ダウン)状態となるので点数を相手に与える事となる。  しかし、戻す瞬間は隙であるのも確か。それを突かれて破壊(ブレイク)されては意味がない。  アミエラも選択の一つとしてそれを狙っているだろう。それを切り抜ける為の術もあるが、すぐに使う事はできない。  連戦により呪文(スペル)カードはほぼ使い切っている。残るものも使用回数も僅かで、それが切れればカードは消える。  道具(ツール)に関してもダインが扱えるものは限られる。こちらは破損さえしなければ使用回数に制限はないが、仲間(アセス)の適正という別の制限がある。  思案するクロスだったが、ふと、自分のカード入れより思念が心に直接語りかけて来た。 (新参では厳しいでしょう。僕を使ってはいかがです?) (……もう少し戦わせる。まだ何を召喚してるのか確認できてないからな、お前もそれからのがやりやすいだろ)  別の仲間(アセス)の語りかけ。契約した召喚札師(リスナー)にしか聞けない思念による会話。常に戦う時は仲間との対話により柔軟な対応力を見せる、それもまた召喚札師(リスナー)の持つ力の一端である。  状況を打開する方法、攻守における判断力、機を見極めて仕掛けるタイミング……今、翻弄されているダインは見えない敵をどうにかしようと周囲を見回し、何かいるとわかっていても手が出せずにいる。  しかしクロスは予感していた。ダインが見えない敵に対して攻略法となる一手を繰り出せると。 「さーて、そろそろこっちから……」  召喚した仲間(アセス)の維持による魔力消費は何もしなくても行われる。時間を少しかけただけではそこまで致命的ではないが、消耗している状態では別。  アミエラはある程度クロスの魔力を削ったと判断してカード入れに手をかけるが、その瞬間にダインが中空に向かって飛びかかり、空中を右前脚で引っ掻き何かが爪先に当たる。  野生の勘、本能、観察力、いずれにせよ状況が動いたのは間違いなく、二人の召喚札師(リスナー)の間に緊張が走る。 (まさか当てるなんて……やるしかないようね!) (今のでダインも相手を捉えた……なら……!)  互いにカード入れから素早くカードを引き抜き、その間に互いの仲間(アセス)もまた変化した状況に対し即応する。  空中を本当に小さな赤い斑点……いや、傷からの出血が目印となり見えない利点が消え、ダインはそれをしっかりと捉えて咆哮し追いかけ始める。  体躯の差によって追いつくのは容易、しかし相手はかなり小型らしく空中を縦横無尽に動き回ってダインの手を逃れていた。 「決めろダイン!」  クロスの力強い言葉に後押しされたダインが小さな標的を捕らえんとし、力任せに地面を叩いて砂煙を巻き上げ円環(サークル)の中を砂で覆い隠す。  当然中にいるクロスとアミエラも視界を遮られ、さらに砂が目に入らぬように腕で隠す事でほんの少したけ無防備状態が互いに生まれる。 「あたしらを舐めるな! ナギサァァッ!!」  雄叫びにも似た可憐な見た目には似つかわしくない叫びをアミエラがあげ、直後に砂煙の中にいる彼女の仲間(アセス)ナギサが目を光らせて迫り来るダインに向かって飛ぶ。  やがて何かがぶつかり合う大きな鈍い音と、それに伴う衝撃波が円環(サークル)内を、広場にも音として伝わり砂煙を吹き飛ばして一瞬で晴らす。  思わず観戦しているワンドも目を覆い隠し、ルイとクラブスが盾となる動きをしてしまう。
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