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第三章五節

 一人、また一人と、クロスは広場に集まっていた召喚札師(リスナー)達を蹴散らしてほぼ全員倒すに至る。  正直、クロスはある程度勝てればそれでいいとは思っていたが、予想以上にダインの実力が高く、サポートもしやすかったことに自分でも驚いていた。 (運動能力と膂力(りょりょく)を合わせた真っ直ぐな強さ。魔法耐性だけは難があるみたいだが……許容範囲だな)  身体を一度伏せて鼻先をクロスに向けているダインはここまで一度もダメージらしいダメージを負ってはいない。鼻先を撫でるクロスはその強さを分析しつつ、健闘を称えるように手つきも柔らかくする。  かたや圧倒的な強さを見せたクロスの前に挑戦者となるべき召喚札師(リスナー)達は一人もいなくなり、司会進行を務めていた恰幅の良い男もここまでと察して連れ立った者達からカードの束を受け取った。 「10連勝達成の上にサドンデスで37連勝、しかもダウン一つも取られなかった文句のつけようのない強さだ! 此度の大会の商品は全て君のものだ、おめでとう!」  司会の言葉にクロスも小さく息をついて一瞬気を緩めたが、すぐに何かを察して気を引き締め直し、それを察してワンドも拍手しかけた手を止めてクロスと同じ方向に目を向けていた。 「……まだ一人いるみたいだな」  クロスの言葉に応えるようにダインも身体を起こし、ゆっくりとした足取りでやって来た人物と対峙する。青い衣で身を隠す、女性だ。 「あなたの戦いを見ていて興味が出たの、お相手してくださる?」  気品さの中に見え隠れするのは絶対の自信。そして召喚札師の持つ独特の気配の中に見え隠れするのは、彼女の秘められた力。  対峙しただけで強さがわかる。少なくとも、今まで倒した37人の召喚札師(リスナー)とは比較にならないほどの強さ。クロスは手につけている手袋をしっかりとつけ直し「名前を聞いておこう」と述べ、応じる姿勢を見せた。 「普通、自分から名乗るものでしょう?」 「……クロスだ」  ここでクロスが初めて名を明かすと会場全体が一瞬どよめく。クロス、その名前を知っているような反応であり、耳を傾けると彼が名の知れた人物というのがワンドにも理解できた。 「クロスってファイアードレイク使いのクロスだろ」 「特A級とも言われてる召喚札師(リスナー)だぜ」 「そんなのが相手じゃ勝てるわけなかった」  口を揃えてクロスの圧倒的な強さを畏怖するような言葉が並び、ただ一人、動揺してない召喚札師(リスナー)はルイを除けば対峙している女召喚札師(リスナー)のみだ。 「クロス……君があの有名な召喚札師(リスナー)なんだ。ふふっ、それならあたしも名乗ってあげる」  纏っていた青い衣を脱ぎ捨てて女性が真なる姿を露わにする。カールのかかった肩ほどある青い髪に桃色の眼、白く透き通る素肌を包む袖の無い装束にも似た青紫と金の薄手の服。  比較的軽装で露出も少なくないが、左腰に下げられる青色のカード入れの存在が彼女を召喚札師(リスナー)というのを示す証。 「あたしはアミエラ・ハルピュス。残念だけど、あなたの手に入れた栄誉と勲章を全部奪ってあげる」  広場が再びどよめきに包まれる。こちらも名が知れた召喚札師(リスナー)……そして女盗賊にして、ワンド達が探し求めていた召喚札師アミエラその人だから。  クロスも探し人が自ら現れた事には驚きを隠せないが表には出さず、一瞬目をワンド達に送るだけに留めて目の前に現れたアミエラを改めて捉える。 (……さて、どうするか)  連戦をした事でカードもいくつか消耗してしまっている。加えてアミエラが最初から見ていたとしたら、カードを切るタイミングや手の内なども知られているだろう。  さらにダインは傷を負ってはいないが、ここまで維持をさせているクロスの魔力はかなり消耗してしまっている。正直、アミエラを相手に勝てるかはわからない。 (万全なら五分、ってとこか……)  アミエラの強さを大凡でクロスは推測する。単純な魔力で言えば五分、しかし召喚札師(リスナー)の実力は使用するカードの相性などもある為に一概に五分とは言い切れない。  無論、アミエラ側からすれば勝算が充分にあると踏んだからこそ挑みかかった。可憐さの中に秘められた妖しさと、掴みようがない強さを秘めて。 「さっさと始めようぜ。あんたには別に用があるしな」 「イケメン君のお誘いは嬉しいけど……そうね、あたしに勝てたら聞いてあげる」  互いに臨戦態勢となり、地を足で蹴って円環(サークル)を展開。深呼吸をするクロスを案じるようにダインが小さく唸るが、問題ないというのを軽く手を上げて示す。 (アミエラのカードは疲弊(ダウン)狙いが主体、だったな)  疲弊(ダウン)狙いのそれは特殊な能力や魔法などを駆使するのが一般的。種類さえわかっていれば対応もしやすい。  当然、使う側は対応を破る術も用意する。アミエラが無策とは考えにくく、情報にない戦略も用意してると見て間違いない。  いずれにせよ、余力があるとは言えないクロスからすれば一つのミスが敗北に繋がる。ワンドの期待に応える意味でも、負けられない戦いだ。 「それじゃあはじめましょ。可憐に舞え、ナギサ」  カード入れから静かにカードを引き抜いたアミエラが召喚を行い、カードが消えて仲間(アセス)が現れる……かに見えたが、静まり返り何も現れないことにアミエラ以外のその場の全員が呆気に取られる。 (召喚……はしたな。見えないだけか)  冷静に考えを構築したクロスはアミエラが召喚した仲間(アセス)が透明なのだと判断、ダインと目を合わせてから対処に乗り出す。 「手加減はしない! 行け、ダイン!」  カード入れからカードを二枚引き抜きながらクロスが指示を飛ばし、ダインは咆哮をあげてから何かがいるであろう空間に向かって飛びかかり、空を切って着地する。  同時にクロスは手にした呪文(スペル)に魔力を込め、支援態勢に入った。
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