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第三章四節

 クロスが経験に基づいてあらゆる可能性を踏まえながら思案していると、クロスの肩に乗るグレムリンのハントが垂れた耳を立てて何かを察する。それにワンドがいち早く反応して辺りを見回し、遅れてクロス達も広場にやってくる礼服の一団に気づく。  礼服の一団にクロスら以外の召喚札師(リスナー)達の視線が集まり、一団のリーダー格と思わしき恰幅の良い男が前に出て息を大きく吸ってから大きく宣言をする。 「これよりリックランプ商人ギルド主催の召喚札師(リスナー)大会を行う! 試合形式は飛び入り自由の1破壊(ワンブレイク)2疲弊(ツーダウン)の最低3連最大10連戦だ! 商品はAランク道具(ツール)カード【ミスリルトマホーク】にAランク呪文(スペル)カード【ユナイト】、連勝数に応じてさらに追加しよう!!」  召喚札師(リスナー)大会の報せ。待ってましたと言わんばかりに広場の召喚札師(リスナー)達は一斉に歓声をあげて士気を高め、一瞬で熱気に包まれる。  その熱気にワンドは胸の高鳴りを覚えるが、ルイが咳払いをした事ですぐに気持ちを落ち着かせ、代わりと言わんばかりにクロスを見上げじっと見つめ視線を送った。 「……お前は俺の雇い主なんだ、目で訴えずに口ではっきり言え」 「あ、ごめんなさい。クロスさんはやってみたいと思いませんか?」 「悪くないカードだが……野試合やってまで欲しいとは思わない」  ワンドに話させつつもクロスは素っ気無く返答し、カードにも興味を示してはいない。もちろん価値はわかっているものの、大勢の前で戦う事に見合うものかという点で否としたようだ。  そうこうしている内に名乗り出た召喚札師(リスナー)達が円環(サークル)を展開して戦闘開始、大会が始まって大いに盛り上がりを見せ始める。 「……それじゃあ、命令、します。僕の為に商品を勝ち取ってくれませんか?」  躊躇いがちにワンドはそうクロスに告げ、その本心が自分の戦う姿を見たいというものだと察しつつ、クロスはワンドを見下ろしてから小さく息をつく。 「理由は一応聞いておく」 「えっと……珍しいカードを多く持っていれば、アミエラさんの方から来るかな、って」  咄嗟についたウソにしては理にはかなっている。確かにランクの高いカードを保有しているならば小銭稼ぎ感覚で盗みに来るだろう、加えて野試合という形式であるので優勝者を知りやすく、もしこの場にいればすぐに行動に移すこともあり得る。  無論、勝算があれば勝負を挑んでくるだろう。逆に用心に用心を重ねて何もしないでいるかもしれない。あらゆる可能性を考慮しつつも、クロスはワンドの本心に応える事に変わりないと判断した。 「……聖騎士」 「言わなくてもいい。貴様がワンド様の期待に応えられるか見せてみろ」  同じ護衛たるルイの遠回しな承諾を聞いてからクロスはワンドに乗るグレムリンのハントを手に乗せ、カードに戻してカード入れに納めた。  ワンドの望みを聞き入れるのは雇われた身としての義務、同時に自分の実力を改めて見てもらういい機会とクロスは捉えつつ、展開されている円環(サークル)の方へと歩いて行く。  それを見送るワンドは言い出したはいいが一抹の不安もあり、察したルイは「問題ないでしょう」と一言口にし、ワンドが自身を見上げてから沈着冷静な口ぶりでさらに続ける。 「ワンド様のご期待に添えぬようであれば、それまでの召喚札師(リスナー)であったというだけです。気に病む必要はありません……今の私ではワンド様をお守りするには力不足。せめて力が戻るまでは、あの者には頑張ってもらわねばなりませんから」  ルイの中の小さな苛立ちに、クラブスは気づきつつも何も言わなかった。理由は知っているが、今はワンドの不安を拭うのが先決としてワンドの肩にクラブスは手を置く。 「ご心配いりませんヨ。クロスさんなら、必ず勝利を掴んできマス」  今回の大会は自由参加で連勝数で商品が手に入るルールである。  参加の際に規定された連勝数を宣言、それを達成できれば良いというもの。途中で宣言数を変更する事はできず、一度でも負ければその時点でチャレンジは失敗。また、連勝数に満たない内に挑戦者がいなくなった場合でも商品は手に入る。  さらに今回は1破壊(ワンブレイク)2疲弊(ツーダウン)の制約がある。これは対戦において仲間(アセス)の状態が破壊(ブレイク)ならば一枚、疲弊(ダウン)なら二枚になった場合に敗北というもの。  大会によってこの制約は変わってくるし追加制約もあるが、今回は比較的スタンダードなそれであり、連勝数におけるペース配分に気をつければ良い程度。  戦いが終わると同時に新たな挑戦者を主催者が求め、選ばれた挑戦者は連勝数を宣言して戦いに臨む。既に始まったそれは五連勝宣言をした召喚札師(リスナー)が三連勝中、クロスが選ばれ対峙する。 「次の挑戦者……何勝だ?」 「10連エンドレス」  恰幅の良い男に問われたクロスの宣言数に会場がどよめく。エンドレスの宣言はいわば裏ルールのようなもの、最大連勝数に加えて無制限に戦うというものだ。  つまり10連勝を達成した上でさらに挑戦を受け続ける形となる為、後半ほど消耗した状態となる。反面、この手の試合形式で用意されている商品を総取りできる可能性もある。  言い換えれば、絶対の自信を表すという事でもあるので不快に思われる事も大いにある。事実、クロスに対して向けられる召喚札師(リスナー)達の視線も鋭く殺気立っていた。 「てめぇふざけてるのか!」 「ふざけてるかどうかは戦えばわかるだろ。始めるぜ」  対戦相手のスキンヘッドの大柄の男召喚札師(リスナー)の威圧を流したクロスは既に臨戦態勢、早々に円環(サークル)が展開されて対戦が始まる。 「行けアングラ!」  男が召喚するのはアングラという名の悪魔を象った石像の魔物……ガーゴイルだ。対してクロスは何かを思いつつ、静かに右腰のカード入れからカードを抜き、その名を口にする。 「ダイン、思い切り戦え」  中空に投げられたカードよりダンテライガーのダインがその巨躯を現し、力強い咆哮をあげてそれだけで相手を萎縮させ、広場中の召喚札師達も戦慄させる。  その瞬間、戦いを見ていたルイとクラブスは勝敗が既に喫したを察した。 ――  歓声に包まれていたリックランプの広場は、いつの間にか静まり返る。ただの一撃……というよりはダインがただ前脚で払っただけで相手の仲間(アセス)ガーゴイルのアングラは砕け散り、その衝撃が跳ね返り大柄の男は気絶し勝負が一瞬でついた。  そんな状況を近くの建物の屋上より見下ろし、投げ出した足を軽く振りながら口元に笑みを浮かべる者が一人。 「へぇ……? あたし以外で強い召喚札師(リスナー)ってのも久々に見たかも。ふふっ、アナタも興味あるなら、戦ってみよっか?」  青紫の金属のリングを幾重にもつけた細く白い腕を伸ばし、そこにいるはずの何かに声をかけるその人物が捉えたのはクロスの姿。そして、その戦いぶりに目を輝かせているワンドの姿。
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