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第三章三節

 クロス達がいる場所とは別の場所……リックランプ東側の街の一角、オークション会場となる大きな建物ではデミトリア軍が準備に勤しむ。  その場所へ赴く者が一人いた。ゆっくりと入口へと歩いて行き、門兵がその姿を捉えて驚愕するとすぐさま横に避けて背筋を伸ばした。 「ルードはいるな?」 「はっ! 中でオークションの準備の指揮をしております!」  門兵に確認を取ってから扉を開けてその人物は建物内へと入る。広さのあるダンス会場、今回はオークションに利用する為に椅子などが並べられており、特に問題なく作業が進められている。  深海色の髪に目元を隠す銀の仮面、紺碧に金と黒のベルトを所々に巻く独特な服装は身軽さを感じさせつつも威圧的である。きょろきょろと会場を見回しながらルードなる人物を探しているのは、デミトリア軍最上級召喚札師(リスナー)バエル。 「本営の最上級召喚札師(リスナー)バエルがわざわざこんな所に来るとは……抜き打ち検査と言うやつか?」 「抜き打ちの一つ二つをされた所で後ろめたい事もあるまい。別件のついでだ」  兵を連れ立ってやってきたベージュの外套を羽織る大柄の男ルード。デミトリア軍上級召喚札師(リスナー)。  会場をひとしきり見回したバエルは「問題はなさそうだ」と一言だけ答え、さらに続けた。 「ここに来たのは半年前に滅亡させたエメリア国の王子がいると掴んだからだ。それに関してデミトリア様より全権を預かっているが、無理にお前やその部下を使うつもりはない」 「当然だ。例え最上級召喚札師(リスナー)であろうとも、自分の場に断りなく入られて素直に応じられるか」 「もし協力して貰えるならば本営に戻れるよう進言しよう。いつまでもここで燻るのもガラではあるまい」  無理強いはしないとしつつも、半ば協力させようとするバエルの魂胆を見抜きつつも、ルードは「確かにな」と言い、右隣の兵に指示を与えた。 「街全体に捜索隊を出せ、ただし過度に目立たないようにしろ。王子とやらの護衛はどうだ?」 「直下の護衛の女騎士が一人、従者のからくり人形が一体、そしてどうやら凄腕の召喚札師(リスナー)を雇ったらしい。何かあれば報告する」  ルードにワンドの護衛に関して伝えたバエルはオークション会場から出て行き、それを見送ったルードはため息まじりに「気に入らんな」と漏らし、左の兵がさらに続ける。 「確か二年前よりデミトリア様の直下の召喚札師(リスナー)となった者……でしたね。好きにさせてよろしいのですか?」 「気に入らないが、奴の強さだけは間違いなく本物だ。デミトリア様が特例的に最上級召喚札師(リスナー)としただけはある」  通常、召喚札師(リスナー)の階級を表す際の最上位は上級やS級などが一般的、しかしデミトリアはそれ以上を示す為に最上級という位をバエルに与えている。それだけの実力を持つというのは、ルードも間近で見たことがある為に それだけは認めざるを得ない。 「だが好きにされる訳にもいかない、振り切られるだろうが監視をつけておけ、奴よりも先にエメリア王子を捕らえこの催しも成功させれば本営にも確実に戻れるからな」  二年前に突如として配下となり今ではデミトリアの片腕というバエルの存在はルードは気に入らないらしく、妨害とまでは行かずとも動向を気にしていた。  だがデミトリア軍は実力主義。意見をするならば力でも示さねばならない。 「それから、俺のカードを根こそぎ奪った例の盗賊はまだ捕まらないのか?」 「はっ、未だ捕縛には至ってはいません。そちらも引き続き捜索します」 「任せたぞ。まったく……面倒事は連続して起こるものだな」 ――  所変わりリックランプ中央区。休憩を兼ねた情報整理の為、ワンド達は喫茶店……ではなくその裏の広場に来ていた。  この広場は召喚札師(リスナー)達の為の場の一つ、腕試しをし合うもよしカードのやり取りをするのもよし、比較的自由な場として機能する。  クロスに対して視線が集まっているのをワンドはひしひしと感じながらも微笑み、見兼ねたルイが一睨みして視線を送る者達を退ける。  かたやクロスはクラブスが腕の鎧にも似た箇所を開き、中の黒地に赤のラインと宝飾がされた手袋を出すのをグレムリンのハントと共に興味深く見ていた。 「召喚札師(リスナー)用の手袋、だな。それにしても面白い身体してるんだな」 「元々ワタシは旧き時代に造られた召喚札師(リスナー)支援機械デスカラ。発掘されてからはワンド様の執事役を仰せつかってイマス」  旧き時代。古代文明というのがあったとされるその時代の遺物には、クラブスのような機械人形は多く存在するのはクロスも知っている。  が、召喚札師(リスナー)支援のそれは初めてであるので関心を示しつつ、だが表情は崩さずに保っていた。 「この手袋をクロスさんに差し上げマス。あなたほどならば使いこなせるハズ」 「……増幅手袋(ブーストグローブ)か、ありがたく使わせてもらう」  手渡された手袋をクロスは手にしっかりはめ、その感触を確かめる為に指を動かす。増幅手袋(ブーストグローブ)召喚札師(リスナー)が魔力を予め蓄える事により、召喚速度を向上させる効果を持つ。  しかし、召喚札師(リスナー)の技量によって手袋の力をどれほど使えるかは異なり、また相性の良し悪しもある。  クロスは手先に魔力を少しだけ集中させて手袋に吸わせ、その感覚から如何程の性能かを確かめる。 (……魔力減衰率は少ないな。悪くない)  物体などに魔力を蓄積させる際、素材の抵抗などの関係で100%込めたからといってそのまま蓄積するとは限らない。どの程度減衰するかを知る事で増幅手袋(ブーストグローブ)が使えるかどうかもわかる。  クロスの手袋はそれが少なく、減少分を考慮しても実戦に耐えうるとわかった。無論、手袋の性能に頼りすぎて実力を出し切れなくなる事もあり、過信はできない。 「クラブス、何故そいつに渡す」 「元々ワタシは召喚札師(リスナー)を支える為に創造された存在デス。ワンド様を守ってくださるルイさんはもちろん、クロスさんを支援するのも当然デス」  クラブスの好意は使命を果たすという命令に準ずるもの。無論、機械的に思えないのは感情というものが人工物ながらに存在するからだろう。    今の場所に滞在するのは単に休息という訳ではなく情報収集も兼ねている。召喚札師(リスナー)が集まる場所には召喚札師(リスナー)が必ず来るもの。  広場にある石作りのベンチに座るワンドは足をぶらぶらさせつつも、クラブスがクロスに協力的な事を笑顔で見ていた。 「これからどうしましょうか。アミエラさんを見つけないといけませんし……」 「アミエラがオークションの品を狙っているのは確かだろうから、張りこめば会う確率は高い。だがそいつをするとデミトリアのお尋ね者になってるお前が危険だろう。離れる訳にもいかないしな」  ワンドに答え改めて目的と方法を話すクロスは、ルイからの鋭い目線を感じつつも意に介さずにいる。  広い街の中でワンドから離れる事なく、アミエラを見つけ出す。単純ながらも難題だ。  また、運良く遭遇できたとしてもアミエラが協力してくれるかはわからない。特に盗賊ともなれば表立った事は避けたいものだからだ。
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