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第二章六節

 薄暗い石の道を抜けて街の裏通りへ、そこから曲がりくねった道を進むと街の外へとワンド達は辿り着く。クラブスがワンドを一度下ろし、遅れてやってきたルイにワンドは近寄りながら声をかけた。 「何かあったんですか?」 「それは……」  ルイは言葉を詰まらせる。と、クロスが代わりに「追手だ」と告げ、驚くワンドと目を合わせてからさらに続けた。 「上手く気配と殺気を消していたが、召喚札師(リスナー)が近づいていた。十中八九お前を狙ってる奴だ……少なくとも、俺と聖騎士が全力でやっても倒せるかわからないほどの、な」  その言葉に、ワンドは胸に痛みを覚える。それでは店の主は……そう思うと目から涙が流れかけ、胸に抱いている渡されたカード入れを強く握り締める。  同時にあの場でクロスとルイが立ち向かわずに逃げを選択した事も理解している。咄嗟に実力差を感じ危機回避をした、それは間違った判断ではない。  半年前の事をワンドは思い返す。あの時も、似たように自分を逃がすために最善の手を両親も家臣も全員がとった。今なら、それがよく分かる、そんな気がした。 (僕は……前に進まないと行けない)  自然と浮かんだ言葉を思いながら胸に刻み、深呼吸をしてワンドは心を落ち着かせる。  あぁそうか、とワンドはエメリア国を脱した時のルイやクラブスの心情も、辛くとも耐えて進まなければならないと思ったのだと改めて思えた。 「……ありがとうございます。僕の為に」 「お気になさらず。ワンド様を守るのは私の役目であり、国王と王妃様のご意思でもありますから」  片膝をついて微笑むルイは態度でもワンドへの忠誠心を示し、遅れてクラブスも片膝をつき二人で示す形となる。  クロスはそんな姿に何かを思いつつも膝はつかず、警戒を続けながらカード入れに手をかけてカードをゆっくりと引き抜く。 「確認するが、お前らはリックランプに行く途中でここに寄ったんだな。察しはつくが、何でリックランプを目指してた?」 「召喚札師(リスナー)が集まる場所だからです。そこでデミトリアに対抗しうる召喚札師(リスナー)を見つけようとルイさんが言ったんです。でも……」  一度言葉を止めたワンドはクロスの方へ向き直り、自分よりも背の高い彼をまっすぐで純粋な眼差しと穏やか雰囲気をもって上げた。 「もしここに寄らなければデミトリアの配下がいる事もわからなかったし、クロスさんとも会えなかった。僕も、色々学べませんでしたし、ね」  微笑むワンドの表情の裏のものをクロスは気づくが、今は言うべき時ではないとわかって小さく息をつくに留める。  まだ出会って数日なのに、自分は亡国の王子を気にかけている。そんな自分もまた、彼と同じように何かを学んでいるのを感じつつ、クロスは静かに口を開く。 「……俺もリックランプでカードの補充をしに行く途中でここに寄った。探し物の情報もそこで手に入るだろうが、ここで準備も整えておきたかったしな」  偶然寄った出会い、そして度々クロスは探し物というのを口にしていた。強くなる以外の目的、それについてはまだワンド達は聞いてはいない。 「何を探しているんですか?」 「……同業者の忘れ形見、だ」  ワンドはクロスがいつになく静かに答えたように聴こえた。悲しみ、のような感情が僅かに見え隠れするが、すぐにクロスは後ろを向いて手にするカードに魔力を込める。 「話をずっとしていても仕方ない、追手もいるなら尚更な。ダイン、出番だ」  空中に投げられたカードが閃光を放って姿を変え、巨大な体躯を持つ雄々しき獣が姿を見せる。  ダンテライガーのダイン、クロスの姿を捉えるとゆっくりと身体を伏せて鼻先を近づけながら小さく唸る。 「背中に俺達は乗らせてもらうが、いいな?」  クロスの質問にダインはさらに身体を伏せて前脚から背中へと乗りやすくして応え、それを見てから鼻先を優しくクロスは撫でながら目線でワンド達にダインの背中に乗るように促した。  全員が乗り込むと同時に身体を立たせたダインは、クロスが指し示した方向に向かって歩を進め、やがて駆け出し始める。  巨大な体躯にも関わらず俊敏な走りを見せるダインのたてがみのように生える角の上にクロスは立ち、風を切り裂きながら駆ける景色を見てから後ろに目線を向ける。 「しっかり捕まってろよ」 「は、走りだしてカラ言わないでくだサイ〜!」  身体を伏せて角にしがみつくクラブス、同じようにルイも片手で角を掴んで留まり、ワンドはゆっくりと這ってクロスの隣まで来て同じ景色を目の当たりにしていた。 「わ、ワンド様危険です!」 「大丈夫ですよ! それに、とってもいい眺めです!」  体躯故の高さと速さからなる普段見えない景色は、ワンドの心を揺らし世界の広さと美しさを再認させる程だった。そしてそれは、ひとえに召喚札師(リスナー)が与えられる一つの感動でもあると。  クロスとしては手っ取り早い移動手段というのと、仲間となったばかりのダインを出してやるいい機会というだけだったが、結果的にワンドの心も明るくできた事には素直に喜びを感じ、これからの旅の門出としては良いものを実感できていた。  とは言え油断は禁物。追手は今は振り切れても追いつかれるだろうし、更なる刺客や別の脅威もこの先待ち受けているだろう。  護衛をする上でそれらを跳ね退ける必要がある、その為にもっと強くなる必要がある、その果てに、自分の目指すものも。 (この旅で僕は目的を果たします。そして先の未来を……) (……旅の終わりに、何か、掴めればいい、な)  ワンドとクロスはそれぞれの思いを胸に刻み込む。この旅で何かを掴むため、使命の果てに何があるかを見届ける為。  今、静かに始まった旅の行く末に世界の真実がある事を二人はまだ知らない。この出会いをきっかけに、旅を始まりとした、大いなる物語だと。 next…
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