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第二章五節
「これもサービスですが、アミエラ様はクロス様がここに初めて来た日の前日にこの街を発ってリックランプに向かいました。追えば会える可能性はあると思います」
リックランプ。召喚札師 の使う呪文 や:道具などのカードを唯一製造できる技術を持つ者達が作り上げた小国であり、召喚札師 の生命線を握る為に永世中立を保っている。
召喚札師 にとっては特に重要なその国はプラッタの街より南東にあり、徒歩で三〜四日程の距離にある。
その街に情報を得た召喚札師 の一人アミエラは向かったという。店主のそれが正しいなら、追えば会える可能性はあった。
「ならすぐ行きましょう! 僕達も元々リックランプに向かっていたので、ちょうどいいです!」
ワンドの心が高鳴る。と、それを落ち着かせるようにクロスがブラックリストで軽くワンドの頭を叩き、その行動にルイが怒りかけるがすぐにクラブスが止めに入ってワンドとクロスとが話せるように努めた。
「落ち着け。リックランプは召喚札師 にとって重要な場所、って事はデミトリアの配下もいる可能性もあるんだ。リックランプで召喚札師 を見つけて引き込みたいだろうし、カードを補給できるようにしているだろう」
「クロス様の言う通りです。リックランプにはデミトリアのスカウト役もおりますし、現在は上級召喚札師 の一人が滞在していたはずです」
中立故の遭遇の可能性、クロスに続いて語る店主の情報により不利な事実も判明する。
上級召喚札師 がいる、強さはわからないが厄介なのは間違いないだろう。
喜ばしくない話にワンドの気持ちは下がりに下がって暗い顔になりかけるが、クロスが頭に手を置きそれを止めつつ目を合わせ口を開く。
「俺が守ってやるから安心しろ」
「クロスさん……はい!」
笑顔が戻るワンドにクロスも一安心し、クロスに嫉妬のようなものを感じながらもルイもまたワンドを守ると強く胸に誓いを再度建てていた。
そんな彼らの姿に何かを思う店主は、おもむろにカウンターの下から何かを出してカウンターの上に置いた。
「ワンド、様と言いましたね。これをお持ちになってください」
店主の呼びかけに振り向くワンドに差し出されたのは純白の不思議な光沢を持つカード入れだった。そして隣に置かれた、無地のカードの山。
「これは……召喚札師 の必需品、ですよね? でも僕は……」
「わかっています。ですが、貴方様からは不思議なものを来店の時から感じていました。このカード入れと山札は、そうした方が持つべきものと伝わってきたものです。お持ちください」
カード入れと山札。最初に召喚札師 が手にする道具。召喚札師 ではないが、何かを感じさせるそれを店主も察しており、ワンドは理解できなかったが差し出されたカード入れが不思議と自分を呼んでいる気がしていた。
同様に召喚札師 であるクロスとルイはそのカード入れの異質さを感じ取れていた。邪悪ではないものの、不思議な感覚が見ていてもわかる。
ゆっくりとワンドは手を伸ばしてカード入れを手に取り、そして開閉式のカバーを開けて無地の山札をセットしてカバーを閉じる。
「今は使えずとも、いずれお役に立てると思います」
「ありがとうございます、大切に使わせてもらいますね」
笑顔でやり取りするワンドと店主だが、同時にクロスとルイは店の外に何かを感じて入口の方に素早く目を向けていた。遅れてクラブスも向き、話を済ませた店主がすぐに動いた。
「……裏口を使ってください。道沿いに進めば街を出てリックランプへの街道に通じます」
「……感謝する」
店主がカウンター下の仕掛けを作動させると壁の隠し扉を開き、手でそこへ行くように促し、事態を理解する間もなくワンドはクラブスに抱えられて隠し扉を通って行き、次いでルイが扉の前に行きクロスの背に目を向ける。
「早くしろ」
「……わかってる」
ルイが一声かけてワンドを追ったのに続いてクロスも隠し扉の中へ入り、閉じられたのを確認してから店主は仕掛けを再度作動させて隠し扉を完全に隠す。
そして遅れるように店の扉が開き、沈着冷静に店主は客人に応対する。
「いらっしゃいませ」
やって来たのは目元を隠す銀の仮面をつけた客……デミトリア軍最上級召喚札師 バエルは何かを感じ取りつつ、小さく息をつくと「一足遅かったか」と言葉を漏らしてから腰のカード入れよりカードを引き抜き、その直後、店が中から大爆発を起こして吹き飛ばされ爆炎の中からバエルが何事もなかったように出てきて路地へと消えて行った。
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