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第二章四節b

「……闘技大会は小さな大会がほとんどだ、負ける時は負けるしな」  実績に興味がない、そんな印象をワンドは受けた。もちろん実力はあるのも間違いはないが、それをあまり表立って言わない。  有名である事が抑止力となる事もあれば警戒を促す事にもなる。クロスは後者を意識したらしい。 「それでもすごいですよ。心からそう思います」 「……まだまださ」  純真な眼差しと純粋な思い、そんなワンドにクロスも穏やかに答えつつ苦笑するしかない。  子供という存在は影の側面を知らない、だからこそ知った時に傷つくしそれを糧に成長もする。  そんなワンドに、かつての自分が重なる。恩人に向けた眼差しもこのようなものだったのか、そう思いつつファイルを閲覧し続け、やがて手を止めた。 「……これだけか?」 「えぇ、普通の召喚札師(リスナー)はこれだけです」  普通の召喚札師(リスナー)。店主の言葉を聞いて何かを納得したクロスは「ブラックリストも頼む」と言い、承諾した店主は再度裏方へと行き黒いカバーのファイルを持ってくる。 「待て、ブラックリストの奴らから選ぶつもりか」 「実力だけは本物だからな」  ブラックリストという言葉に警戒するルイだが、それを意に介さずにクロスは黒いファイルに目を通し始め、それをルイは止めようとするが店主が口を開き制止をかけた。 「性格や経歴にこそ問題はありますが、ブラックリストの召喚札師(リスナー)の実力に関しては確かなものがあります。クロス様程の強者が他の召喚札師(リスナー)を探すという点、それがかのデミトリアに対抗するという点を結ぶと体裁は気にしてはいられない……貴女も召喚札師(リスナー)ならば、それはわかるはずです」    クロスの判断は間違ってはいない。会って数日という期間にも関わらず、やれる事を最大限してくれている。  旅を始めてから何人もの召喚札師(リスナー)には出会ってはいる。しかし誰もが実力不足だったり金銭目当てであったりと問題点が多くクロス程の人間はいなかった。  まだ信頼したわけではない、だが、依頼主のワンドの為に彼の意向を汲んでくれているのは間違いなく、ルイはその事を頭で理解していても警戒してしまう。無論、杞憂に終わればそれはそれでいいのだが。  ルイがそんな事を考えている内にファイルから二枚の紙をクロスは抜き出してファイルを閉じ、取り出した紙をワンドに手渡して読ませ始める。 「その2人、だな。名前だけは知っているが、書いてある通りの話しか知らない」  クロスの提示した二人の召喚札師(リスナー)の情報。一人は男、一人は女、ワンドが目を通す後ろから読み上げるのはクラブス。 「エンド・クラッカーにアミエラ・ハルピュス、ですカ。ふむふむ、この情報にあるように確かに実力はありそうデスネ。しかしこれは……」 「器物損壊に公務執行妨害、不法侵入……現金強奪、とんでもない奴らだな」  召喚札師(リスナー)の情報にはカードの使用傾向や評価の他、主な実績なども書かれている。  その下の方に備考欄があるが、選び抜いた二人のそれは備考欄のが多く書かれる程の問題児。途中で読むのをクラブスは躊躇い、読み上げたルイも呆れるしかない程のものである。 「フリーの召喚札師(リスナー)とは個性的な方が多いので、実力があるほど少々の問題を抱えているものです。むしろ実力を持って問題がないクロス様のが珍しいものです」  店主の言葉を聞いてクロスは目を閉じてため息をついたようにワンドには見えた。確かに最初のファイルの召喚札師(リスナー)とブラックリストの者では実力のそれが大きく差があり、その中でもエンドとアミエラは群を抜いていた。 「この二人について詳しく知ってないか?」 「本来なら追加料金をいただきますが、特別サービスとしてお教えしましょう」  息を整えて特別サービスとしてのエンドとアミエラについて、店主はクロス達にゆっくりとした聴き取りやすい声で詳細を語り始める。 「エンド様は気性も荒いので暴力沙汰も多いらしく、そちらの方面では召喚札師(リスナー)として以上に有名な方です。召喚札師(リスナー)として見た場合、相手の破壊(ブレイク)を狙う攻撃的な戦略を取る一方で揉め手に欠けてはいますが、破壊力はかなりのものがあります。単純な攻撃力なら世界でも上位と言えるでしょう」  一度店主が呼吸を整え、次いで語られるのはアミエラについてだ。 「アミエラ様は貴族の末裔と噂される若い女性ではありますが、女盗賊としても名を馳せる方で指名手配されています。召喚札師(リスナー)としては特殊能力主体であり、エンド様とは異なり疲弊(ダウン)による勝ち逃げを主体とします。無論、カードのパワーも決して低くはありません」  破壊(ブレイク)疲弊(ダウン)と言うのはカードの状態を表すもの。前者は使用不能になったり、回復に時間を要する反面狙いにくく、後者は狙いやすいが回復しやすいというもの。   召喚札師(リスナー)同士の戦いではそれが重要なポイントとなる。特に破壊(ブレイク)されると召喚札師(リスナー)にも相応のダメージが跳ね返ってしまい、最悪命を落とすこともあるので相手に破壊(ブレイク)されないよう努める必要がある。  無論、破壊(ブレイク)のデメリットこそなく回復期間が短いとは言えその戦闘中でまず再使用できなくなる疲弊(ダウン)にも気をつけなければならない。  それらを積極的に狙えるというのは実力がある証、ひいては評価にもつながる要素である。  素行の悪さは否定できないだろうが、味方とできれば心強いのは間違いない。 「……法外な要求はされそうだが、その時は力づくで黙らせればいいな」 「ダメですよクロスさん、まずはちゃんと話し合わないといけません。暴力は良くないですから」  純粋なワンドの目の輝きと穏やかな言葉にクロスは苦笑するしかなく、言い返す気が失せてしまう。  話し合いで素直に召喚札師(リスナー)が味方となるケースは少ない。わかっていないのかわかっていて言っているのか、どちらにせよクロスはワンドの意向を尊守すべきとは思ってはいた。
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