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第二章二節

 おもむろにクロスは右腰のカード入れのボタンを外して一枚のカードを引き抜き、魔力を込めて召喚。現れたグレムリンのハントがクロスの頭に乗り、大きく裂けた口を開きながら笑っている。 「しししし!」 「素性に関してはそんなとこだ、他に聞きたい事がないなら雇うかどうかの判断をもらいたい」  自分の経歴を明かすクロスがワンドに言葉を返す。彼を雇うと決めたが、その再確認という訳だ。  無論、ワンドの答えは決まっている。決まっているからこそ言葉はしっかりと選ぶ。 「……クロスさんに依頼するのは僕の護衛です。デミトリア軍の刺客だけでなく、昨夜の魔物などもいて、とても長い旅になると思います。デミトリアに対抗できる召喚札師(リスナー)を見つけ出し、彼を倒して野望を打ち砕く……それまでの護衛をお願いします。報酬はお金と、その時に望むものを差し上げます」 「了解した。契約成立だ」  沈着冷静に話し、凛とする佇まいとなったワンドにクロスは少し気圧されながら了承の意を伝えることができた。王族としての風格、というものか、幼いながら心構えはしっかりしている辺り育ちの良さがよくわかる。  契約成立となると同時に、クロスの頭に乗っていたハントがワンドの頭に跳び乗って驚かせ、そのままじゃれつき始めた。 「こら、ダメですよ。ふふっ」  髪を乱されながらもハントの無邪気さを受け入れるワンドの姿に、クロスやルイ、クラブスは微笑ましい光景と思え一時の安らぎを感じていた。  同時にルイはある事が脳裏をよぎった。もし、自分達が探し求める召喚札師(リスナー)がクロスだったなら、あるいは彼がその可能性を持つ存在だったなら……何故かそんな事が思い浮かびつつも、今は一時の安息に心を休ませる。 ――  プラッタの街の事件は人伝に世界に伝わる。が、クロスの人知れぬ活躍により被害は最小限に留まり、また似たような事件は世界中何処でも起きる事であるからだ。  しかし、彼は違った。臆病とも言えるほどに些細な芽も見逃さない用心深さは、彼の強さのひとつなのだから。  ワンド達がいるプラッタの街よりはるか遠方に(そび)える巨大な城。暗雲に包まれたそこは、召喚札師(リスナー)デミトリアとその配下の本拠地である。  王座の間に鎮座する人物……闇に隠れてなお全てをひれ伏させる威圧感を放つ、召喚札師(リスナー)デミトリア。その前には、一人の男が膝をついていた。 「東と中央の境近く、プラッタの街の事件ですがやはり召喚札師(リスナー)が裏で動いていました。それと、街に忍ばせている諜報員よりエメリアの王子も確認したと」 「エメリアの王子……バエル、貴様はどう思う?」 「……エメリア王子ワンドは未だ幼く、力を扱うにはほど遠いと推測します。しかし古の契約書の断片を持つ以上、他の手に渡る前に奪取すべきと考えます」  バエルと呼ばれた男は主であるデミトリアに進言をする。ワンドが持つ古の契約書の断片……それがいかなるものか理解し明確に狙いを定めている。  さらにバエルは冷静沈着な口調で言葉を続けた。 「さらに契約書とは別にデミトリア様が求めるカードもエメリア王子、もしくはその従者が握るというのはエメリア襲撃後の捜索結果から結論がついています」 「わかっておる。だが驚異となるかはまだ不透明だ、確定するまでは泳がしておいてもよかろう……儂自ら出向けば、いかなる力と才を持とうが容易く潰せるからな」  絶対的な自信とそれを可能にするだけの圧倒的な力。デミトリアの言葉は決して虚言ではないというのを配下たるバエルは何よりも理解し、同時に彼が自ら赴くという言葉には動揺しすぐに立ち上がって口を開きかけたが「フッ、冗談だ」という一言を聞き肩を撫で下ろす。 「……とはいえ、貴様も儂の傍らにずっといるよりは前線にいた方がよかろう。プラッタの事件に関わった召喚札師(リスナー)というのにも興味がある」  ぐっと力を入れてから玉座より立ち上がったデミトリアに合わせてバエルが片膝をすかさずつき、腕を前に出して下される指令に対し即答した。 「バエル、貴様にプラッタの事件の詳細の調査及びエメリア王子に関する追跡任務を言い渡す。尚、指示を下すまでは戦闘は一切禁ずる、よいな」 「御意」  深海色のやや長い髪に目元を隠す銀の仮面をつけた男バエルが暗がりで立ち上がる。主人たるデミトリアの命を受け、静かに捉えるのはワンドの存在……。
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