8 / 283

第一章六節

呪文(スペル)発動“ソリッドガード”」  それは小さな灯のように、だが確かに輝く希望に光にも思えた。  ワンドの周囲に薄青色の膜のようなものが張られると、走っていたダンテライガーは膜に激突。大きく姿勢を崩すも頭を振ってからすぐに膜を破ろうと何度も体当たりをしかけ続けるもビクともせず、ワンドは顔を上げて何が起きたか一瞬わからなかった。 「生きてるか?」 「あなたは……クロス、さん?」  静かに後ろの方から歩いて来たのはクロスだった。振り返ったワンドは、その姿を見て思わず胸からあふれる気持ちが抑えられず目から涙を流し始める。 「ルイさんも……クラブスも傷ついて……もう、ダメだっ、て……」  涙が止まらない。もっと別の事を言いたいのに、もっと冷静でいたいのに、言葉が出ない。  そんなワンドの頭に手を置きながらクロスは片膝をつき、目をしっかりと合わせてから口を開く。 「……よく、頑張ったな」  その一言を聞いてワンドは思わずクロスに抱きつきそのまま泣きじゃくる。本当は怖くて仕方ない、年相応の子供らしさにクロスは安心しつつも、目線をダンテライガーの方へと向けた。 「……少し待ってろ。まずはあいつを何とかする。ハント、一緒にいてやれ」 「ししっ!」  ワンドから離れたクロスがダンテライガーの方へと歩き始め、その姿を涙を手でこすって拭ったワンドの肩にハントが乗って同じように見守る姿勢を取る。  強大な敵、ルイを退けた相手を前にしてもクロスは動じることなく目の前まで行き、ワンドを守る膜越しに目を合わせその強さを感じ取った。 「呪文(スペル)解除」  その一言で膜が消え、ダンテライガーは前脚を振り上げてクロスにそれを叩き込む。一瞬、土煙でクロスが見えなくなるがすぐに煙から飛び出してワンドの前まで下がり、同時に、右腰のカード入れからカードを引き抜き魔力を込める。 「空を赤く染めて来い、エックス!」  天に向かってカードを投げたクロスの強い言葉に呼応するようにカードが赤く輝き、空を見上げるワンドは光が何かを形作って行くのが見えた。  やがて光は紅蓮の炎となっていくとその中から赤き鱗で身体を包み、燃える炎のような紋様を全身に持つ強大な存在が姿を見せ始めた。  先端部が槍のように鋭く硬質化し頭から生やす後ろに伸びた三本角は太く鋭く、炎を広げたかのような大きな翼、鋭き爪を持つ四肢、全てが力強く相対する者を戦慄させる威圧感を放つ。  左眼に×字のような傷痕が残るその存在は天に向かって力強く咆哮する。  正体は火竜ファイアードレイク。全てを焼き尽くす、強大にして偉大なる種族ドラゴンの一角を成す一族。  姿を現しただけで熱風が吹きつけ、周囲の気温を一気に上昇させた。 「すごい……これが、ファイアードレイク……」  地上に降り立ったファイアードレイクのエックスの姿を目の当たりにして、ワンドは思わず言葉を漏らしてしまう。  ドラゴンの一族は実力の高さもさることながら誇り高く契約するのが難しい、同時に、召喚札師(リスナー)の実力を知る一つの目安となる。  つまり、クロスはかなりの実力者というのがひと目でわかるのである。 「……エックス、あまり暴れすぎんなよ」 「そんな事知らんな。で、この獣を黙らせるのか」 「あぁ、できれば契約したい。無理なら倒して構わない」 「いいだろう」  低く唸りながらクロスに答えたファイアードレイクのエックスは、クロスの言葉に答えてから翼を広げながら大きく咆哮して威嚇をしてみせ、それに怖気づく事なくダンテライガーもまた威嚇しかえして見せた。  体躯はほぼ同じ、強大な存在であるドラゴンを前にしても退かない生き物もそうはいない。  先に地を蹴って飛びかかるのはダンテライガー、両前脚の爪を開きながら口も開いて押さえつける姿勢を見せ、それに対してエックスは身体を大きく捻りながら尻尾を振るってダンテライガーを地に叩き伏せた。  辺りに土煙が舞ってワンドとハントは咳き込むが、クロスは特に動じずに見守り続け、カード入れにそっと手をかけカードを使うタイミングを待つ。  叩き伏せられたダンテライガーに口内に炎を貯めて吐き出すエックス。この火炎の息は素早く後ろに跳んで避けられるも、そこから相手の特徴が少しずつわかってくる。 (身体は大きくても俊敏性は失われずにいる、それだけ強靭な身体というわけか。だが、やはり特殊な力は使わない、か)  冷静に分析をしながらどのカードを使うか決めたクロスはカードを引き抜き、それを横目で確認したエックスは翼を広げて飛翔し、急降下でダンテライガーへと強襲をかけそのまま地上で激しくもつれ合って互いの爪を相手に突き立てんとし始める。 「呪文(スペル)発動“バインドアース”」  魔力を込めたカードに言葉を乗せたクロスがカードを前方に投げるとカードが緑色に光ってから消え、やがて地面を割って巨大な大木の根がいくつも現れて取っ組み合う二匹へと向かう。  すぐにそれをダンテライガーは察するが、その僅かなスキをついてエックスは首根っこに噛みついて力強くその場に叩き伏せ、それから飛翔して大木の根から逃れつつダンテライガーが拘束される姿を空より見つめる。  が、ダンテライガーは力任せに暴れ回り、大木を粉砕して脱出。それにはクロスも舌打ちするも、すぐに別のカードを引き抜き即応力を見せる。 「呪文(スペル)発動“ドラゴンハート!” 一気に決めろ!」  更なるスペルを使用したクロスの言葉にエックスも天に向かって吠えて応え、発動されたカードより放たれる紅い閃光がエックスの身体を包んでその力をより高めて行く。  ダンテライガーは付近の瓦礫の山を蹴って空高くジャンプしてエックスに迫るが、それよりも早く口内に青い炎を口から漏れ出る程に貯めたエックスがダンテライガーめがけて青き炎の息をぶつけて、その勢いそのままに地上に叩きつけ周囲もろとも焼き尽くす。
良い
エロい
萌えた
泣ける
ハラハラ
アツい

ともだちとシェアしよう!