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第一章五節

 街の北側区間の建物が大きな物音と共に崩され、逃げ遅れた人々が瓦礫の下敷きになる姿、家族とはぐれて泣き喚く子供の姿、他人に構わず我先に逃げようとする者と、他人を助けようとして崩壊する建物に潰される者……やがて火の手が上がって火災も起こり、その場についたワンドは、自分の国が滅ぼされた時の事を思い出して呼吸が速くなる。 「ワンド様は安全な所にいてください」 「……平気です、それより逃げ遅れた人が多いようです。助けないといけません」  深呼吸を一度してからルイに答えたワンドは近くの瓦礫に挟まれて動けない住民の元へ駆けつけ、次いで、クラブスが隣に来て共に瓦礫を持ち上げて救出を始める。  一方で、ルイはこの災害とも言うべき出来事の犯人が近くにいると確信、カード入れに静かに手をかけて警戒を強めた。  その時、ルイの右側面の建物が勢い良く砕かれて建物の破片や、棒切れのように飛び散る人間の身体が辺りに散乱する。そして姿を見せた巨大な存在にルイやワンド達は驚愕する。  夜闇照らす火災を背景に現れた巨大な体躯、巨大な牙と爪を持つ獅子とも虎とも取れる猛々しくも雄々しきその獣。たてがみ如き無数の角も鋭く、金属光沢を持つ皮膚には無数の古傷を持ちかの存在の戦歴を暗に示す。 「ダンテライガー!? しかもこれほど巨大なのはワタシの記憶にもありまセン! ルイさん!気をつけてくだサイ!」  救助した人を肩を貸しながらクラブスが叫ぶ。ダンテライガー、獅子と虎の混血種が魔物化したもの……なのだが通常の個体を遥かに上回る体躯を持つものが目の前におり、ルイ達を捉えて大きく咆哮するだけで大気が震え、戦慄させた。 「円環(サークル)……」 「待ってルイさん、まだ円環(サークル)を張らないでください! 逃げ遅れた人がまだいます!」  臨戦態勢となったルイにワンドが叫んで行動を止め、舌打ちしてからルイは円環(サークル)を張らずに戦う方向に切り替える。  魔物相手のそれは円環(サークル)を展開すれば相手を逃さず周囲の被害も抑えられる。反面、中にいた者が出られない為に救助対象がいる場では使えないのである。ワンドの懸念したのはそれであり、ルイもそれを理解した上で戦闘を開始する。 「来たれ我が剣! ケット・シー召喚!」  引き抜いたカードに魔力を込めて召喚宣言、ルイの前に現れるのは革靴にポンチョを羽織るテンガロンハットを被った二足歩行の猫の精霊ケット・シー。  帽子のツバを指で上げながら目を細め、ダンテライガーと目があったのを確認すると大きくため息をつく。 「おやおやこいつぁかーなーり面倒な相手だな……素直に自分の封印解いたらどうだい?」 「……ワンド様の安全を守るのが私の任務だ、あいつを鎮めるぞ」 「相変わらず頭のお硬いお嬢さんだ、ま、仕事はするがね」  飄々とするケット・シーは両腰につけたホルスターから自分の身の丈に合う二丁拳銃を手に取り臨戦態勢となり、素早く地を走ってダンテライガーへと迫る。  体躯の差は歴然だが、相手が力任せに振るう前脚の一撃や噛みつきなどを小ささ故の身軽さで軽やかに避け続け、上手く相手を錯乱しつつ皮膚に銃を何度も撃ち込んでいく。  その間にワンドとクラブスは救助作業を続行、少なくともルイが結界を張れる範囲内の人を離脱させれば周囲への被害も防げるようになる。 (ルイさん……無理はしないでくださいね)  ルイの身を案じるワンドは、まだ子供ながらも救助活動を続ける。壊されて燃え盛る街、放置されたままの犠牲者、傷つき救いを求める人々、かつて国を滅ぼされた時にも見た風景が重なり胸が痛くなるが、ワンドはそれを押し殺してクラブスと共に走り続ける。  かたやクラブスはそんなワンドの姿に苦しさを覚える。機械という身ではあるが感情は理解でき、特にワンドの思うところはすぐにわかる。  同じようにケット・シーを支援しながら戦うルイもそれは同じ、だからこそ彼の為に戦う。 ――  逃げ遅れた人々の救助がひと通り済み、同時にワンドも疲労が溜まり呼吸を早くしつつその場に座り込む。 「大丈夫ですカ?」 「うん、平気です。ルイさんは……」  自分達が見つけられた範囲の人々は避難が済んだ。あとはルイが戦うダンテライガーが鎮まるかどうか。  魔物や精霊というのは、時として人里に現れるもの。住処を追われたり逆鱗に触れたり、理由は様々。  時に大きな災厄となる彼らの脅威に対抗できるのは召喚札師(リスナー)であり、同時に人と魔物達との調停者としての側面を持つ。  無論、上手く行くかは召喚札師(リスナー)次第。それ故に、ルイの安否はとても気になって仕方ない。 「大丈夫デス。ルイさんは、力を封印せねばならない状態ですが強い人デス。きっと今頃……」  クラブスが語ったその時、崩壊した建物を突き破ってルイが飛ばされて来た。そしてワンド達の目の前で血を流して力無く倒れ伏した姿を晒し、すぐにワンドが傍に駆けつける。 「ルイさん! ルイさん!」 「逃げて……くださ、い……」  呼びかけに対して残る力を振り絞ったルイが弱々しく言葉を口にしてそのまま意識を失う。遅れて、ルイのケット・シーも傷だらけの状態でその場に来ると、姿が透明化していき舌打った。 「情けない事にここまでか……すまん、王子……」  そう言葉を残してケット・シーは姿を光の粒子に変えてルイのカード入れに戻って行き、遅れてルイが飛ばされて来た方向から無傷のダンテライガーが姿を見せ咆哮する。 「いけない! ワンド様お逃げヲ! ここはワタシが止めマス!」 「クラブス!」  クラブスが地を駆けてこちらに向かってくるダンテライガーへと走り出して力強く殴るが全く止まらず、そのままはね飛ばされて瓦礫に埋もれてしまう。  似た景色をワンドは思い出す。自分を逃すためにデミトリアに立ち向かった父の姿、その後の追手から身を呈して守り命を落とした母の姿、その最後の瞬間を。  意識を失ったルイを力強く抱いて目を強く瞑ったワンドの心に恐怖と絶望が芽生えて支配する。もう、助からないと。
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