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第一章四節b

 ワンドが右手をずっと見つめ何かを考えてる姿を同室にいるクラブスは荷物を整理しながら見守り、部屋の出入り口近くで壁を背に佇むルイもそれは同様。  主たるワンドが何を考えているかは、二人はよく理解している。 「……昼の召喚札師(リスナー)が気になるのですカ?」 「えぇ、とても僕に気を遣ってくれながら、同時に対等に向き合ってくれた。この旅を始めてから召喚札師(リスナー)にも多く会いましたけど……あの人は他の人達とは違います。カードも、大切にされて信頼関係が築けていた……声が、よく聞こえたから」  クラブスの質問に答えながら、ワンドはクロスのカード入れに触れた時のこと、その際に、手を通して伝わってきたものを思い返す。  暖かく強い絆。旅の途中で出会った召喚札師(リスナー)達のものは狂気的なものや欲望が渦巻くものであったのに対し、クロスは明らかに違うものもっており同時にクロスという人間の人柄というものにも素直に好きになる。  ワンドの思うところは、クラブスも理解してるしルイも同じ。しかし、危険がないとも言えないのも確かだ。 「二人から見て、クロスさんはどう感じましたか?」  ワンドが室内の方に目を向けながら問いかけ、それを受けクラブスとルイはそれぞれクロスの印象について話し始める。 「ワンド様があの方をどうしても、というなら反対はしまセン。確かに裏があるような感じはありませんし、彼の言葉も自分と相手の事情を考慮したものと考えられマス」 「私が故あって力を抑えてる事も気づいているようでした。そして、あの者もまだまだ大きな力を隠しているようにも。何処にも属せず報酬のみで動くだけのフリーというのは気に入りませんが……確かに、強いというのは認めます」  二人の言葉を聞いてワンドは再び思案を始める。このプラッタの街からは明日には発ってしまう、そうなればもう彼に会うチャンスもないだろう。  何より彼がまだ街にいるとも限らない。いて見つけ出して説得しても断られる事もあり得る。  日が完全に沈み、クラブスが部屋のランプを灯す。その時ワンドは小さな寝息を立てて早めの眠りに落ちてしまっていた。クロスとのやり取りを思い出しながら、温かい気持ちを抱いて。  夜も耽りきった頃。宿の部屋のベッドで深い深い眠りにつくワンド、その隣には同じように座って眠るクラブスと、イスに座り毛布だけを身体に巻いて警戒しつつ目を閉じるルイ。  静かな夜。一時の安息、だからこそ警戒をする。  国を失い旅立ってから何度も刺客が送られて来た。それ以外でも、人身売買の売人に危うく捕まりかけたり、危険な動植物の毒で命を落としかけた事もある。  半年、という期間の間に神経を擦り減らし、疑心暗鬼にもなっていた。そんな時の明るい話、初めてワンドが気にかける召喚札師(リスナー)との出会い……ルイは不安はあれど、もし彼とまた会えた時は……と考えをまとめたと同時に眠りについた。  同時刻、プラッタの街の裏通り。その場所の一角が明るくなり、そして一瞬の後に消えてその場に倒れる黒い鎧の男が数人。  月明かりの下、裏通りに立つのはクロス。肩にはグレムリンのハントを乗せ、右腰のカード入れのボタンを留めて小さく息をつく。 「ししし?」 「そうだな……話の裏は取れた。だが……」  ハントに答えたクロスが何かを思いながら倒れた男の近くで膝を折り、素性が分かるものがないかを探り出す。と、石畳を通して微かな振動を感じ取り、辺りを警戒しつつ遠くへ目を向ける。  同じように何かを感じ取ったワンドも目をすぐに開いて身体を起こす。ベッドから起きると窓を開けて身を乗り出し、遅れて気づいたルイがすぐに彼の身体を引いて落ちないようにする。 「ワンド様何かあったのですか?」 「……何か来ます、とても大きな……」  夜の帳が包む時間。夜風も穏やかで心地良く、風も少し冷たいが特段と言うわけでもない。  だが何かが来る。その予感は、街の北側から轟く音で確信へと変わった。  街に響く轟音と衝撃は地震と間違えるほどに巨大であり、一瞬の内に街の沈黙を消し去って人々を飛び起こさせた。  ワンドはルイが抱えるように守る態勢を取って無事、寝ていたクラブスも頭に落ちてきた壁かけの絵で目を覚まし、振動を感じてすぐにワンドの身を確認した。 「ワンド様!?」 「大丈夫だよ、ルイさんも平気?」 「問題ありません。ですが、何が……」  互いにケガがないとわかった直後に再び衝撃が街中に響き、一気に緊張が高まる。だが、ここからでは何が起きたのかわからない。 「ルイさん、クラブス、外へ出ましょう!」  ルイから離れてすぐにワンドは着替え始めた。行かなければ行けない気がする、その場所へ、今すぐに……そんな予感が体を突き動かす。 「ワンド様危険デス! 何があるか……」 「ここにいても何が起きてるかはわからん。ワンド様、私達から離れないようお願いします」 「はい!」  状況確認と危機回避、何が起きたか知る為に準備を済ませてからワンド達は宿の外へと出た。  準備の間でも衝撃は数回起こり、その頻度はもちろん音もどんどん大きくなって人々を恐怖と不安に落とし入れる。  やがて街中に響く咆哮。何かの獣の叫びに人々はさらに混乱し、慌てふためく。  その人の流れを逆流するようにワンド達は北側を目指す。可能な限り人混みを避け、先行するルイの繋ぐ手をワンドはしっかり握り後ろにクラブスも追従する。  奇しくもワンド達と同じように街の北側を目指すのは召喚札師(リスナー)のクロス。こちらは屋根から屋根へと身軽に飛び移り、夜に似つかわしくない轟音の正体を見極めようと音のする場所をじっと見据える。  と、建物が土煙を上げながら吹き飛ぶのがクロスの目に映る。今宵は満月の為に明るいので場所の特定には困らず、同時にその様子が見えた場所ではさらに人々が混乱し混沌とするのもクロスには伝わってきた。 「ししー……」 「心配するな、俺がいる」  耳を一段と垂らして不安な様子を見せるグレムリンのハントにそう言葉をかけたクロス。目的地まではあと少し、右腰のカード入れのボタンを外し、それから再び走り出す。
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