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第一章四節a

「……いくら出せる?」 「え?」 「俺は無所属だ、刺客でもなければ国所属でもない。それなりの金かカードさえ出せるなら用心棒くらいは引き受けない事もない。話を聞くのはその確認のあとだ」  クロスは冷淡気味にそう言いながら顔だけをワンドに向け、しばしワンドは考え込む。  召喚札師(リスナー)というのは何処かしら国や組織に属するのが多いが、フリーランスで活動する者も少なくはない。クロスはフリーの召喚札師(リスナー)らしい。  事情を察しながらもそれを聞く前に報酬の確認をするのは彼なりのビジネススタイル、とクラブスは理解しつつも、同時に隣にいるルイが不機嫌になるのもすぐにわかり少しだけ離れる。 「私は反対です! そんな金だけで動くような無法者をワンド様の護衛など……」 「雇うかどうか決めるのはコイツだ、あんたが決める事じゃない」  クロスの言葉にルイの怒りも頂点になるが、その前にワンドは自分の着ている上着の内ポケットから金色の指輪をクロスに差し出し、ルイとクラブスを驚愕させた。 「これでどうですか?」 「わ、ワンド様それは王族の……」  驚く二人を尻目にクロスはワンドから指輪を受け取って品定めをするように眺め、価値があるものと判断してからそれをワンドに返して身体をワンドに向ける。 「……話は聞くが、協力するかはそれからだ、な」  無表情を貫き続けたクロスに対し、良い返事が聞けた事でワンドの表情は明るくなり、その裏でワンドの判断と行動に意見したくともタイミングを逃したルイとクラブスは口をあんぐりと開け、文字通り言葉を失うのだった。 「改めまして、僕はエメリア王国王子のワンドです。それから聖騎士のルイさんに、執事のクラブスです」 「初めまシテ。ワタシは機械人間のクラブス、発掘されて以来ワンド様の身の回りのお世話をする役目を仰せつかっていマス」  ワンドの紹介にクラブスも続いてクロスに名乗り、かたやルイはベンチに座りながら身体を横に向けてクロスと顔を合わせないようにしていた。  そんなルイの態度にワンドは苦笑いするものの、クロスは特に意に介さず、またクラブスの存在にも対して反応も示さずにいる。 「……半年前にエメリア王国が召喚札師(リスナー)のデミトリアとその配下によって滅ぼされたというのは風の噂で知っている」 「はい、僕の国にあった物を求めてデミトリア達は来たんです。それを渡すのを拒んだ結果が…」 「何を求めていたんだ? デミトリアの話も知っている、同じように国や聖地を攻め落としている、ってのはよく耳にするがそれは初耳だ」  クロスの口にした召喚札師(リスナー)デミトリアとは、この世界でも屈指の召喚札師(リスナー)として名高い人物。同時にその力を持って配下と共に各地を攻めてる事も世界中に轟いている。  そのデミトリアに国を滅ぼされた理由、ある物を求めていたというのにクロスは少し関心を示し、しかしワンドの身体が微かに震えだしたのを察して深くは踏み込もうとしないように努めた。 「それに関してはワタシがお答えしマス。デミトリアが求めていたもの、それは古の契約書デス。もっとも、各地にあるのは全て断片で、エメリアのものも同様ですガ」  ワンドに代わりクロスに答えたクラブスが口にした古の契約書の断片。その言葉にクロスは目を細め、すぐに元に戻ると腕を組んで右手を自身のあごに当て思案を始める。  クラブスが続けようとすると、うんと頷いたワンドが前に出て契約書について語り始めた。 「……古の契約書、別世界の魔王との契約を可能とする禁断の書はいくつかの断片に割かれて各地に安置されています。僕の国もその一つ、それ故に滅ぼされてしまった……だからといって渡してしまえば、この世界に現れるであろう魔王によって世界は滅んでしまう」  そのようなものが本当にあるのかというのは疑問にも思うものの、似たような歴史はこのエレメンタリスにも幾度となく登場している。クロスは黙って耳を傾け続け、ワンドもまた彼の姿勢に応えるようにさらに語った。 「僕の両親は、僕にデミトリアに対抗しうる力を持つ召喚札師(リスナー)を探せと伝えて命を、奪われました。古の契約書の断片も、その時に僕に渡されています」 「この半年間、デミトリアの放った刺客に追われる日々を過ごして来まシタ。召喚札師(リスナー)の力を持つルイさんのおかげでここまで来れましたガ……まだ目的の召喚札師(リスナー)は見つかってはいまセン」  ワンドとクラブスの話から、彼らの事情を理解するクロス。しばし沈黙し、答えを待つワンドの眼差しを感じつつ、閉じた口を開く。 「……この仕事は受けられない、理由は、あまりにもリスクが大きいからだ」  答えはノー、クラブスは驚愕しルイは悪態をつくように舌を打ち、ワンドも一瞬だけ目を丸くして驚きを見せたがすぐに戻って俯き気味に下に目を向けた。 「そう、ですよね。ごめんなさいワガママ言ってしまって……」  しゅんとした様子のワンドの姿を見てクロスは何かを思う。幼い少年の姿をワンドに重ねて見ていた。  それからしばしの沈黙が続いてからクロスはその場から立ち去り、人混みに消えて行く彼の後ろ姿をワンドは見えなくなっても、長い間その場から動かず人の流れをじっと見つめていた。断られたが、不思議と彼とまた会える気がしたから。    ――    日が暮れ始めて、街の賑やかさも少しずつ静まり夜の帳が下りてくる。  表通り沿いの宿屋にてワンド達は夜を過ごす。部屋の窓沿いにずっと座り、夕暮れの空をワンドはずっと見つめながらクロスの事を考えていた。  短い間ではあったがとても印象深い。何より、彼の持つカード入れに触れた時に伝わったものがまだ手に残っている、今まで感じたことがないほどのものを。
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