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第一章三節b

 観戦する人々も思わずおおっと声をあげてしまうほどの速さに、ハントは危なっかしく避け続けており、次第に結界の方へと追い立てられていく。 「あのままだとグレムリンは壁にあたりマス、そうなれば避ける事は不可能デス」  クラブスの言う壁とは結界の事。容易く破れないそれは壁になるので追い立てれば壁を背にする形となり、避けるのは難しくなる。  そうなればハントはやられるしかないのだが、それを防ぐのもまた召喚札師(リスナー)の腕の見せ所。  しかし、クロスは特に何かをしようとする仕草を全く見せずに腕を組んで見守っているだけ……ルイのようにカードを抜き出してはいない。 「私のクー・シーの強さに恐れをなしたか! 一気に仕留めてやる! 呪文(スペル)発……」 「呪文(スペル)発動“ブラックスモーク”」  ルイがクー・シーが壁にハントを追い込んだのに合わせて手にしたカードを使用しかけたその時、クロスは組んでた腕を解くと同時に左手の人差し指と中指にいつの間にかカードを持っており、言葉を口にするとカードが消えてハントを中心にして突然黒い煙幕が発生してクー・シーごと姿を見えなくした。  召喚札師(リスナー)が扱うのは契約した魔物や精霊のそれだけではない。呪文(スペル)カードはその中の一つである。 「小癪な……!」  そう言ってクー・シーは一度大きく後退して煙幕から出たが、異変に気づき辺りを見ます。それは、自分が手にしていたはずの剣がなくなっていたからだ。  それにはルイを始め誰もが驚き、慌てるクー・シーにルイも焦りを見せた。 「落ち着いてクー・シー! 今武器を……」  ルイが手にしていたカードを一旦カード入れに戻したその時、煙幕から飛び出して姿を見せたハントが大きくジャンプしてクー・シーに向かって何かを振り下ろす。それは、クー・シーが喪失した剣であり、不意打ち気味に出された為に対応できずに身体を剣で切られてしまう。 「クー・シー!」  倒れ伏す前にクー・シーの身体が消えて光の粒子となり、ルイのホルダーの中へ吸い込まれていく。同時にハントが手にしていたクー・シーの剣も消え、それを不思議がるハントにクロスは声をかける。 「ハント、戻っていい」 「ししっ!」  クロスに言われたハントが彼の出した白地カードに身体を灰色の光の粒子に変えて戻っていき、労うかのように一度カードに頷いてからクロスはカード入れにハントのカードを戻す。   劣勢の状況を一瞬でひっくり返して逆転勝利、そんなクロスに観客らから拍手が贈られるが、対峙するルイは歯を食いしばってから再度カードを引き抜く。 「まだだ!」 「……やめとけよ、今のあんたじゃ俺には勝てない」 「そんな事はない! 私は……!」  負けた事でさらに怒りを高めたルイにクロスは呆れ果ててカードを引き抜きかけたが、その前に外にいたワンドが一歩前に出て大きな声と強い思いを持ってルイに言葉を投げた。 「そこまでにしてくださいルイさん! 命令します!」 「ですがワンド様……! ……わかり、ました、この勝負、私の、負けとします」  ワンドに従ったルイが悔しさを滲ませながら敗北宣言をするとそれと共に結界が消えて行き、クロスも抜きかけたカードを出さずにフタを閉め、大きくため息をつき膝をつくルイを見つめた。    戦いが終わって人々も散り散りとなり、再び噴水広場は元の状態となる。  クロスはワンドの弁明もあって誤解は解けたがベンチに座るルイは俯いたままであり、それをワンドもクラブスも心配そうにしているのに小さくため息をつく。 「……あのまま続けても良かったんだが、何で止めたんだ」  クロスがそれをぶつけたのはワンドに対してだ。先程の戦いは止めなければまだ続いていた、だが止めたのには何かしらあるから。  意図はわからなくはないが、やはりワンドの言葉でそれを聞かねばクロスも、恐らくルイも腑に落ちない。 「無益な争いをしてほしくなかったんです。それに、ルイさんやクロスさんのカードも傷つくから……」  カードが傷つくから、クロスは悲しげに出された少しだけその言葉に疑問符を持つ。  召喚札師(リスナー)がカードより召喚した存在は基本的に致命傷を負っても生命までは失わずにカードに戻る。無論、その回復に時間を要するのですぐには使えないが、実質的に不死身のようなものだ。  多かれ少なかれ召喚札師(リスナー)の事を知るワンドが基本とも言えるそれを知らないはずがない。しかし、もし知っていて言ってるのであればと、クロスは自己完結できた。 「……申し訳ありませんワンド様、あなたを悲しませてしまいました」 「大丈夫です。ルイさんも、僕を心配してくれたからクロスさんに勝負を挑んだ……僕の方こそ、一人で勝手をしてごめんなさい」  互いに謝りあったのを確認してからクロスは立ち去ろうとするが、ワンドに手を掴まれてしまいそれが叶わず、目を合わせながら何だ?と質問を投げてからワンドの言葉を待つ。 「俺は国の問題に関わるつもりはないぞ」 「何故それを……やはりお前は!」 「ルイさん待って、僕が自分の本名を言ったんです。クロスさんは、悪い人じゃないです。カードも、すごく大切にされてるのがわかるから」  ワンドの小さな手がクロスの右腰にあるカード入れに触れる。そこから、ワンドはカード入れの中のカードがクロスに大切にされているのを感じ取る。  彼の言葉にクロスは少しの驚きを感じる。そういう感性の持ち主なのか、あるいは別の何か……いずれにせよワンドが自分を悪い人でないと言ったように、クロスもワンドがただの子供ではないのを悟り話を聞くことにした。
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