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名無しなんて寂しいじゃないか

 地面は真っ暗。夜空も暗いのに、何故か明るく周囲を見渡せる。  そんな場所で闇の校舎浄化作業に突入して十分ちょい。 「めんどくっさいわああぁぁ!!」  消しては追加される校舎に、俺は切れた。  後ろで座り込んでいる加藤と内田を守りながら、ひたすら似たような学校を消していく。  そのエンドレスっぷりが超うざい。 「あーはいはい、そうですか。マジでやってやるからなチクショウ」 「大丈夫ですか勇者さん」  加藤が気遣ってくれる。いかんいかん。一般人に気遣われてどうする。  俺は勇者だ。安心感を与えねば。 「へーきへーき。こっからすげえ残念な感じで全部処理するから」  やり方を変えよう。世界全域の地面に俺の魔力を潜める。  同時にこれ以上この暗黒空間が伸びないように細工完了。 『呪いの校舎にお越しの勇者様。お次は悪夢ヶ丘小学校ー。悪夢ヶ丘小学校でございます』 「バスガイドかお前は」  校内……っていうか校外のどこからか届く放送につっこんでしまう。 「勇者様! また上から校舎が!」  まーた離れた位置に真っ黒な木造校舎が降りてくる。  だが甘い。地面につくと同時に完全浄化完了。  光の粒子となって成仏していった。 「うおぉ……なにやったんですか?」 「地面に光の魔力をくっつけた。はっはっは、ざまあみやがれ。勇者にホラーなんて通用しないんだよ」  よく生徒数人が呪いの校舎に入っちゃって、ピンチになったり、死人出たりしながら謎解きして脱出する系の話がある。  ぶっちゃけ魔王城の方が百倍ホラーだからね。  音速の五十倍で動いて、即死系魔法連発する骸骨の剣士とかいるから。 『続きましてー、天空の暗黒校舎ー。あ天空のー暗黒校舎でございますー』 「名無しこらああぁぁ!!」  天空に浮かぶ校舎登場。手から魔力波ぶっ放して消してやる。 「お前ふざけんなよ!」 『冷静さを欠いていますね。一度深呼吸してから死んではいかが?』 「駄女神この野郎……」  名無しの位置はほぼ特定できている。イヴに教えた空間制御術だこれ。  別次元を融合させたり、適当にくっつけたりして、自分は多次元に逃げ込む。  迷路にも一本道にもできるし、いざとなれば別次元に退避できるわけだ。 『駄女神はあなたの生徒でしょう? 今頃そちらの家にリュカが向かっているはずよ』 「リュカってあのクラリスの知り合い女神か。弟子の女神も大量に連れて行ったみたいだな」  ちゃんと監視しているのだ。結界にそういう機能をつけた。  どうやら結界に集合しているようだ。細工はしたし、発動して試練を与える。 「そんな女神に負けるなよ? 駄女神一同」 「女神どんだけいるんですか」 「めっちゃいるぞ。世界の数より多い」  加藤と内田が引き気味だ。  まあ地球から来たんなら、そういう反応ですよね。 『助けに行きたくはないのかしら?』 「あいつらにはいい試練だよ。実戦経験は豊富にしておきたい」 『この騒動すらも授業にしようということ?』 「ああ、クラリスや美由紀の弱点も解決できそうだしな。わりと感謝してんだぜ」  あいつらはちょっとだけ伸び悩んでいるというか、努力の方向を間違えている。  俺に近づく。正確には俺の強さに近づこうとしてしまう。  女神として立派であり、俺の後追いなんてする必要はないのだ。 「ま、解決できなくても、あいつらは立派な女神だよ」 『納得したところで、あなたは逃さない。ここで死ぬまで校舎を彷徨うのよ』 「俺を校舎で倒そうってのが甘いんだよ」 『…………続きまして都市伝説シリーズ。巨大花子さんー。巨大花子さんー』  でっかいおかっぱ頭の女の登場。皮膚は紫。目玉はない。  目のあるべき場所から、どばどば血の涙を流している。 「ひっ、いや! なによあれ!」 「落ち着け内田。とりあえず勇者さんの邪魔にならないようにするぞ」  なーんにもない場所では隠れることもできない。  内田を自分の後ろに隠して震える加藤。  そういう男気溢れる行動は、勇者になれる素質高いよ。 『ダーク花子ビイイィィィム!!』  口からどす黒いビーム出してきた。 「アホかボケエ!!」  ビームごと拳圧でぶっ飛ばして浄化。  俺は勇者だ。殴ろうが浄化できる。聖なる力っていうかツッコミで浄化できる。 「お前はアホか!」 『ご存じないのかしら? 裏校舎の伝説、巨大ダーク花子マンを』 「さっきと名前違うじゃねえか!!」 「マンって男じゃないんですか?」  内田さんの冷静で的確なツッコミが光る。 『悪魔の科学者に捕まり、改造されてビームが撃てるようになった花子さんは、今日も裏校舎に訪れた子供たちに襲いかかるのよ』 「科学と怪談は相容れないものなんだよ!」 『最近ホラーと現代科学とかと混ぜるの人気でしょう? 霊の映る動画とか。呪いのスポット生放送とか』 「お前結構俗物だな」  やっぱり女神って暇なのだろう。永遠の命って持て余すよね。 『俗物でも強いはずなのよ。今の花子ビームだって木星くらい消せるのよ」 「木星!? あの第五惑星で、太陽系でも随一の大きさといわれているあの!?」 「無駄に詳しいな加藤」  ここで加藤の意外な趣味発覚。だからどうした。 「加藤くんは野球部のエースだけど、成績も上位なんです」 「なんだそのまったくいらない情報は」 「甲子園以外価値のない男って言われています」 「蔑称じゃねえかなそれ」  その二つ名に異議はないのかい。本人照れ顔ですけども。 「高校野球界の勇者と噂なんですよ」 「お前ら中学生じゃないのか?」 「高校生です。あの中学は卒業生に突然降りかかる災い的なそういう……なんだっけ?」 「なにか……条件とかあったような……」 「凄いふわふわしてんな。まあ浄化したし忘れろ」  いやなことは忘れましょう。どうせ誰も信じちゃくれないさ。 『見ると死ぬ映画上映会が始まります』  上から降りてくる、映画館でしか見られない巨大スクリーンをぶっ壊す。 『せめて見てから壊していただけませんか?』 「見るかそんなクソ映画」 『クソ映画かどうかは見てから判断し、批判するべきです。見もせずにネットの批判だけを真に受けて叩くのはいけませんよ』 「なぜ俺はネットモラルを語られているのだ」  こいつの性格がよくわからん。だが完璧に把握したよ。居場所とか。 「そんじゃ茶番は終わりだ。全員助けてさっさと帰るぜ」 『そう、ならせいぜい守りきって見せなさいな。まだまだ校舎はあるのよ』 「茶番は終わりって言っただろ」  化物と校舎が出る前に、名無しがいる異空間へと俺の魔力を忍ばせた。 「なるほど。装置か本人かで悩んだが……両方ってわけか」  理屈さえわかっちまえば楽勝だ。装置の中へと魔力でハッキングをかける。  全ての校舎を検索。まあこれが無数にあることあること。  無数だろうが勇者に不可能はないけれどな。作戦開始。 『次は最強の暗黒地獄校舎をプレゼントするわ!』  そしてなにも降りてこない。はい成功。あとは名無しとご対面だ。 『そんな!? どうなっているの!?』 「行くぜ二人とも。掴まりな」  二人を連れて、名無しのいる世界へと踏み込んだ。 『消えた!? 勇者が逃げるというの!?』 「いやいや、見くびってもらっちゃ困るぜ」  そこは窓もなく、出入り口すらない部屋だった。  部屋そのものは広く、沢山のモニターが存在し、様々な世界を映している。  生活感はあるが……住みたい部屋じゃあないな。 「あなたどうしてここに……」  驚くほど色白で、長い黒髪と、綺麗な青い瞳が印象的な女神だ。  こいつが名無しの本体だろう。森で出会った姿からは、生気が感じられなかった。 「もう校舎は出てこない。俺が全部浄化した」 「ふざけないで。似たような世界はいくらでもあるのよ。どうやって装置を止めたの?」 「その装置と、お前の体質はもう調べた」  明らかに動揺しているな。  目を見開き、長い髪で隠しながら俺の話に耳を傾けている。 「その装置は全世界の呪いの校舎や都市伝説を探し、暗黒空間に転移させるものだ。なら逆に俺の浄化魔力を別世界に流し込んで、一気に完全浄化できるってわけさ」 「不可能よ……世界がどれだけあると思っているの? 平行世界まで含めたら、異世界に限りなんてない。膨大で……それこそイヴ様でも足りないほどの魔力が必要なはず。それを私に気づかれずに流すなんてできないわ」  使い古された豪華な椅子に背を預け、呆然と天を仰ぐ名無し。 「できるさ。勇者だからな。そうしなきゃ助けらんねえならやるだけだ」 「なによそれ……そんなの……勇者だからって……」 「勇者に不可能なんてあっちゃいけない。大抵の世界にゃ警察や衛兵がいる。神様もいる。そいつらが解決できないほどの理不尽を、笑ってぶっ飛ばすために、勇者ってのはいるのさ」 「それじゃあ、もう私達も呼ばれることはないんですね」 「オレたち……帰れるんですか?」 「おう、後始末をしたらな」  立つ力も残っていないであろう名無しに歩み寄る。  意外にも抵抗せず、ゆっくり目を閉じた。 「抵抗はしないわ。どのみち戻れない。時間は稼げたもの。ひと思いに殺しなさい」 「アホか」  脳天にチョップ。はい解析完了。体質改善オッケー。 「ぷぎゅ!?」  頭を抑えてぷるぷるしている名無し。  はっはっは、ちょっと涙目じゃないか。もうちょっと加減してやりゃよかった。 「どういうつもり?」 「言ったろ、全員助けて帰るって。これで悪霊呼び寄せる体質は消えたはずだ」  しばし沈黙。そして慌てて自分の体を触ったり、魔力を出したりしている。  よしよし、完璧だ。ついでに体力も回復させてやった。 「お前が名無しなのは、その全ての呪いやら負の瘴気を集めちまうし、操作できる能力によるものだ。おおかた女神界で危険だとか判断されて、こういう空間にばっかり閉じ込められたんだろ。名前つけてすらもらえずにな」  女神って連中は全員がクリーンで優しいやつじゃない。  昔もいたよ。自分の野望のために、平気で女神を犠牲にする連中がな。 「もう大丈夫。別の加護を与えておいたよ」 「女神に……人間が加護を?」 「久しぶりにその反応されたわ。逆に新鮮だな」  うちの駄女神ときたら、加護をほいほいもらえるもんだと思ってやがる。  急に心配になってきたな。俺も先生が板についてきたのかね。 「浄化とか、神聖な力っぽいの詰め合わせだ。回復魔法も使えるし、幸運になれるお徳用セットだぞ」  無言で手のひらの魔力を見つめ続けている。  ちょっといっぺんに説明しすぎたかも。 「勇者を足止めすれば、力を消して自由にしてくれるって。それまで、絶対に誰にも消せない呪いの力だって……言われたのに……」 「勇者だからな。楽勝だこんなもん。これからは好きに生きろ。お前は自由さ」 「私が……自由……でも、わからない。なにをすればいいか」 「とりあえず名前考えようぜ。いつまでも名無しじゃあれだろ」 「お、いいですね! 流石勇者さん!」 「かわいい名前を付けてあげてくださいね」  三人から期待の眼差しである。 「ちょっと待て俺一人で考えるのかよ!?」 「オレそういうのさっぱりで」 「私もちょっと……勇者様がお願いします」  高校生二人はそんな感じだ。四人で相談しよう計画は、脆くも崩れ落ちた。 「私の名前を……お願いします」  なぜここでしおらしくなるかね。すがるような目でみられたらやるしかない。 「……………………リキュア」 「りきゅあ?」 「お前はもう霊とか関係ない。癒やして、守る女神だ。その力で自分の辛かった過去とか、心の傷とかを癒やすんだ。これから先に起こる楽しいことで。最初っからやり直す。だからリキュア」 「りきゅあ……私はリキュア……」 「いいですね。流石勇者さん!」 「かわいいです!」  好評らしい。あとは本人が納得してくれれば大成功だが。 「ありがとうございます。勇者様」  ようやくリキュアが笑ってくれた。よし、名前問題解決。 「んじゃ高校生送るから、魔法陣の上に立て」 「お世話になりました」 「勇者様がいなかったらどうなっていたか」 「なーに、きっと加藤が助けに来てくれたさ。ほれ、もってけ」  錬成したリストバンドをくれてやる。 「心が落ち着くお守りだ。言っとくが超パワーが手に入ったりしない」 「大丈夫ですよ。オレの夢は、オレの手でつかみ取ります!」 「いいね。かっこいいぜ」 「私が加藤くんをしっかりサポートしますから!」 「お幸せに」  あいつらなら、どんな困難が待ち受けていてもやっていけるだろう。 「その、ごめんなさい」 「いいよ、そっちも辛かったっぽいしさ」 「沢山の人を癒やしてあげてね」 「ありがとう。必ず、この力を平和のために役立てると誓うわ」  お別れも済み、ゆっくりと魔法陣の中へと消えていく二人。  今度は離れないように、しっかりと手を繋いだまま。 「ありがとうございました!!」 「このご恩は忘れません!!」  手を振り消えていった二人を見届け、俺達も別の場所へと移動を開始。 「さて、俺達も女神界に戻ろうぜリキュア」 「はい、どこまででもお供いたします。この生命は勇者様とともに」  イヴは生きている。ならば、今度こそ理由を聞きたい。  俺に足りなかったものは何なのか。なぜ俺を殺そうとしたのか。  まあ……駄女神の様子を見に行ったあとでな。
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