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神造女神ローズ編 後編

 女神女王神の城からひとっ飛びで宇宙へ出る。  目指すは太陽。光速を超えてローズを迎えに行く。 「ん?」  宇宙に巨大な炎の龍がいる。一匹五百キロくらいの長さだな。  和風の長い龍ですよ。しかしなぜ千匹くらいいるのかね。 「これはあれか、太陽側からの刺客か」  言っているうちに突っ込んでくる。面倒なので俺も突っ込んで殴り抜けた。 「ふむ、百から三百兆度ってとこか。まんざら太陽の『もと』ってのも嘘じゃないようだな」  当然無傷だ。この程度で怪我するようで、勇者がやれるかよ。  ついでだ。龍が生まれる方へ進もう。もう襲い掛かってくるやつは無視。  どうせ雑魚を何匹倒しても無駄。炎の中を突き進む。 『警告』 「喋れるんかい」  龍の一匹が喋ってくれた。独り言は寂しいのよ。  男女どちらとも取れる不思議な声だ。機械音声に近いな。 『これより先は立入禁止宙域である。速やかに退去せよ』 「俺と会話できるかい? そっちにローズっていう女神が行っただろ? そいつさえ返してくれりゃいい」 『不可。システム中枢へ侵入しようとする生物を感知。セキュリティシステム起動。排除開始』  魔法じゃなくて機械式なのか? 女神界の技術の粋を集めたらしいし、どっちの要素もあるのだろう。 「そう簡単に返しちゃくれんか」  億を超える龍がつめかける。だが関係ない。幸いここは宇宙だ。 「悪いな。今の俺はちょいと機嫌が悪いぜ」  少し強めに、怒りを込めてぶん殴る。  全て、全てだ。視界に映る炎全てを消し飛ばした。 『レベル2。ミラージュシステム起動』  急に場が神聖な雰囲気へと変わる。そこはまるで神の住まうゴージャスな宮殿。  広大な室内は、曲がり角さえ見えない広さだ。  俺を惑わせようって魂胆か。 「蜃気楼の要領だな。だが甘い。その程度の魔法で」  敵の魔法を分析。やはり機械的に処理しているだけ。パターンが単調だ。 「俺を止められると思うなよ」  逆にミラージュシステムとやらにハッキングして書き換えてやる。  世界のひとつやふたつ飲み込めるほどの圧倒的な量だ。  訓練された女神でも、その膨大なる世界の理に廃人化するか発狂するしかない。  だがそこは勇者。こんなもん楽勝である。 「さて、ローズまでの最短距離をお願いする」  長い長いレッドカーペットが敷かれる。  こいつがローズまでの最短距離だ。そう書き込んだ。 『撹乱開始』  鼓膜をぶっ壊し、気分を害するためだろう。大音量で神を称える歌が流れ続ける。  音波に特殊な魔力を載せ、催眠の効果もあるな。小細工が好きな機械だこと。 「どうせならもっと派手にいこうぜ」  もうシステムの魔力は見切った。音楽のジャンルを変更。  気分の高まるロックに書き換え、テンション上げて突っ走る。 『対象の検索開始。種別、人類。能力計測…………計測不能。全能力測定限界突破。異能およびスキル数……百……千……億……京……測定を中断。前例なし。緊急事態とみなし、レベル3。対生物用複合プロテクト起動』  赤い絨毯の一本道以外、全ての景色が消える。  完全なる闇の中、俺のリクエストしたロックだけが鳴り響く。 「暗くすりゃ道に迷うと思ったかい?」  全方位から水が世界を包む。  しばらくすると水はマグマに変わり、真空に変わる。  どうやら人間が生活できない環境を作り出して殺すつもりらしい。 「俺に弱点はない」  無視して駆け抜ける。今度は水の中で水圧がころころ変わっていく。  ちょっとしたレジャーランドだな。 『物理的破壊へ移行』  無数の武器が三百六十度から飛んでくる。  剣・槍・槌・鎌・銃火器。どれも魔力で強化された名品だ。  伝説の名品シリーズの中に、妖刀村正とデュランダルを見つけた。 「まだローズの意識はあるってことかね」  意識が吸収されたのか、それともローズの記憶が作り出しているのか。  今はわからない。だが、様々な世界の武器が飛び交う中、その二本だけが俺の目に留まる。 「ちょっとだけ、返してもらうぜ」  使えってことなんじゃないか。そう思った。今はこの勘に身を任せよう。 『プロテクトを強化』  軽く見積もっても数百兆はある武器の群れ。  でっかいギロチンの刃なんかもありやがる。  丸太やドリルに大砲。武器展でも開けば金が取れそうだ。 「ローズ。見てるか知らないが、特別授業だ」  二刀流スキル全発動。パワーアップスキルも全て、思い出せる限り使う。 「見せてやろう。勇者といえば剣での必殺技だからな」  剣に魔力を集中。薄く光る剣の内側に、どれほどの魔力が込められているか。  それを計れるものは、全世界で俺だけだ。 「命の儚さは閃光のごとし。その尊さは花の舞い散る様がごとく、いずれ散りゆく宿命なり」  神であろうが概念であろうが、俺の斬撃から逃れる術はない。  どんな存在も、どんな能力も、ただ消え逝くだけ。  徹底して防御と回避を許さぬ、全能力・全存在を超えた奥義。 「ならばせめて、この手で彩り永劫なりし涅槃へ送る。六道・三千世界を斬り裂く秘中の秘」  迫る武器には目もくれず、ただ久々に滾る力と心へと身を任せる。   本当に久しぶりだ。先生もいいが、やはり俺は勇者なのだろう。  自然に笑みがこぼれ、昔に戻ったように、ただ剣を振るった。 「秘剣――――――桜花雷光斬っ!!」  瞬間、全ての武器を斬り落とし、太陽そのものへとダメージが伝わる。  その魔力も魂すらも、有機物無機物関係なく、斬られたものは桜の花びらとなり、最後に一花咲かせて散っていく。  手応えあり。例え別世界に逃げようとも、この攻撃は回避不可能だ。 『システムに重大な破損を確認。修復不可能。システム、ファイナルフェイズへ移行』  炎が消え、武器が砕け、元の静かな宇宙へと戻る。 「お前の出番は終わりだ。迎えに来たぜ、ローズ」  ついでにローズのいる中枢までの距離と次元をカットした。  たどり着いたそこには、球体の中に玉座のようなものと、無数のパネルが並んでいる。  不思議な場所だ。宇宙全てを見渡せるようで、異世界の太陽に関する情報がリアルタイムで送られてきているみたいだな。 「先生……どうして……どうやってここに……」 「俺は勇者で先生だ。それ以上の理由が必要かい?」  お約束の全裸で、透明な球体の中に漂うローズ。  全てのシステムが球体の中に収められている。  つまりこいつがコアだ。無駄に長い旅だったぜ。 「逃げてください」 「断る。お前を必ず連れ戻す。安心しな。俺が来たからには、必ずなんとかしてやるよ」 「どうして言い切れるんです? この魔力は、もう抑えられない。逃げることをオススメします。私は、先生に死んで欲しくありませんから」 『ファイナルフェイズ移行完了。コアと結合。最終プログラム起動開始』  球体の中に太陽の魔力が圧縮されている。  渦巻くそれは、やがてローズの胸に吸い込まれ、姿を消す。 「……逃げてください。私は太陽のコア。私を使い、先生を排除する気です」 「生徒が消えそうなんだ。先生が逃げてどうするよ」 「先生が消えそうだから、逃げて欲しい。可愛い生徒のお願いですよ」 「聞けないね。意地でも連れて帰る。太陽も俺がなんとかしてやる」  球体が砕け散り、ローズの体が炎に染まる。  今までのどの炎よりも純度が高い。ローズを使ってエネルギーをコントロールしているのだろう。それが気に入らない。 「先生……逃げて」 『排除開始』  赤い光に包まれ、シルエットだけになったローズの声をかき消すように、炎の拳が突き出された。 「そんじゃ授業開始だ」  正面から拳を打ち付ける。  ぶつかり合う衝撃の波が、宇宙すらも震わせた。 「ほう、やるね。いつぶりかな、殴って死ななかったやつは」  俺と拳を合わせられるか。不謹慎かもしれんが面白い。 「これは私の意思では……」 「知ってる。お前の体を乗っ取って、意識だけ残してんだろ。見りゃわかる」  何発打ち合っても魔力が減っていないな。  俺が本気じゃないとはいえ、無限の魔力ってのも本当らしい。 「ロース、お前は魔力の操作に一番慣れているはずだ」 「こんな時に何を……」 「授業だよ。教材にちょうどいい」  太陽化したローズの手のひらから、熱光線が迸る。  真っ赤なビームは余波だけで数百の星を消し飛ばしていく。  だが狙いが甘い。簡単に避けられる。 「コントロールが雑だな。そんなんじゃ、勇者は焦がせないぜ。授業続行だ」 「正気ですか?」 「もちろん。自分の力で太陽を手玉に取るのさ。やってみな」  喋っている間にも、ローズの魔力は上がり続けていく。  それでも会話できているのだから、希望はある。  1%でも希望があれば、それは勇者にとって100%と同じこと。 「不可能です。既に先生と戦えるほどになっている。このままでは押し切られてしまいます」 「押すってのはな、こうやるのさ」  強めに拳を打ち付ける。ガードしたローズの体が、後ろへ飛んだ。 「何度言われようが俺は逃げない。サファイアとカレンとも約束した。お前を連れて帰ると」 「そうですか……悪いことを、してしまいましたね」 「戻りたいか?」 「戻ってどうなるというのです? コアが欠けた太陽はどうするのです?」 「どうにでもしてやるよ」  会話中もずっと攻防は続いている。  戦闘は光速を軽く超え、一発一発が世界の危機レベルだ。 「もうすぐかつてない無限の魔力が生まれる。そうすれば、誰も追いつけない。私の魔法は究極まで高まってしまう」 「俺がいるさ。ローズがどれだけ強くなろうが、俺が何度でもその力の使い方を教えてやる。それができるように、俺はずっとお前より強くあり続ける」 「不可能です。人間には限界がある。私は誰にも手がつけられなくなる。対等な存在なんていなくなる。戦えば死ぬんです」 「俺は死なないさ」  証拠を示すように、攻撃の全てを力技で吹っ飛ばす。 「私には、できません。駄女神に扱える代物ではないのです」 「できるさ。だからコアに選ばれた。俺がチャンスを作る」  この力は決して間違ったものではない。有効に使えばローズの力になる。 「チャンス?」 「お前の中に入った制御システムを、太陽を傷つけずに吹っ飛ばす」 「魔力は無限に湧き出します」 「知ってる。だから無限に戻る前に、お前が太陽の主になれ。太陽はシステムからローズに移譲される。そうしたら核を壊して終わりさ」  ローズの魔力操作は女神のレベルを凌駕している。  自我を失わず、制御することだって可能なはずだ。 「不可能です。システムを失った魔力は暴走を始め、やがて私を飲み込んでしまう」 「可能になるまで支えてやるさ」 「先生にどれだけの負担がかかると思っているのですか! 本当に死にますよ! 先生に……貴方に死んで欲しくないから! だから……だから私は……私はここに来たのに!」  ローズの声が震えている。真紅の光に包まれているその目から、涙が流れているような気がした。 「俺は絶対に負けない。お前が永遠に強くなるなら、永遠に頂点にいてやる。好きな時に俺を頼れ」 「……私がこの力を制御できるまで、そばにいてくれますか?」 「ああ、ずっと一緒にいてやるよ」 「今回のように、危険な目にあうかもしれませんよ?」 「はっ、危険にしちゃちょいと温いな。もっと熱くてもいいぜ」 「本当にもう……死んでも知りませんからね」  声に明るさが戻った。いける。魂が安定しさえすればいい。  ローズの両手に、今日一番の魔力が集う。 「もっとだ。女神界が壊れるとか、俺に怪我させるとか気にするな。全部俺がなんとかしてやる。俺を殺す気で、全部の魔力を放出しろ」 「やっておいてなんですが、温度は兆を超えています。本来近づくことすらできないはずですが」 「知らんな」 「ふふっ、カレンやクラリスが信じている理由が、少しだけわかった気がします」  ローズから少しだけ距離を取る。さて、俺がしっかりしなくっちゃあな。 「いきます。私の全身全霊をかけた一撃! くらって死なないでくださいよ!」  赤く眩しい光の渦が、俺の体を飲み込んでいく。  太陽エネルギーを一方向に集中して撃ち出せば、その温度は想像を絶するものになる。 「もうひとつ教えてやるよ。太陽は生き物を暖かく照らしてくれる。生きていくのに必要だ」  真正面から熱光線を受け、その中を一歩一歩進んでいく。  全てを受け止め、脇目も振らずにローズだけを見据えて進む。 「だがこれは暖かいんじゃない。ただ熱いんだ。それじゃ生き物は育たない」  右手に生物の根源となる光を集約。同時にシステムの隠れ場所も発見。 「本物の暖かさってやつを教えてやるよ」  俺の右拳は、ローズを傷つけることなく、正確に体内のシステムを打ち砕いた。 「今だ!」 「やってやります……必ず!」  暴れ出す炎を一身に受け、自身の魔力で押さえつけている。 「訓練を思い出せ! お前の力はそんなもんじゃない!」 「うっ……ううぅぅ……」  本来女神のキャパシティを超える行為だ。圧倒的な素質を持つローズでも、これは厳しい。だがまだ手は貸さない。まだローズは負けていないんだ。 「これは……」  俺の胸に灯る小さな光。通信魔法だ。  いざという時のため、俺が女神女王神へと繋がるようにしておいたはず。 『ローズ! 聞こえる?』  サファイアの声がした。 「サファイア……どうして……」 『よかった、無事ですのね』  今度はカレンの声がする。 『二人とも無事ね? ローズは戻ってこれるのよね!』 「当然だ。今ローズは自分の魔力と戦っている」 『どういうことですの?』  かいつまんで事情を話してやる。  その間にも必死で抗うローズ。旗色は五分五分。 『ローズ! 負けないで! あんたはそんなもんに負けるほど、やわなやつじゃないでしょ!』 『そうですわ! 卒業するのは三人一緒ですわよ!』 「サファイア……カレン……」 「みんなが待ってる。帰ろうぜ、ローズ」  拮抗していた力が、ローズに傾き始めた。  魂が負けていないのだ。心の持ちようで、どこまででも強くなれるはず。  それが女神。人とは違う理に身を置く存在。 「う……うあああああぁぁぁ!!」 『ローズ!!』 『負けないで! あんたならやれるわローズ!!』 「戻ってこい! 全部終わらせて、またみんなで授業するぞ!!」 「ああああぁぁぁぁ!!」  世界の隅々までも照らすような光が放たれ、ゆっくりと光が小さくなる。  やがて太陽の魔力は、ローズの中へと完全に吸収された。 「…………案外、できるものですね」  意識を失いかけるローズを抱きとめてやる。 「先生、私……やりました」 「ああ、見てたぞ。よくやったローズ」  出来る限りの優しさを込めて頭を撫でる。  帰ったらもっとみんなで褒めてやろう。 『やったの? やったのね!』 「おう、終わったよ」 『やりましたわね! 凄いですわローズ!』 『さっすがね! やるじゃない!!』 「当然です。私は女神ですから」  俺達のよく知るローズが戻ってきた。  あとは俺の仕事だな。ローズを撫でていない方の手で、魔力を構成。 『ちょっといいかしら?』  女神女王神の声だ。こいつもなんだかんだ心配していたのだろう。  声からそれが伝わってくる。 『こんな時に言うのもアレだけどさ。太陽消しちゃったんでしょ? 女神界はいいわよ。小さめのを計算して作れば、影響なんてないわ。でも……』 「問題ないさ。もうすぐできる」 『できる?』 「ローズ、ちょっと離れるぞ」  回復魔法をかけ終わり、ローズから離れる。  結構な魔力を使うからな、怪我させないようにしないといけない。 「なにをしているのですか?」 「後始末。んー……このへんだな……ほいっと!!」  太陽があった位置へと手をかざし、左手の魔力を解き放つ。  女神界の宇宙に、より暖かくて危険度の少ない太陽が戻った。 「これは……」 『こっちでも確認したわ。消えちゃった太陽に似てる。けど……なに? どういうこと? 実は残ってたの?』 「違う違う。新しく作ったんだよ」 『つく……った?』 「戦っている途中に太陽の魔力構成と、制作過程やらシステムなんかを全部調査して、どうやって作られたのか、欠陥はどこか調べていたんだ」 「あの激戦の最中にそこまで!?」  確かに女神界の粋を集めたと言われたら頷ける出来だった。  だが俺は勇者。検索も完了し、より安全で安定した永久機関として、消えない太陽を作り出したのさ。欠陥部分を取り除き、ちょいと新しく改良もしてやってな。 「と、まあそんなわけだ」  ちゃんと説明してやったが、理解できているのかね。 『はあああぁぁぁ!? そんなんできるわけないでしょ!? あんたあの太陽がどんだけの技術と神力で作り出されてるかわかってんの!?』 「構造がわかれば、あとは作るやつの腕次第さ」 『んなわけにいくかあああぁぁぁ!!』 『ああそう。まあいいわ。先生ならそんくらいできるでしょ』 『あらあら、サファイアもようやく先生の凄さがわかってきたみたいですわね』 「先生に不可能はありません」  女王神とは反対に、教え子たちは納得してくれたようだ。 「俺は先生で勇者なんでね。ハッピーエンドのためなら、太陽の一個や二個くらい作ってやるよ」 『女神界の太陽を日曜大工感覚で作ってんじゃないわよおおぉぉぉ!!』 「さ、今度こそ帰ろうぜ。俺達の家へ」 「はい、これからもよろしくお願いします。先生!!」  こうして俺は、無事ローズの笑顔を守ることができた。  明日からはまた、いつもの教室で、騒がしい授業が始まるだろう。
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