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武の女神も駄女神だよ

 今日は基礎体力を上げるトレーニング。つまり体育だ。 「はい、じゃあ筋トレとランニングからいこうか」 「女神がやるには地味ね」  全員ブルマである。俺はいつものジャージ。 「女神界は毎回敵を用意できないんだろ。平和だし。女神しかいないし」 「平和なのはいいことなんですけどね」 「そんなわけでグラウンド十周追加だ」 「えーまだやるの?」  もうへばっているサファイアとローズ。体力ないなこいつら。 「グラウンドが長い気がするのですが」 「わたくしも感じました。見た目は変わらないのに、なぜか長い気がして」 「俺が空間いじってるんだよ」 「卑怯な真似を……それじゃあ終わんないじゃない!」 「ちゃんと体力ギリギリを見極めてるよ。嫌がらせ目的じゃない」  どうせなら場所は有効活用するのだ。基礎体力はあって損はない。 「水分補給して、休んだらまた走るぞ」 「また走るの……そればっかじゃない」 「冒険なんてそんなもんさ。歩きっぱなしの日もある」 「ありましたねー。大陸を横断しましたね」 「懐かしいな。最初はカレンもひーひー言っていたな」 「むう、もうあの頃より成長したんですから」  むくれるカレンは、汗をかいているものの余裕がある。  俺の冒険について来ただけあって、基礎体力はできているのだろう。  ならば問題は加護だ。レベル10の人間は、レベル2で覚える技を使える。  だが技だけ消えてしまったら。それはどう取り戻してやればいいのだろう。 「重力いじったから、三倍の重力で十周な」 「死ぬわよ!?」 「平気だって。全盛期のカレンは、二十倍くらいなら死ななかった」 「死ぬかどうかを基準にするのはいかがなものかと」 「大体この辺だ。こっから内側の重力が三倍な」  地面に線を引いてやる。徐々に過酷な修練に耐えられる体になってくれればいい。  そこまでゆっくりいこう。来週か再来週には、五倍くらいにできるといいな。 「あんた自分でできる? どうせ十倍とかにするつもりなんでしょうけど、なんかあった時に助けられるの?」 「そりゃできるさ。救助できないとかアホだろ。来週五倍にしたいんだよ」  俺の目的は立派な女神にすること。いじめ抜いて殺すことじゃない。   「ほっほーう? 言ったわね? なら百倍でやってみなさい。それで本当に動けるなら、五……三倍くらいならちょっとだけ頑張らなくもないわよ」 「ん、いいぞ。じゃあまず五十倍な」  適当に投げたボールペンが、土煙と轟音を上げて、地面に叩きつけられる。 「まあこれが五十倍だ。で、俺が入っても大丈夫っと」 「ふ、ふーん。やるじゃない」 「流石先生ですね!」 「相変わらず人間の領域を置き去りにした境地にいますね」 「で、次に百倍にするわけだが……」 「たのもー!」  上空から声がした。誰だか知らんが近未来の機動隊が着るような、ちょっとぴっちりしたバトルスーツの女だ。 「たのもー!」 「なんだあいつ? おーい! そこから下に来ると危ないぞ!」 「なに? 下がどうしたというの? 普通の地面でしょう」 「いや、そこから下は重力が五十倍だから……」 「なんだか知らないけれど、声が小さい。今降りてやるから、ちゃんと話せぶうぅおおああぁぁぁ!?」  言わんこっちゃない。地面に大激突し、自分の形に地下深く埋まっている。 「うーわ漫画みたいね」 「先生のお知り合いですか?」 「いや、記憶にない」 「また美由希ちゃんみたいに忘れてんじゃないの?」 「可能性は捨てきれんな」  とりあえず重力は解除。面倒なのでこのまま逃げたい。 「死んでないよな?」 「おそらく……掘り起こしてみます?」 「しょうがない。重力を上に向けるから、引っ張り出そう」  そこで爆発とともに這い上がってくる何か。なんだよホラーかよ。  紺色に近い黒のロングヘアーを後ろで縛り、エメラルドグリーンの瞳の女。  スタイルはいいんだろうが、重そうな白い鎧で若干隠れている。 「ふはあ!? はっ、げほっ! うほあ!?」 「おぉ……大丈夫か? 今回復してやるよ」  ぜえぜえいっているので、回復魔法をかけてやる。  よかった死んでなかった。危ない危ない。 「すまない。流石は噂に聞く強化合宿場だ。これほど過酷とは」 「合宿場?」 「ここは女神をより強くするための秘密の修行場なのだろう?」 「どうしてそんなことになった」  なんだか間違って伝わっているらしい。 「武の頂を目指す女神たちの噂になっていたぞ。究極の女神になるべく日夜鍛錬に励んでいるものがいる、最新式の訓練施設があると」 「多分場所間違ってんぞ」 「そこの実力者と戦い、施設のレベルいかんによっては、入会したい。その最先端スポーツジムに」 「完全に場所間違ってんぞ」  どうやったらここまで間違って伝わるのさ。勘違いで済むレベル超えてんだろ。 「とりあえず一番強いものと戦わせて欲しい」 「なんでだよ。まずお前誰だ?」 「我が名はグランデュール・ヴァルギリアム」 「……ゔぁる? なに? めんどくっせえ。おいグラ子」 「グラ子!?」  名前が長くてややこしい。舌噛むわ。もうグラ子でいいや。 「強いやつと戦いたかったら、女神女王神とでも戦ってろよ」 「馬鹿なのか? あのお方は全女神の頂点にして、最強の女神だ。一位を塗り替えるものが存在しなくなるため、殿堂入りとしてランク外に君臨している。そもそも謁見の機会すらほとんどない存在だぞ?」 「え、あいつそんな凄いの?」 「一応女神のトップなんですよねえ……」  まあ戦った時はお互いに全力じゃなかったが、そこいらの魔王や神々よりは強かったな。そうか、あいつ強いのか。 「ん? ランクってなんだ?」 「女神バトルランクだ。高ランクのファイターは、女神界でもヒーローだぞ。何故知らん?」 「俺は女神界の事情なんて知らねえって」  女神界って暇人ばっかりか。ろくでもねえことやってんな。  そんなことやってないで世界を救ったり、自分を磨いたりすればいいのに。  いや、だから強さランクがあるのか。ライバルがいれば強くなるって寸法だな。 「ああ、誰かと思えば。人間界から来た教師とはお前のことか」 「まあな」 「非力な人間に女神が鍛えられるのか?」 「俺は精神面とか、心構え担当だし」  女神として独り立ちできるようにしてやるわけだ。  駄女神は精神面から直す。これが一番厄介なんだけどな。 「そういえば人間にしては、そこそこ強いものがいると聞いた」 「先生は女神とだって戦えますよ」 「くだらん。所詮噂に尾ひれがついたもの。女神に対抗できる存在などいない。それが武神の間での共通認識だ」 「まあそうでしょうねえ。そういう連中ってプライド高いもの」 「お前も似たようなもんだろうが」  神なんてついている連中は、総じてプライドが高いもんさ。  ある程度はそういう態度でもいい。神とは本来そういうもんだからな。  限度と節度さえ守ればいいのさ。 「だから言ってやったさ。我がその施設の真偽を確かめてやる。何人かの女神は鼻で笑っていたが、きっと我と同意見なのだろう」 「お前らどんだけヒマなのさ」 「さあ、強いものを出せ!」 「じゃあ、こいつらを倒してみせろ」  話に飽きて、半分寝始めている駄女神連中を指名する。 「何言ってんのよあんた!?」 「ちょうどいい。実戦経験積ませてやる」  三人がどれだけできるか、同じ女神と戦わせてみよう。 「この連中がやるというのか? ランク四十八位のこの我と?」 「微妙な位置にいるもんだな」 「かなり強い方ですよ?」 「危なくなったら助けてやるよ」  自分達が女神の中でどの程度か知るのも勉強だ。  本当に危なければ助けよう。
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