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青ひげ4-1

 少し遅めの朝食を取ったあと、予定通り経済ラインへ向かう。そのためにはあの関所を通らないといけない。  関所には午前と同じ水都騎士の男がいた。 「あ、……許可証はあるのか?」  水都騎士の男と目が合うと、またお前かみたいな顔をした。 「はいはい、これでいいかしら〜」  ジャンクさんは薄黄色の紙を渡す。水都騎士の男は不審そうに薄着色の紙と私たちを、二度三度見直す。 「確かに受け取った。通行を許可する」  水都騎士はようやく納得したようだ。  ギギぃと音を立てながら、ゆっくりと門が開かれた。 「まぁ偽物だけどね」  ジャンクさんは小さく舌を出して呟いていた。聞かなかったことにしよう。 「うわぁ、すごい!!」  門を抜けたあと目に飛び込んできたのは、数多の露天市。客引きの声が雨のように降りかかる。  果物や野菜、魚や肉類などの食料品や若草色のドレスや防寒用のマントなどの衣服類、はたまたドキリとする刃物や頑丈そうな鎧まで何でも揃っている。 「活気に満ちた街ですね」  何でもマナヒィアは水都の中でも三番目に経済ラインが発展している街らしい。 「まずはあの店行くの」 「あ、こら」  どこかへ飛んで行ってしまいそうなメロの手を掴む。  でもその気持ちは分かる。私も好奇心に身を任せて探索してみたい。けど、ここはジャンクさんの意見を聞こう。 「ジャンクさん、どこから行きますか?」 「そうねぇ、まずはメロちゃんのお洋服かしらねぇ」  そういえば、メロの恰好はジャンクさんの服を無理やりベルトで締めているので不格好のブカブカのままだ。  少し奥の方へ進むと、露天市だったのが簡易テントや木造のちゃんとしたお店。更に中心に進んだところには高級感のあるお店が立ち並ぶ。 「このお店がいいわ」  ジャンクさんが選んだのは、中心地の中でもより高級そうなお店。いかにも庶民はお断りというような店だ。  ジャンクさんは一切の躊躇もなく、扉を開ける。ベルが鳴らしてふらっと中に入る。 「アンヌ姉、行かないの?」  尻込みする私も、メロに手を引かれて中に。  店の中は当然のことながら、綺麗に商品が陳列されている。  屈強な鎧から、パーティドレスまで品揃えは様々だ。しかしラフに切れそうな薄着は少ない。  よくよく考えたら、ジャンクさんの服って生地がしっかりしていたな。  私がゲロって汚してしまったものも、メロのために見つけたものも肌触りが良かった。っていうか、そんな高いものを私は汚したの? 「今更ながら、胃が痛いよ」  また少しえづきそうになる。今は絶対に吐かないけど。 「メロちゃん、おいでぇ〜」  ジャンクさんは子ども服コーナで手招きする。  「あら、これもいいわねぇ。あ、これも」  メロはしばらくジャンクさんの着せ替え人形のようになる。まぁ当のメロも服を渡されるたび、はいなの、と元気に答えて楽しんでいる。  親子に……見えなくはないけど、はたかた見たら不思議に思われるんだろうな。  何気なく値札を見て絶句する。 「……花都騎士の初任給より高い」  その場から足が離れた。  けれど、店を出るわけにはいかないし、行き場を求めてさまよう。  お花畑みたいに色取りで、眺めている分には十分楽しい。  特に目を引いたのは上から下まで真っ赤なワンピースドレス。余計な装飾はなく、上品で上質な赤にただただ魅了される。 「それは花都の薔薇を使って染めたものだ。それに防刃繊維だから丈夫だ。赤ずきん隊の頭巾にも使用している。美しい色だろ」  触れようとしたら店員さんがやって来たので、すぐに手を引っ込めた。腰がピシッと伸びたお婆さんだ。 「赤ずきん隊ってなんですか?」  買う意志のない私は必死に誤魔化す。それに赤ずきん隊について聞きたかったしちょうどいい。 「九頭身の魔女の異名をもつ女が組織した賞金稼ぎの一団だ。まぁ獣退治や山菜取りも引き受けてくれる街の便利屋みたいなもんだよ。今は忙しいらしくて引き受けてくれないがね」  そうなんだ。 「もっともここ水都じゃ、比較的安価で依頼を受けてくれる彼らはあまり歓迎されてないね。お金もお客も他の都に流れてしまうからね」  さすが商人の街だ。 「ところで試着してみるかい」  もう一度言う、さすが商人の街だ。 「いえ」と断ろうとしたときにジャンクさんがにゅっと現れた。 「あらいいじゃない。着てみなさいよ」   ジャンクさんに押し込まれる形で試着室に入ってしまった。 「……着てみるしかないよね」  着丈はちょうどよかった。  ボディーラインが出るのがちょっと。 「やっぱりワンピースは綺麗だけど、私には相応しくないな」 「あら似合うじゃない」 「きゃぁ、勝手に開けないでくださいよ」 「着るのに時間がかかってるのかと思って。いいわね、それ。買いましょう」 「い、いえ! いいです、こんな高そうなもの」  カーテンの隙間から店員さんが苦笑するのが見えた。 「ちなみに、この前一つ売れて、それが最後の一着だよ」 「はい決まり。今日はそのままでいなさいよ。あと店員さん、パット用意して」  勝手に話が進んでいく。  店員さんは仕事が早くて上手い。あっという間に全身コーディネートされていく。  っていうか店員さんパット盛りすぎ! 「アンヌ姉、可愛いなのです」 「あ、ありがと」  ぎこちない微笑みしか作れない私。  シルエットはとても良いものになった。けど、馴染みのない鎧を着ている気分だ。  ちなみにメロは、白いフリルブラウスに緑のジャケットを羽織り、濃い青のスカートとエリート貴族少女に生まれ変わっていた。メガネがあったら完璧だ。 「髪はこうした方がいいわねぇ」  ジャンクさんは一瞬のうちに、メロの髪の高いところを冠のようにまとめる。 「あたしぃは過去に理髪士をしてたのよぉ」  本当にジャンクさんは多才だ。 「店員さん、今手持ちがないから請求はここにして頂戴」 「あんた、まぁいい。またのご来店をお待ちしております」  店員さんは何かを言いかけたが、接客の常套句を述べた。支払いが済んだのでお店をあとにした。  高級な服を汚してしまわないか心配で、店を出たあとの方がより胃が痛い。 「ちょっとぉ、またゲロんないでよ。次はこの街一番の人気スポットに行くわよ」 「え、どこですか?」  そう言って連れて行かれたのは、街の中心。ドーム状の建物だ。 「マナヒィア経済ライン一番の商業施設、オークションハウスよ」  その名の通りオークションを行うところだ。ここでは金や銀などの財宝類、有名な鍛冶職人の業物、お菓子や果物などの名産品と様々なものが取り引きされる。  掘り出し物を求めて、世界中から富豪や商人 が今日も集まる。  一つしかない出入り口には常に大行列ができている。  一時間ぐらい待ってようやく受付にたどり着く。 「もう疲れたなのです」 「まだこれからよ。オークションの開始は二時間後よ」  メロは思いっきりへの字口になる。  人疲れと不慣れにフォーマルな恰好。周りの人も品格のありそうな服装。まるでパーティー会場みたい。  受付の少し離れた横のテーブルに、今日のオークションの品が置かれている。その近くには杵を担いだ男が一人で監視している。まだ少年らしい顔つきをしている猫耳の獣剛人だ。  あとはテーブルを囲うように鎖が一周しているだけで、いささか粗末に思える。 「あの周りの鎖の隅を見てみなさい」  ジャンクさんの指差したところには、親指と中指で丸を作ったぐらいの大きさの歯車が付いている。 「あれはブイズ・ギア。たぶんサンダースの ね」  風都を中心とした神、メルは童話の怪人(メルヘン・キャスト)を施した。  それに対する鉄都を中心とした神の名はブイズ。人間として生まれ、その常軌を逸した頭脳により現人神と崇められた。そんなブイズが作った兵器こそがブイズ・ギア。 「ベースであるイーブイ・ギア以外に、全部で六種類のギアがあるわ。イーブイ・ギアに獣剛人の術が内蔵され、他のギアは魔木人の属性といったところね。一部例外もあるけど」  その中でサンダースは雷属性のこと。  手を伸ばせば簡単に取れるように見えて、厳重だ。 「それに、監視役たちを見てみなさい」  青を貴重としたスーツを着用している男たち。水都騎士かと思っていたがよく見ると紋章がない。それに面構えが違うというか、目つきがギラギラし過ぎている。 「あいつらは元海賊だったり元賞金首だったり、まぁ元騎士もいるかもしれないわねぇ。でもだいたいは犯罪者よ」  犯罪者!?と繰り返し、驚いてジャンクさんを見る。 「あんまり大声出さないでね」 「すいません」 「毒をもって毒を制するって言うでしょ。それと同じで犯罪者に犯罪者の監視をさせているのよ」  やっていることは分かっても、何でそれが実現可能か分からない。 「そりゃぁ、水都だからよ。彼らは根っからのお金好きだから、大金積まれれば何でもやるわよ」 「そうじゃなくて。それに罰として働かせている訳じゃないなら、ちゃんとした雇用ってことですよね。わざわざ犯罪者に資金提供なんかするんですか」 「監視役たちは基本的に経済ラインの外に出られないの。だからこの街から支払われた報酬をこの街で使うわけ。結局街の中だけでお金が巡回するだけよ」  考えれば考えるほどすごい仕組みだ。けどあの関所はジャンクさんみたいに偽物の許可証があれば越えれてしまうのでは? 聞いてみたいけど、知ってはいけない気がした。  あまり長く見ていたから、商品の隣にいる猫耳の男が私たちを軽く警戒しているようだ。  その場を離れて待合室に向かう。 「あいつはまだ戻らんのか!」  奥の部屋からたくさんの取り巻きを連れた男は怒鳴りながら出てきた。青髭さんだ。 「お前、何でこんなところにいるんだ」  青髭さんは私たちの方を見て声をあげた。  私の後ろにさっと隠れるメロ。  取り巻きたちは、チグハグな三人組を胡散臭そうに見つめる。 「その節はありがとうございました」 「おう。連れが見つかったみたいだな。良かったな」  それだけ言うと、いそいそと部屋に戻る。 「キノコちゃんって意外と尻軽? 朝の短時間でこの街の代表と良い仲になってるじゃない」 「違いますよ。メロを探していたときにちょっと」  面倒くさくなりそうだから、曖昧に微笑んでおいた。   
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