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人魚姫伝説と赤ずきん3-2

 メロは水色の髪の少女と一緒にいた。  あの子がメロの言っていたマリかな? あ、でもマリって人は薄い紫色って言ってたけ。   「あ、アンヌ姉なの」 「もう、勝手に飛びださないでください。探しましたよ」  ごめんなの、と口では謝っているが、あんまり反省している様子はない。 「よかった、お連れさんが見つかったんだね」  そう言う水色の髪の少女は、私と同じ歳ぐらいだろうか。  長い前髪が両目を隠しており、表情は読みにくい。色白で幼い印象を抱く容貌に反し、声音にはどこか頼もしいところがある。  やっぱり、マリではないようだ。 「すいません、ありがとうございました」 「気にしないで。珍しい髪色だったから声をかけたの」  そう言うと少女は、頭全体を覆い隠すように赤いずきんを深く被る。  この子も魔木人かな。それに、さっき青髭さんの言っていた赤ずきん隊って。 「じゃあね、メロちゃんバイバイ」 「お話しありがとうなの。赤ずきんのお姉ちゃん」  赤ずきん隊のことを聞こうかと思ったけど、その前に行ってしまった。メロは手をブンブン振る。  まぁメロが見つかったんだし良しとしよう。 「赤ずきんのお姉ちゃんから人魚姫のお話しを聞いていたの。ここマナヒィアは人魚姫に恋した王子さまの出身地と言われてるらしいなの」  激しい身振り手振りで、意気揚々に伝えてくれようとするメロ。 「ひとまず、宿屋に戻りますよ」  そう言ってメロと手を繋ぐ。また勝手にどこか行ってしまいそうだし。 「アンヌ姉は人魚姫伝説って知ってるの? 人魚姫のお肉とか骨とか鱗とか、それらを食べると不老不死になるていう、ちょっと怖いお話なのです」  一生懸命語ってくれるメロ。でもごめんね。  ジャンクさんはもう帰ってきてしまってるかな。  そのことが少し不安だった。 「止まれ」  突然呼び止められ、数人の男たちに囲まれる。  既視感のある状況に、ひどく嫌な予感がする。 「お前らこの街のガキじゃねぇな」  下卑た笑みを浮かべる。男たちはバンダナだったり服だったりと、各々に赤を基調としたものを身に着けている。  赤ずきん隊なのかな。さっきの子もこいつらの仲間なの? 「通してください」 「通してくださいだってよ」  凛とした声をあげても、汚い笑いの渦がおこるだけ。  どうにかして、メロだけでも助けないと。  でも、どうしたらいいの? 【一線衝波・ブースター】  少女の声とともに、男の赤いバンダナが燃え上がった。 「み、水をくれっ」  間抜け顔で情けない声をあげる。  あいにく男たちは、誰も水を持ってなかったようだ。仲間が必死にはたいて消火を試みる。 【一線衝波・乱・ブースター】   また同じ声がして、ほかの男たちも炎に包まれていく。よくみると、一番最初に着火するのは、男たちが身に着けていた赤い物のところからだ。 「メロちゃんたち離れて!」  赤ずきんの少女が身の丈ほどある猟銃を構えて叫ぶ。  私は慌ててメロを抱き、軌道から転がり避ける。 【一線衝波・極・シャワーズ】  まるで滝のような勢いで、銃身から考えられないほどの流水が放たれ、男たちを一掃した。 「あたしたち赤ずきん隊の縄張りで、勝手なことしないでくれる」  少女の声音はいささか迫力に欠けるが、男たちは情けない悲鳴を上げながら一目散に逃げ出した。 「大丈夫? 怪我はない?」  銃口を空に向け、赤いずきんを深く被ったまま、優しい口調で聞かれる。  彼女の猟銃には、剥き出しの歯車が六つ着いている。 「赤ずきんのお姉ちゃん、ありがとうなの」  メロは戸惑いがまるでないように、あっけらかんに言う。  一拍遅れて、私もお礼の言葉を述べる。 「無事でなによりだよ。メロちゃん、ちゃんとお姉さんにもお礼言いなさいね」 「アンヌ姉もありがとうなの。肩は痛くないの?」 「大丈夫です」  上手いこと受け身が取れたのか、痛みはそんなになかった。 「驚かせてごめんなさい。当然のことだけど、あいつらは赤ずきん隊じゃないからね?」  長い前髪で口元意外の表情は読めないが、少しだけ悪戯心が含まれている気がした。 「あたしはサンヨン。赤ずきん隊のサンヨン。困ったことがあったらいつでも……って言いたいところだけど、今は立て込んでてね。赤ずきん隊としては難しいけど、あたし個人だったらいつでも言って」  サンヨンは髪をいじりながら、照れたように微笑んだ。 「じゃあ、さっそくいいですか?」  実を言うと帰り道が分からなかった。だから、サンヨンに案内して貰うことのした。  道ながら、サンヨンから人魚姫伝説のことを聞いた。 ▷▷▷  深い深い海の底に、立派なお城がありました。  お城には美しい人魚たちが住んでいました。  ある夜、一人の人魚が海の上に顔を出すと、そこにはたくさんの明かりをつけた船が浮かんでいました。  船には王子様が乗っており、人魚は王子様に一目惚れしてしまった。  突然嵐が船を襲い、王子様は海へ落ちてしまいました。イケないことと分かっていながら、人魚は海に落ちた王子様を助けた。  浜辺まで運び、王子様が目を覚ますまで声をかけ続けました。  騒ぎを聞きつけてか、どこからか娘がやってきたので、人魚は海の岩影へと隠れました。  娘が王子様に声を掛けると同時に、王子様は目を覚ました。  王子様は目の前にいる娘に助けられたと勘違いして、その場でプロポーズしました。  それを見ていた人魚は、嫉妬と憎悪にかられて娘を睨んでいた。  海の底に戻った人魚は魔女のところへ行き、人間にしてほしいと頼みました。  魔女はの美しい声と引替えに、人間にしてくれることを約束してくれました。  しかし、魔女が出した条件はそれだけではない。  王子様が他の女性と結婚してしまうと、二度と人魚には戻れず海の泡になって消えてしまう、と。  人魚は全ての条件を吞み、人間になることを決めました。  気付いたときには、王子様を運んだ浜辺に倒れていた。  そこへ王子様と、人魚にとっては憎らしいあの娘が通りがかった。  王子様も娘も人魚のことを心配し、自分たちのお城へ連れて行きました。とくに娘は人魚のことを熱心に看病しました。  人魚が自由に歩けるようになると、娘と二人でよく出掛けるようになりました。  感謝と真実を語りたくても、人魚は声が出せません。  結婚式が近づいたある夜、魔女がナイフを持って現れました。  このナイフで王子様を刺して殺せば、お前は海の泡にならなくて済む、と魔女言いました。  人魚はナイフを受け取り、王子様が寝ている部屋へ忍び込み殺そうとしましたが、結局できませんでした。    海へ身を転じた人魚は、泡となって消えてしまいました。 ▷▷▷ 「それでねこの街マナヒィアは、人魚姫伝説のモデルになった王子様が所有していたお城の一つがあるの」  話を締めくくったあと、サンヨンはラフな口調で続ける。 「貿易ラインのところにあるんだけど、今は個人の所有物なんだ。お城に住むって凄いよね。それ以外にも伝説の縁のある品が、ときたまオークションハウスに出品されることもあるんだよ」  オークションハウスはその名の通り、経済ラインのところにある大規模な競売場だ。  水都のみならず六都の中でも、五本の指に入ると言われている。  それにしても大人しそうな見た目に反して、サンヨンはとてもお喋りだ。  人の目を見て話すのが苦手だから前髪で隠しているのかな? 「あ、あの宿屋じゃない」  指差しながらサンヨンは言った。  私が確認するより先に、メロがそうなのとはしゃいだように言った。  もしかしてメロは帰り道分かってたの? 「じゃあ、あたしは行くね。バイバイ、メロちゃん、アンヌちゃん」  サンヨンを見送って、重い足取りで宿屋に向かうと、案の定ジャンクさんが待ち構えていた。 「どこへ行っていたの」  口調は優しいものだが、その声音は無理やり作った高い物ではなく、低く男らしい声だった。  メロの手を握る手が震える。 「ごめんなさいなの。メロが勝手に飛びだしたの。アンヌ姉は悪くないなのです」 「ちゃんと謝るのは偉いわぁ。それに勝手に出て行ったことを咎めるつもりもないの」  私の震えが伝わったみたい。手を離すとメロは庇うようにして私の前に立つ。  こんな小さな子に護られるなんて。 「水都はね、奴隷制度が合法化されているのよ。お金で買えない物はない、商人の街だからね」  奴隷という言葉にメロはビクリと反応した。   さっきだってサンヨンが助けてくれなかったら、どうなっていたか分からない。  勝手なことはしないと肝に銘ずる。 「と言っても、水都が認めている奴隷は自己破産した人や元犯罪者だけよ。急に拉致られることはないけど、安心なんて存在しないんだから気をつけないとね」  私たちの反省が伝わったのか、ジャンクさんはいつもの口調に戻っていた。  一瞬ためらってから、メロの頭を右手で撫でるジャンクさん。 「ひとまず朝ごはんにしましょう。宿屋のおばさんが、新鮮な魚が入ったって言っていたわ」 「メロも魚好きなの」  ニッコリ笑って答えるメロ。 『人魚を食べたい。性的に』  ニンフォマリアの呟きにメロは「あの女の声がしたの」とその場で氷ついた。 「勝手に出てこようとしないで変態」  手袋越しに自分の左手を叩く。  メロは明らかに警戒した様子でジャンクさんを見つめる。 「……さぁさぁ、ご飯よご飯」  メロに何かを言いかけたがやめて、先に宿屋の中に入る。 「さぁ行きますよ」  私は再びメロの手を取りジャンクさんのあとを追う。  宿屋の一階は酒場兼食堂だ。  カウンターには色んなお酒が置いてある。 「こっちよ」とテーブル席に座るジャンクさんが手をふる。  すでに三人分の食事が用意されていた。  メニューは焼き魚をメインに、ご飯、味噌汁、野菜盛り合わせ、卵焼き、漬物、お浸しとたくさんの小鉢が並ぶ。 「水都は朝からガッツリ系なのよねぇ」  少しだけ憂鬱そうに呟くジャンクさんを横目に「やったー、いただきます」と私はあっという間に平らげた。 「魔法みたいなの」  メロは少しだけ引いていた。そして魚を半分くれた。 「あなたは摂取したカロリーをどこに消費してるわけ」  皮肉気味にジャンクさんも言う。  私自身も少し不思議に思う。目が欲張りって訳じゃない。正直なことを言えば、少し物足りないぐらいだ。 「吐かないならもう一人前注文していいわよ」  さすがに遠慮しておこう。 「そういえば昨日の熊さんは?」 「ウィニーのこと? 彼なら友だちのとこに預けているわ。さすがに街にいれるわけにはいかないわ」 「メロも熊さん見たいなのです」  「あとでね。午後はあたしぃと一緒にショッピングに行きましょう」  食後、ジャンクさんはメイクを直すと部屋に戻った。今度はメロもどっかへ行ってしまうことはなかった。  あ、そういえば。私の剣は部屋になかった。湖のほとりに置いてきちゃったのかな。  まぁあとでいい……かな。
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