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人魚姫伝説と赤ずきん3-1
眩しい朝日が刺さるように痛い。
目が覚めたとき、私はベットの上で眠っていた。
「あれ、ここはどこ?」
辺りを見渡すと、私が眠っていたのと同じタイプのベットがすぐ横に。他は丸型の小さいテーブルと椅子があるぐらいだ。
「あら起きたのねぇ。助かったわ」
扉が開き、お茶の入ったカップを三つ持ったジャンクさんが現れた。
ジャンクさんの表情は、どこか疲れている。
「おはようございます。あ、鍋のことごめんなさい。あ、あとメロのこと! あれ、メロは? ……あ、その前にここはどこですか?」
だんだんと頭が冴えてきて、さまざまな疑問が浮かんだ。
「慌てないで、ちゃんと話すから」
ジャンクさんからカップを受け取り、一口啜る。少し落ち着いた。
「まずは謝るわ。勝手に出発してごめんなさい」
それから現在地について教えてもらった。
ここは水の都『東リンク マナヒィア 産業ライン』
あら、分からないって顔してるわね。
まず、リンクは水都の象徴とも言える、全ての都と繋がってる大運河のことよ。聞いたことあるでしょ。あら、ないの?
それで、その運河から東側に位置するマナヒィアは、花都の国境から一番近いところよ。だから、昨日いた湖からそんなに遠くないわ。あの湖も元々はリンクの一部だったとか、聞いたことあるわねぇ。まぁいいわ。
「ここまでは、大丈夫かしら?」
私はジャンクさんの問いかけに、ゆっくりと首を縦にふって答える。
ジャンクさんに教えてもらってから、そういえば、水都にはそんな地名があったけと記憶にあった気がした。
ジャンクさんは続ける。
じゃあ、水都の街は基本的に三つ分けられているのは知らないわよねぇ。
リンクに近い方から、貿易ライン、経済ライン、産業ラインの三つよ。
それを踏まえて、現在地の確認するわよ。
『東リンク マナヒィア 産業ライン』
つまり、マナヒィアでも一番昨日いた湖に近いところにいるの。そこの宿屋ね。
じゃあ、なんでこんなところに連れてきたのってなるわね。これを話すと長くなるわ。あの湖より少し行ったとこに二つの組織がいたんだけど……。
ジャンクさんは話すの止め、手を顎に持っていて考える。それから、私の隣のベットに視線を移す。
よくよく見ると、掛け布団がひょうたん型に膨らんでいた。
「緑の髪の子よ。ねぇ、キノコちゃんも起きたんだし、あなたのお話しも聞かせてちょうだいよ」
そうジャンクさんが呼びかけると、ひょうたん型は小さく左右に振れた。
「あたしぃのことが怖いみたいなのよねぇ。まぁ、さっきはすっぴんだったから余計に怯えさせちゃったみたい」
ヤケ酒のように、一気にお茶を飲み干すジャンクさん。
「あたしぃは少し出かけるわ。そんなに長時間じゃないけど。その間に、お話し聞いておいてくれない?」
「分かりました。あ、この子の名前はメロです」
それから昨夜聞いた、南リンクとマリという名前も改めて思い出した。
「じゃあ、メロちゃんのことお願いね。何かあったら一階にいる宿屋の人に言いなさい」
そう言って斧を担いで出掛けていった。
さっき言っていた、二つのグループは気になるけど、今は私に与えられた任務を全うしよう。それにメロのことを勝手に連れてきたのは私なんだし。よしっ。
パシンっと頬を叩いて、眠気を完全に飛ばす。
「おはようございます」
そう言って、ゆっくりと布団を剥ぐ。意外にもメロは抵抗しなかった。
「ごきげんようなのです」
小さくそう言ったあと、辺りを見渡すメロ。首を左右に振ることで、緑の髪に朝日が反射してエメラルドのように煌めく。
「ジャンクさんなら出掛けました。そんなに怖いんですか?」
「あの人、きっと悪い人なの」
私にとっては命の恩人なんだけどなぁ。
そう思いながら、なぜそう思うのですか、と聞いてみる。
「あの人、嘘をついてる……って言うより隠し事が多そうなの。それにあの女みたいな雰囲気を感じるなのです」
「あの女って誰ですか?」
「名前は知らないの。前に湖に行ったとき現れて、鼻血を垂らしながらメロのことを見ていたの」
えっ、それって、ジャンクさんの怪奇の主、ニンフォマリアのこと?
「その女はどんな格好をしてましたか?」
「うーんと、髪の毛はピンクでグルグルしてたの。あとお姫様みたいなドレスを着てたの。白とピンクの。湖の中から出てきたのに、一切濡れてなかった不気味な女なのです」
うん、間違いない。ニンフォマリアだ。
ジャンクさんが出会う前の、ニンフォマリアに一度合ってるってことなのかな。
「出会ったのは昨日と同じ場所なの。メロ、今、怖い人たちから逃げていて、体を洗おうと湖に入ったら出てきたの。もう必死に泳いで逃げたなのです」
「それはいつの話ですか?」
「昨日の朝なの。しばらく泳いだらあの女は消えていたの。そのあとはプカプカ浮いてボーッとしてたら、夜になってアンヌ姉に出会ったなのです」
ニンフォマリアがメロの前から消えたとき、ジャンクさんが童話の怪人(メルヘン・キャスト)になって、そのあと私を助けてくれたって感じかな。
じゃあ、メロの言っている「怖い人から逃げていた」というのは、奴隷商オンドリたちのこと?
うーん、時系列的な辻褄は合いそうだけど、オンドリたちが、目玉商品、と言っていた意味が分からない。
昨日、メロの裸を見たけど、メルの徴はない。せいぜい傷一つなくて、綺麗な白い肌だなって思ったぐらいだ。
「自分の種族は分かりますか?」
「メロは魔木人(まぎびと)なのです」
魔木人。必死に記憶を思い返す。
確か、元々は植物だったと考えられている人たちだ。鮮やかな髪色が特徴で、一部の人は魔法を使えるはず。
「あ、でもメロは魔法は使えないの。だからマリに護ってもらわないといけないなのです」
うーん、じゃあ単純に可愛いから目玉商品って言われてたのかな。
ただ、オンドリたちの気迫から、どうにも腑に落ちないところがある。
「あ、そういえば、マリって人はどこにいるんですか?」
分かんないの、と即答された。
「じゃあ、その人の特徴は?」
「髪は薄い紫色で、長くてうねっているの。マリは、片目がないから髪で隠しているの。あとは、うーんと、身長はアンヌ姉と同じぐらいなのです」
薄い紫の髪なんて、そんなにいないはず。それを中心に探していけば見つかるのかな。
「アンヌ姉、街に行ってみるの。何か分かるかも知れないの」
「そうですね。ジャンクさんが帰ってきたら行きましょう」
「ダメなの! 今すぐ行くの」
そう言ってメロは勝手に部屋を飛び出した。
「ちょっと待って」
慌てて私も駆け出そうとした。
「あれ、私の剣はどこ?」
見渡しても見つからない。そうこうしているうちにメロを見失なってしまう。
まぁいいやと思い、私も駆け出した。
「メロー、どこにいるのー? おーい」
返事がなければ姿も見えない。土地勘もないから、どこに向かえばいいか分からない。
そもそも、ここは異国なのだ。
花都は青々とした野原の上に国が成り立っている。
ここは石畳の上だ。家の造りも違えば、香る匂いも違う。
足から伝わる感触の違いに、一歩踏み出すのにも不安がつのる。
「しっかりしろ、私」
メロを狙っていたと思われるオンドリたちはもういない。けれど他にも狙う奴らがいるかも知れない。
「うわっ……えぇ?」
ふいに目に入った掲示板。
『赤ずきん隊にお任せあれ』という見出しには大きくバツ印が付いてる。それはどうでもいい。
驚いたのはその横だ。賞金首のところにオンドリの名前が肖像画とともにあった。
「あの人、悪い意味で有名な人だったんだ」
オンドリのことを思い出すと、少しだけ震える。
「一刻も早くメロを見つけなきゃ」
そう思っても動けない。だって土地勘がないのだから。
ここでは街全体に枝別れするように水路が張り巡らされている。
大きいもの、小さいもの、サイズや造型はまちまちだが、どれにも透き通るような水が流ている。
「よし、決めた」
私は宿屋から出て一番近いところにあった小さな水路を選び、それにそって進んでいくことにした。
ときおり視線を感じた。
ただ敵意のあるものではなく、どちらかというと好奇心の目だ。
水都の住人は、顔の彫りが深くて肌も浅黒い。色白で平たい顔の私は目立ってしまうようだ。髪色も皆黒や焦げ茶が多いからいっそうだ。
水路にそって歩いていくと、大きな壁が見えてきた。近くまでよると、それは関所だった。
「ここから先は経済ラインだ。許可証はあるのか?」
マリンボーダーのシャツと青いバンダナ姿の男がそう聞いてきた。男の青い羽織や腰にさげた湾曲した剣には、紋章が刻印されている。どうやら水都騎士のようだ。
「ありません」
そう答えると、男は野良猫を邪険に扱うようにシッシッと手をふった。
少しだけ男の態度に腹がたつ。
「若い騎士の教育がなってないな」
低い声がした。
声の主は関所から出てきた青い髭の男だ。男はところどころ破れたりほつれたりしているが、高そうなコートを着ている。
「あ、青髭さん。すいません」
青髭と呼ばれた男は、平謝りする騎士を手で制すと私の前にくる。
「嬢さんはこの国の人間じゃないな。花都の人間か?」
「そうです」
「迷子か?」
「えっと、宿屋で人を待っていたんですが、妹……連れの子が勝手に飛び出してしまって」
メロを妹と呼ぶのは違う気がした。
まぁ全く似てないしね。
「そうか、その手の話はよくある。悪いが水都の奴らは損得で行動してしまう気質というか、先祖代々の血だ。無駄だと思えばしょっぱい対応になってちまう。それはどうにもできんのだ。まぁマナヒィアの代表として謝罪しよう」
「い、いえ、こちひゃこそ!」
マナヒィアの代表、ということは権力者?!
そのプレッシャーからか噛んでしまった。
「して、その探し人は幼いのか?」
「はい、ええ、まぁ」
どうにも歯切れの悪い返事になってしまう。
そういえば、メロの年齢聞くの忘れていた。
「少し前なら、こういう案件は赤ずきん隊に任せたんだがな。まぁ、見つからなければ宿屋に戻るか、巡回している騎士に聞け。俺の客人だといえば協力してくれるだろう。俺の名はジルドだ。まぁ青髭で通っているがな」
私の頭にポンッと手を置きジルドさんは乾いた笑みを浮かべさって行った。
「ありがとうございました!」
その背中に頭を下げた。
「悪かったな。こっちには小さなガキは来てないぜ」
水都騎士の男は、ぶっきらぼうにそう言った。
お礼を言って、また水路にそって進んでいく。
それからしばらくしてメロを見つけた。
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