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緑の髪の少女2-2

「すいませーん、遅くなりました。…………あれ?」  荷物のあった場所に戻ると、ジャンクさんの姿がなかった。  代わりに木の棒と大きな布で拵えられた簡易テントと、少し離れたところに焚火があった。  焚火の上では鍋がクツクツと震えていた。 「中にいますか? 入りますよー?」  メロには焚火にあたるように言って、テントの中に入る。しかし、そこにもジャンクさんは見当たらなかった。  代わりに干し肉や山菜などの食料や、お椀やスプーンなどの食器類、そのそばに一枚の紙が添えられていた。  鍋の具合はどうかしら? あたしぃは過去に料理人をしていたことがあるから美味しいわよ。具が足りなかったら勝手に足してちょうだい。しっかり食べないとおっぱいも大きくならないわよぉ?  ちょっとこの先に何があるか見てくるわ。火があるから獣は寄って来ないと思うけど、まぁ何かあったら剣持ってるんだし、頑張りなさい。 「迷惑かけてばかりだ」  置き手紙を読み終え、私はため息をついた。  それと同時にお腹がなった。考えることにエネルギーを使い過ぎたようだ。それに最後にいつ食事をしたのか記憶にない。 「いただきます。それとお借りします」  メロに合う服をなんとか見つけ、持っていく。  そして遠慮なく鍋を頂くことにした。 「はぁ〜、あったかーい」  味噌を溶かした干し肉と山菜の鍋。山菜は少し煮え過ぎてしまったけど、肉から出た旨味が付きとても美味しい。  始まったばかりの春の夜は、まだまだ鍋が美味しくなる。 「そういえば、お姉さんの名前何なのです?」 「私はアンヌです。この鍋やテントの持ち主はジャンクさんです」 「そうなの、じゃアンヌ姉なのです」 「なんだか妹ができたみたい」  妹と呟いたとき、頭の奥がピキンッとした。 「どうかしたの?」 「いえ、なんでもないです」  いや、正直に話しておいたほうがいいかな。 「私は一部記憶がないんです」  そう切りだして、ジャンクさんに助けてもらったことを簡潔に語った。  メロはお椀一杯分を食べ終えたあたりから、うつらうつらしていた。  そして、大変だったの、呟いたあと、そのまま眠ってしまった。 「あ、私ってば自分のことばかり話して、メロのこと何にも聞いてないや」  ジャンクさんになんて説明しようと考える。  緑の髪なんて、この辺にいないはず。  そしてメロが口にしていたリンクという地名。 「あー、ダメだ」  思い出せそうで思い出せない。とても歯がゆい。 「うーん、とにかく、いただきます」  クツクツ煮える鍋に、再度両手を合わせる。そして無我夢中で、汁の一滴さえ残さない程に完食した。 「あ、全部食べちゃった。ジャンクさんの分、残した方が良かった……よね?」  私はまたため息をつく。 「私って本当にダメな人間だ」  メロが小さく唸ったので軽く撫でる。すると、マリに会いたいの、と寝言を呟いた。  もう一度撫でてからテントに運ぶ。 「ジャンクさん遅いなぁ」  メロをテントに運んだとき、洗剤やタライ、小さめの洗濯板などがあることに気づき、脱ぎ捨てた衣服を洗うことにした。 「勝手に借りちゃったけど、許してくれるよね?」  近くの木に紐を結び、衣服を干して洗濯終了。鍋や使った食器なども片付け終えた。  そして重たくなった瞼を、顔を洗ったり頬をペチペチ叩いたりして、なんとか開き、ジャンクさんの帰りを待っている。 「あ、お湯ぐらい沸かしておいた方がいいかな。荷物の中に茶葉ぐらいあるだろうし」  眠い目を擦りながら立ち上がる。そのときドッドッドと地面を踏み鳴らす音に気付いた。 「何? だんだん近くなっている」  私は短剣の柄をギュッと握って構える。耳をすます。  脈打つ鼓動は速くなり、吐き気をもよおす。 「うぅ、やっぱちょっと食べ過ぎたかも……」  吐き気がもよおす。左手で口を抑えたとき、暗闇からにゅっ黄色い熊が現れた。 「ひぃえぇー? …………、ゔっぼぉぇぇーーー!」 「は〜い、ただいま……、って、ちょとちょと大丈夫!?」  突如現れた黄色い熊に、強烈な鼻息をかけられパニックになり吐いてしまった。  そんな間抜けな私を、ジャンクさん慌てて熊から飛び降り介抱してくれる。 「……ぐすん、すいませぇん」  飛び散った吐瀉物で、汚してしまった借りたばかりの衣服を、まだ湿っていたが自分の赤い服と緑のズボンに着替えた。  少し離れたところに、ジャンクさんが乗っていた黄色い熊がいる。赤いスカーフを巻いた熊は少しだけしゅんとしていた。 「彼はウィニー。あたしぃのペットよ」  そう言いながら、ジャンクさんは温かいハーブティーを用意してくれる。 「驚かせてごめんなさい。けど彼を許してやってくれないかしら? 結構繊細なの」  許すも何も、悪いのは勝手に食べ過ぎて吐いた私だ。  ジャンクさんだけじゃなく、熊さんにも迷惑をかけるなんて、自分が嫌になりすぎて涙がこぼれる。 「ご馳走の前では、目はお腹より大きくなるものよ。あたしぃの料理が美味し過ぎたのがいけないわねぇ」  ジョーダンめかしジャンクさんはそう言った。  さっきまで着ていた借りた服が、いつの間にか干されている。吐瀉物があった場所は、すでに土がかぶせてあり、僅かに盛り上がっている。 「ゔ、ゔぐっ、ぶぇぇぇん!!」  流れる涙が号泣に変わる。  もう嫌だ、どんだけ迷惑かければいいの。  泣いたら余計に心配させ迷惑がかかる。分かっていても涙が止まらない。 『若い女の泣き声? う~ん、たまらない♡ もっと虐めて屠って哭かせたい。汝、出せ!!』 「出てくんじゃないわよ変態。もうっ!」  ジャンクさんは左手を手袋越しに引っ叩く。そして右手で私の背中を優しく擦る。 「大丈夫よ。もう思いっきり泣いちゃいなさい。さっきのでスイッチ入っちゃったんでしょ? 色々あったからねぇ」  自分の記憶とこれからへの不安。昼間の襲われた恐怖。ヒトの死に直面するのだって初めて……のはず。それにメロのことは?  何より、少し口が悪いけど、こんなに優しいジャンクさんに一瞬でも疑いを持っていた自分がとにかく憎い。 「涙をいっぱい流せば、笑顔の花が育つのよ。あなたが芽吹くまであたしぃは側に居るから安心して流しなさい」  私はひたすら泣いた。泣き疲れて眠るまで。 「フフ、本当に可愛いわ。あらやだ、これが母性ってやつかしら?」  眠ってしまったアンヌの側に腰掛け、髪を優しく撫でながら呟く。 『汝ばっかズルい。若い女の体温を感じたい』 「あなたって本当に性欲のかたまりねぇ」  つくづく呆れるわ、とジャンクは吐き捨てるように言う。 『汝が変なのだ。男の身体なのに』 「そうかもねぇ。って、それならあなたもでしょ? 見た目は女の子な〜の〜に〜」 『神だもん』 「あはっ、それこそズルいわぁ」  立ち上がると、リュックからお金の入った袋を取り出してポケットにしまう。そして黄色い熊、ウィニーに紐を使って固定する。  ウィニーはアンヌが泣き出してから、また少しだけ遠くに離れていた。  慰めるように軽く鼻を撫でる。  それからアンヌの方に向きなおり呟く。 「ごめんね。本当は静かに寝かせてあげたいんだけど、あんまりゆっくりもしてられないのよ」  ジャンクの中にあった仮説は確証に変わりつつあった。いや、仮説以上に最悪かもしれない。  アンヌを背負うジャンク。 「……プゥ」  ウィニーはテントの方に鼻先を向けて小さく鳴く。  そしてテントの中で眠っている緑の髪の少女、メロに気づいた。 「誰かしら。まぁでもこの子も連れていった方がいいわね」  一度アンヌをおろし、メロをちょうどいい位置で固定して、またアンヌを背負う。 「ほんと軽いわね」  アンヌを背負うと、また泉の女神がギャーギャー騒いだがジャンクは無視をした。  キツくならないよう気を付けて、二人を紐で固定してウィニーに跨る。 「頼むわよ、ウィニー」 「プゥーッ!!」  ウィニーは力強く返事をして、稲妻のように夜を掛ける。
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