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オカマのきこり1-2

「ねぇ〜、本当にこっちでいいのぉ?」 「いいって、うちらの旅路はこっちなの」  キヨナとオカマのきこりのこのやり取りが、もう何度も続いている。 「いい加減旅の目的ぐらい教えなさいよ〜。この道をこのまま進んでも何もありゃしないわよ」  童話の怪人(メルヘン・キャスト)が目的なんて言える訳がない。と言うのにも理由がある。  童話の怪人(メルヘン・キャスト)になるためには、ある条件を満たさないといけないのだ。 「あ、もしかしてメルの怪奇を狙ってるの〜?」  オカマのきこりに図星を当てられて、分かりやすく固まる私たち。  メルの怪奇は童話の怪人(メルヘン・キャスト)になるために必要な二つある条件のうちの一つだ。 「もぉー、お馬鹿ね。あんたたち可弱いぺちゃぱいレディには無理よ」 「ぺちゃぱいは余計だ。つーか、無理って言うな」 「あらごめんなさい。でも、そういことは六都騎士団にでも任せておけばいいのよ」  六都騎士団とは風鉄戦争後、発足した組織だ。六つの首脳都市、その最高位の騎士たちが集まり、掟のもと世界の均衡を守るため活動している。  六都騎士団に在席する者は、僅か百名ほどしか居ないはず。しかし、一人あたり並みの一挙団と同等の戦力を持つと言われている。 「今はまだ混乱してて、通常の都騎士団にまで通達が回ってないだけよ。すぐに安定すると思うわ」  六都騎士団の掟は一つ。国の所有する戦力にならないこと。この十年間、大きな戦争が起きなかったのは六都騎士団のおかげだ。  あれ、じゃなんで私たちは村を出たの?  飲み込めない齟齬に、私は首をひねった。何か忘れているような、嘘をつかれているような違和感を覚える。 「逆に〜、村の外に出る方が危険よ。さっきのならず者みたいなのは昔からいるわよ。ぺちゃぱいでも狙われるわよ」  少しだけ声のトーンが落とされる。お説教モードだ。私たちはしゅんとなり視線をそらした。 「あたしぃが送ってあげるから、お家に帰って牛乳でも飲んでなさい。あたしぃは過去に用心棒をしてたこともあるのよ〜」 「どんだけ胸のことを言うんだよ!! それにありがたいけど、うちらは絶対に童話の怪人(メルヘン・キャスト)にならなきゃいけないんだ」  オカマのきこりの提案に、また真っ向から反論するキヨナ。  オカマのきこりは、肩に抱えていた大斧をおろしてため息をついた。 「なんでって聞くのは愚問かしら? それに童話の怪人(メルヘン・キャスト)になるためには条件があるのよ」  そんなことは当然知っている。私は無意識に、キヨナの包帯を巻いてある方の羽を見つめてしまった。 「あら、そうなの。大変ねぇ」 「……オカマのおっさん、変なこと考えてないよな?」 「変なことって何かしら? そうねぇ、あっちのキノコちゃんなら、ぎりイケなくはないわねぇ〜。ぺちゃぱいで男みたいだし」  突然、指差され私は露骨に嫌な顔をしてしまった。 「冗談よ。うちらって言うより、うちはの方が正しいわよねぇ。コウモリちゃんはメルの徴(しるし)を持っているってことでしょ? あたしぃは狙わないわよ」  何もかも見透かされてばかりだ。  メルの徴が童話の怪人(メルヘン・キャスト)になるための二つ目の条件だ。  パラミシア=メルが認めた者の体のどこかに現れる痣のこと。その徴を持つ者じゃないと、童話の怪人(メルヘン・キャスト)になることができない。  しかし、メルの徴には致命的な欠点がある。 「通りで隠す訳ねぇ」  メルの徴は強者に惹かれる。つまり、メルの徴を持つ者を殺したら、殺したら者に徴が受け継がれる。  風鉄戦争より十年のうちに、かつてはメル教信者でしか童話の怪人(メルヘン・キャスト)になれなかったのだが、今は誰が徴を持っているか分からない。  私たちは、ただ黙り込むしかなかった。そこに最悪のタイミングでさっきの男たちが現れた。 「へぇ、こいつは良いことを聞いた。メルの徴なら高く売れる。いや、目玉商品になる。コウモリ羽は絶対に捕らえろ!!」  さっきより倍になった、十人の男たちが一斉に襲いかかる。今度は剣や混紡など武器を持っている。 「二人とも下がりなさい」  そう言って木こりのオカマは大斧を構える。 「人に刃物を向けるということは、死を覚悟したってことよねぇ?」  その言葉と共に一番近くにいた男を、大斧で頭から叩き割った。  男の血飛沫はオカマのきこりは勿論、近くにいた仲間にもかかる。  血の臭いと段々と冷めて不気味な温もりを感じ、男たちは立ち止まってしまった。 「ふっ、情けないわね。血を見ることは初めて?」 「何やってる!? さっさと殺れェー‼」  ドスンドスンと地団駄を踏みながら、オンドリは激を飛ばす。他の男たちはオロオロするばかりで動かない。 「チッ、しょうがねぇな。お前ら、殺れ」  その合図でオンドリの後ろにいた二人が動いた。  一人は鉄の甲冑をまとい両手に太刃の剣を持っている。  もう一人は木の枝の先っぽみたいに細い男だ。そしてその華奢な体にそっくりな細いレイピアを天に向けて構える。 「そっちの二人は多少は心得があるようね」  オカマのきこりは構え方を見て呟いた。そして目付きを鋭くさせる。 「こいつらは元鉄都騎士と元風都騎士だ」  オンドリは高らかに笑いながら自慢する。  最初に動いたのは細い男だ。  斑模様を描くような素早い突きに、オカマのきこりは防戦一方に見える。 「あら、あたしぃの動きについてこれるなんて大したものねぇ」 「俺の台詞だ」  そう答えると細い男は急に身を引いた。  オカマのきこりの背後から、甲冑の男は両手の剣を同時に勢いよく振り下ろす。  オカマのきこりは、それを振り向かずに斧で受け止める。 「重い一撃ね、直撃したら即死だわ。汚いけど良いコンビネーションねぇ。正直舐めてたわ」  そして左に転がり距離を取る。そして手袋を投げ捨て左の掌を向ける。  そこには魔法陣の描かれた魔導書の紋章――、メルの徴が刻まれていた。 【メルの名に忠義を誓いし神隷よ、我に怪奇を架すことを願う。怪奇発動 女神の泉】  そう唱えると掌の魔導書が開き、眩い光が円を描き小さな泉が誕生した。  オカマのきこりは迷わず斧を泉に投げ捨てる。  すると中から、ピンクの巨大な螺旋ツインテールに、まるでショートケーキのような彩色の、ふわふわフリルドレスを来た女が現れた。 「汝が落としたのは、この金の斧か? それとも銀の斧か?」  透き通るような声と薄い笑みを浮かべて、泉の女神は問いかける。  右手には金の斧、左手に銀の斧が握られている。 「ごきげんよう、ニンフォマリア。あたしぃが落としたのは普通の斧よ」 「よろしい。正直者の汝には、この金の斧と銀の斧を授けよう」  泉の女神から斧を受け取ると、オカマのきこりは男たちの方に向き直る。  私たちを含め、この場にいた誰もがあ然として、オカマのきこりと泉の女神のやり取りを見つめていた。 「あら、律儀に待っててくれたのねぇ。良い男ね。一夜だけなら関係を持ってもあげてもいいわウフッ」  不敵に微笑むと、オカマのきこりは両手の斧を旋風のように振り回し、あっという間に甲冑の男と細い男を切り刻んでしまった。 「切れ味が増しただけじゃなく、斧自体から力が溢れてくる感じねぇ」  オカマのきこりは、斧をしげしげと眺め呟いた。
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