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オカマのきこり1-1

「お前は変わり者だな」  狼のような耳のはえた男は、嘲笑うように言う。   「いいや違う。僕の欲は実に人間らしいものだ」  強く否定するも、いやいや、と言いたげに狼耳の男は手を振った。 「死ぬのが夢なんだら? 俺様には理解できねぇな」 「違う。平和な世界で安楽死することだ。単純に死にたい訳じゃない」  狼耳の男は、酒をすすり少し考える。そして頷きこう言った。 「やっぱり変だに。欲望といえば、女を抱きたいとか、金持ちになりたいとか思うのが普通だら?」 「そうかな? まぁ僕は普通の人間だからな。獣剛人(じゅうごうびと)のお前とは考え方が違うのかもな」 「一理ある。が、いまどきそんなことを言ってられねぇら。絶対人種主義を唱えていた花都でさえ、獣剛人や魔木人(まぎびと)を受け入れたんだからな」  確かに。失言だったな、と自分の非を認める。 「てか、お前は何で傭兵なんかやってるんだ? 別に死にたい訳じゃないんだら?」 「天命探しの途中だ。過去にも色々やってるぞ。料理人や鍛冶職人、牧場主によろず屋、木こりなんかもやったな」  他にも思い出していけば切がない。 「へぇ、多才なんだな」 「なぁに、褒めるな。どれも失敗ばかりの(ジャンク)と呼ばれて中途半端に投げ出している」  なんだよ、かっこ悪いな、と鼻で笑う狼耳の男。そして、まぁいつかは天命とやらが見つかるら、と少しだけ声を和らげ慰めてくれる。 「だといいがな。まぁでもきこりをしていたときはそれなりに要領が良いと言われたな」 「だったらきこりを本気で目指しな。こんな他国の戦争に命賭けるなんて勿体ないに」  そうだ。僕たちは傭兵だ。明日には故郷でもない都のために命をかける。  今更ながらバカらしく思える。 「戦争が終わったら地元に戻ってそうするかな」 「あぁそれが良い。なぁに、世界は俺様が平和にしてやるよ」 「そういえば、お前の夢はなんなんだ?」  そう聞くと、狼耳の音はニンマリ笑い、少しだけ鼻息を荒くして語る。 「俺様か? 俺様は全ての頂点に立つことだ。俺様以外は皆奴隷だぜ。ギャハハッ」  二人の男はお互いの夢に乾杯し酒を酌み交わす。これは風鉄戦争、のちに「神の代理戦」と呼ばれた過去最大の戦争の前日である。 ▷▷▷ 「あれ、私何してたっけ?」  雲一つない真っ青な空。太陽の温もりを感じ、柔らかな風が頬を撫でる。  地べたには名前をろくに知らない小さな花が無数に咲いている。まるで極彩色の絨毯だ。   「何ボケっとしてんだよ、アンヌ」  そう呼び掛けられて私は思い出す。  橙色に近い明るい茶色の髪は、女にしては短い。水でもつけて伸ばせば、ぎりぎり肩に届くかもしれないが、毛先が内側に円を描くように丸まっている。  あとは胸元辺りを紐で締め上げた薄い生地の赤い服に、同じく薄い生地の緑の長ズボン。ベルトには父から貰った短剣が提げてある。  うん、私はアンヌだ。 「ごめんキヨナ。日差しが気持ち良くてつい」  そう返すと、若干釣り上がった赤い瞳の少女は、白く尖った八重歯を見せて笑う。  髪は瞳と同じ赤で、頭の高いところで二つに縛ってある。背中にはコウモリのような羽がはえていて、左側には包帯が巻いてある。  彼女の名前はキヨナ。  元々は獣が進化した鎧王類獣剛(がいおうるいじゅうごう)。それがさらに進化して人型になったと考えられているのが獣剛人(じゅうごうびと)だ。 「相変わらずアンヌはのんびり屋だなー。もうちょい、しゃきっとしてよ。うちらには村の皆の命が掛かってるんだから」  そう言われて小さな村、ココノハナのことを思い出す。花都の特産品である花豚や花山羊などの遊牧をして暮らしていた日々を。  するとお腹の虫が小さく鳴いた。  私ってば呑気過ぎね。花豚のステーキが食べたいな、なんて思っちゃったし。     ここ花都は食物資源豊かであるが、全体的に戦力に乏しい。  十年前の神の代理戦こと風鉄戦争。大国、風都と鉄都が破滅により強制終了した戦争が再戦されるのではと最近噂されている。  そうすると、自衛力に欠ける小さな村は恰好の餌食だ。  それに抗うには、メル教の神、パラミシア=メルが施した秘術『童話の怪人(メルヘン・キャスト)』になるしかない。   「気を付けて。前からガラの悪い奴らが来る」  キヨナが声を潜めてそう言った。前方から横に広がって歩く五人組の男たちが迫っている。  男たちは何かを探しているらしく、ときおり散らばり辺りを見回している。 「まだ見つからんのかっ!?」  五人組の男たちの後ろで怒鳴り声を上げる、縦にも横にも大きい男。遠くから見たら丸に見えるだろう。  髪や髭、ムダ毛はのび放題のぐしゃぐしゃで見るからに不衛生だ。何より傲慢さが顔に滲みでている。 「もういい‼ 手ぶらで行ったら大頭(おおがしら)の名が廃る。代わりを探せ……お?」  やばい、目があった。そう思ったときにはもう遅い。  リーダー格の男の指示で、五人の男たちは私たちを取り囲む。 「おっさんたち、なんか用?」  キヨナは胸を張り、リーダー格の男を睨みながら問い掛ける。よく見ると膝がガクガクと震えている。それに男たちも気付いた。 「俺は奴隷商のオンドリだ。今回の目玉商品が逃げやがって困っててよ、まぁ若い女が二人も居ればクライアントも許してくれるなぁ」 「はぁ、ふざけんなし! うちらは忙しいの。汚いおっさんの相手なんかしてられないっつうの。行くよアンヌ」  震える足で男たちの間をすり抜けようとするキヨナ。当然男たちが通してくれるはずがない。 「どけよ、おっさん――――ごふっ!」  オンドリは丸太のように太い腕でキヨナの肩をがっしりと掴み、無防備なお腹に重い膝蹴りをいれる。キヨナはその場にうずくまって悶える。  それなのに、なんで私は動けないのよ、馬鹿。友達が殴られたのに。  私は足に根がはえたように動けない。オンドリはルーキの首を掴み無理やり立ち上がらせる。そして舐めるように身体を見て呟く。 「発育具合は悪く、獣剛人のコウモリ羽か。しかも羽に傷ありか。まぁ強気な性格だで、拷問好きの変態にならまぁまぁな値が付くか。よし、次だ」  キヨナを地面に投げ捨てると、今度は私の方にじりじりと迫る。その間に部下の一人がキヨナを後ろ手で縛り上げる。 「こいつは人間の女か。こっちも発育はあんまりだな。ぱっと見男みたいだし。まぁ顔は幾分整っているから良い値が付くだろう」  オンドリのにちゃりと音がする粘ついた笑み、ボロい布切れのように汚れた衣服から漂う悪臭、そして今後のことを考え私の目には涙が浮かぶ。  剣はあるのに、抜くことすらできないなんて。 「やめろっ、アンヌに触るなー!!」  回復したキヨナは、縛られていても果敢に声を上げる。  そうよ。泣いてる場合じゃない。  私は震える両手で、絞るように短剣を握る。そして獣のような慟哭とともに斬りかかる。 「チッ、うるせぇよ!!」  しかし、私の勇気は一瞬にして散った。  オンドリは剣を躱すと脚払いを掛ける。私はあっけなく地面に倒れこんだ。そして脇腹を思いっきり蹴飛ばされた。  うっ、痛い……。やっぱり私には無理。  今度こそ涙が流れた。  あいにく私は無宗教で、すがる神もいない。  だけど、誰でもいいから助けて。 「あらぁ〜、可弱いレディを傷付けるなんて最低ねぇ〜」  無理やり作った高い声が聞こえたと同時に、オンドリは宙を舞った。  声の主はオンドリよりも背が高く、片刃の大斧を担いだ筋骨隆々の男。  格好は革のベストに深緑のズボン、そして頑丈そうなブーツときこりのような装いだ。  ワイルドな服装とは裏腹に、後ろで奇麗に纏めてられている艶やかな茶色の髪。なにより真っ赤な口紅が異様さを主張している。 「くそ、何すんだや!!」  地面に倒れた男は海老のように跳ね起き、謎の大男にズカズカと突っかっていく。 「やっだぁ〜、臭いわ。臭い商売やってるカスの臭いがぷんぷんするぅ」 「ふざけんな、クソオカマ野郎!!」  手をパタパタ、体をクネクネとオーバーなリアクションで嫌悪感を示すオカマのきこり。  それに殴りかかるオンドリ。 「やだやだ、触らないんでよぉ〜。服が汚れちゃうじゃない!」  巨体を花びらのようにヒラヒラ舞わせて、重い一撃一撃を余裕綽々に躱すオカマのきこり。まるで攻撃が当たらないことに、オンドリはいつしか脂汗を流し始めている。 「はぁ、はぁ……、お前らも見てないで手伝えェー」  オンドリに怒鳴られて、五人の男たちも慌てて加勢するも結果は何も変わらない。そのすきに私はキヨナの縄を切る。 「もぉー、諦めの悪い子ねぇ~。いい加減やめたら?」 「うるせぇ!! ちくしょー、何故当たらん!?」  オンドリはスタミナ切れに加え、五人の男たちが障壁となり、攻撃のチャンスを余計に奪っていく。その度に部下を怒鳴り更に徒労を極める。  素人目で見ても男たちとオカマのきこりとの力量差は歴然だ。 「しょうがないわね。いーち、にー、さーん、しー、ごー、ろーく、ななっ、イェイ!」  斧を宙に投げ捨て、カウントとともに流れるような早技で男たちを倒していく。最後の七で斧をキャッチして、私たちにブイサインを送る。  倒れた男たちは伸びて動かない。 「オカマのおっさんスッゲー!!」 「おっさんじゃなくておばさんって言いなさい。いえ、やっぱりお姉さんがいいわ」  興奮して羽をパタパタさせるキヨナに、指を指してピシャリと言うオカマのきこり。  長いまつ毛の目元には、意外としわが刻まれている。 「あ、ありがとうございます、オネエさん」 「違うわ、あたしぃはオカマよ。オ・カ・マ。オネエだと格好は女で女好きの子もいるけど、あたしぃは男が好きなの。格好は美意識高いけど男のまんまがいいわ」  独自のオカマ論を語るオカマのきこりに、私は若干引いていた。なんとか曖昧な微笑みだけは作れた。  こう言っては失礼だけど……。 「オカマってめんどくせーな」 「そうなのよ〜! あたしぃの場合、見た目が男の子っぽい女の子もイケちゃうからすっごく難しいの」  私の内面を代弁したキヨナとオカマのきこりは楽しそうに談笑を続ける。 「あ、あの……、場所変えませんか?」  オカマのきこりのおかげというか影響かな? すぐ目の前にオンドリたちが倒れていることを忘れそうになる。 「それもそうねぇ~。じゃ、あっちにいきましょうか」  オカマのきこりが指差した方は、私たちが歩んで来た道だ。  結局キヨナが押し切るかたちで、オカマのきこりが指差した方と反対方向に行くことになった。 文字(ルビ)
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