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真夜中のラジオ 7
森高町子は、何を基準に安全だと判断したのだろうか。その男性に信頼できる何かがあるのだろうか。少し疑問に思いながらも、輝は森高のほうへ向かっていった。
「見るものよ、それが戻すものなのか?」
こちらに向かってくる輝を見て、その男性が口を開いた。すると、森高は真剣な顔を男性に向けた。
「まだわかりません。素質があるのはわかるんだけど、まだピンと来ないんです」
森高がそう言うと、男性は一言、そうか、とだけ言って口を閉ざした。輝が来ると、その男性と森高は自分たちの前にある一軒の家を見上げた。そして、二人頷きあうと、玄関にあるチャイムを森高が押した。
しかし、しばらく待っても誰も出てこなかった。
「見るものよ」
男性は、そう言って森高の肩に手を置いた。
「中に何かの気配はするのだろう」
森高は、頷いた。
先ほどからいったい何なのだろう。森高が空を翔けた件といい、今回のこの男性のセリフといい。そもそも“見るもの”とはなんなのだろう。
輝は不思議に思いながら二人を見ていた。すると、輝の背筋にいきなり悪寒が襲ってきた。それは、次第に強くなっていき、体中を覆っていった。輝は我慢できずにその場に膝をついた。
「高橋君?」
輝の突然の異変に、森高は驚いて、膝をついた輝の肩に手を触れた。そして、彼女自身もその変化に驚愕した。
「高橋君、いえ、輝、あなたやっぱり」
そう言い、こちらを見下ろしている男性とともに頷きあった。森高が輝を支えて立ち上がらせると、輝は少し気分がよくなった。しかし、安心している暇はなかった。男性が、声を緊張させてこう言ったからだ。
「見るもの、戻すものよ、客人が来たようだ」
男性の声に二人が周りを見渡すと、家の周りにはすでに何十人もの人間が待機していた。いつの間に囲まれたのだろう。この家の近所の人間もいれば、学校の人間もいた。輝のバイト先の人間までもが輝たちを囲んでいた。
彼らは手にバットや鉄アレイ、包丁などを持っていた。中にはどこから持ってきたのか、たいまつを持っている人もいた。彼らの瞳はひどくうつろで、光を失っていた。
「これは」
彼らに殺意はない。普通の人間なら感じるはずの恐怖を輝は感じなかった。ただ、違う意味で危ないものを、感じ取っていた。
「操られている。でも誰に?」
輝が言い終わらないうちに、男性が動いた。
輝と町子を庇うように二人に覆いかぶさり、アスファルトに両手をついた。
その瞬間、三人の上をナイフが飛んでいき、家の壁にはじかれて地面に落ちた。誰かが、ナイフを投げた。それも自分たちとは異質の存在である輝と町子、そして例の男性に向かって。
危ないところだった。下手をすればナイフの一撃で大けがをしていたかもしれない。二人が礼を言おうと男性を見上げたその時。
彼は、厳しい顔をしてこう言った。
「まずい、火がかかったぞ!」
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