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真夜中のラジオ 6

 森高は、すでに教室で皆がおかしいと断言してしまっていた。  先ほど追手が付いたのもそのせいだった。なにもかもがいきなりだったので輝の頭は混乱していた。追われるわ、森高は宙を翔けるわ、もう訳が分からなかった。状況を説明してほしくても、そんな暇はない。とにかく今は先生や生徒たちの目の届かない場所まで行くしかなかった。二人はあぜ道を抜け、歩きやすいアスファルトの道路に出た。そして、周りに誰もいないことを確認すると、歩き出した。 「とにかく今は時間がないね。内山先生の家に急がなきゃ」  森高は、内山牧師の家を知っていた。それもこれも、例のクリスフォード博士のことと関係があるのだろうか。そう考えながら、森高とともに輝は歩き続けた。  途中、森高は少しだけ自分の話をした。空を翔けることができる理由までは聞き出すことができなかったが、なんとなくそれで森高のことが分かってきたような気がした。  森高町子の母は、もともとこの日本の人間ではなかった。名を夏美と言い、本当はカタカナでナツミと書いていた。母親は返還前の香港で生まれ育ち、その香港に出張できていた英国人の父親と出会って恋に落ちた。そして、香港で長男を産み、他の国でナツミを産んだ。その国の名は森高からは聞き出せなかったが、母親に英語の強い訛りがあるらしく、英語圏の国であることは確かだった。  何らかの事情で、その国から日本に渡航し、今の夫である秀晴と結婚したナツミは、名の表記を夏美と改めて、日本人として暮らすことにした。そこで、町子を産んだ。  夏美の兄は、しばらく父親の、つまり町子の祖父の仕事を継いでいたが、長年恋人として付き合っていたフォーラと結婚するにあたって日本に住み着いた。夏美のいるこの国が居心地の良い場所だったということだった。  ひとかたの話を終えると、森高はふと、立ち止まった。  どうしたのかと問うと、彼女は目の前に歩いている男性を見た。体格がいい。着ているトレンチコートが風になびいてその大きさより際立たせていた。 「私、あの人、知っている気がする」  森高が、何かを思い出そうと考えこんだ。すると、目の前で歩いていたその男性は、ふと、立ち止まってこちらを見た。  トレンチコートと深い帽子で隠れていて分からなかったが、その男性の肌は黒かった。アフリカ系の移民の人だろうか。  輝と森高は、その迫力に、ついに立ち止まってしまった。威圧感があるわけではないが、何か計り知れない品格を感じる。  アフリカ系移民らしいその男性は、帽子を取って二人に礼をした。そして、印象的な笑顔を残して再びその道を歩き出していった。  その後を追うように、森高は歩いて行った。どこをどう歩いてもアフリカ系移民らしい男性の後を追ってしまう。 「森高、本当にこの道でいいんだろうな」  不思議に思って問いかけると、彼女は少し、顔に焦りを浮かべた。 「こちらで間違いないはず。どうしてあの男の人も一緒なんだろう」  そう言いながら、しばらく歩いていると、男性が輝たちの少し先で立ち止まった。そして、そこにある一軒の家を見上げた。  まさか、と思い森高を見ると、彼女は信じられないものを見るような目で先を見ていた。 「内山先生の家だよ、そこ」  そう言って、森高は焦りを顔に出して走っていった。そして、先にいる男性のほうに走りよると、こう言った。 「どうしてここを? まさかあなたがこの件の」  言いかけて、言葉を呑んだ。  森高は、男性の顔を間近で見たその瞬間、その男性が誰なのかを思い出した。そして、口を押えて輝のほうを見ると、ひとつ、頷いた。 「高橋君、大丈夫。来て。この人は、ううん、なんて言ったらいいんだろう。とにかく、安全な状態に変わりはないよ。今は」
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