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真夜中のラジオ 3

 輝は、看護師の言われたとおりに、森高とともに病院の待合室で、すべての患者の診察が終わるのを待っていた。特に、森高と話すことはなかったので、黙っていたのだが、先程の看護師と森高のやり取りが少し気になっていた。そのせいか、二人の間には気まずい雰囲気が漂っていた。森高は床に目を落とし、何度もため息をついていた。 「高橋君」  気まずい雰囲気を破ったのは、森高のほうだった。床に目を落としたまま、つぶやくようにして口を開く。 「どうして、こんなことになっちゃったんだろう、私たち」  そう言って、ため息をつく。 「いきなり訳も分からず、部活もバイトも休まされてこんなところにまで来いって言われてさ。なんで俺がって思わない?」  輝は、その森高の言葉に、ほっとした。いままで、彼女をなにか特別な存在だと思っていた。もちろん、学園のマドンナという存在は特別ではあった。しかし、それとは違って、今回感じた安心感は、彼女が普通の人間だという感覚だった。 「そりゃあさ」  うつむいたままの森高のほうは向かず、待合室にある、消されたテレビを見つめて、輝は返した。 「ここに来るまで、いや、今まではそう思っていた。でも、森高は俺と違ってちゃんとしているよ。みんながおかしくなって、先生や親たちまでおかしくなってさ。まともなのは自分だけで、不安なのは俺だって同じだよ。それを何とかする方法を、あんたの伯父さんや伯母さんが知っているんなら、俺だってここに来た意味はある」 「ちゃんとしている?」  不安げに聞いてきたので、頷いて返すと、森高は少しほっとしたように笑顔を見せた。 「ありがとう、すこし、気が晴れた気がする。そうやって言われたのは久しぶりだから。ちゃんとしているのが当たり前になっていたから」  輝は、森高のそのセリフに、肩をなでおろした。自分の言葉が役に立った。それが何だかうれしかった。ふだん女子とはあまりかかわらない分、こういった会話は新鮮だった。  そうこうしているうちに、待合室にいた患者はどんどん帰っていき、とうとう輝と森高、二人だけになってしまった。ほどなくして、先程の相沢さんが来て、二人を診察室に案内してくれた。日は暮れ、すでに外は夜になっていた。  診察室に入ると、そこで相沢さんは帰っていった。中には、ブロンドの髪の毛を背中まで伸ばした女性が座ってにっこりとしていた。白衣は来ていない。薄めの白いブラウスの上に緋色のベストを着ていた。同じ色のタイトスカートから見える脚はすらっとしていて、服の上から見えるふくよかなバストも相まって、かなりスタイルのいい女性だった。相当な美人で、瞳は珍しい金の色をしていた。こんな人が精神科医なら、この病院は相当繁盛しているのではないか。輝はそう思って唾を飲み込んだ。 「高橋輝くん」  金色の瞳を、その精神科医は緊張させた。輝を見る目が厳しい。すこし怯んで、はい、と答えると、今度はその緊張した瞳を緩めて、森高の伯母は優しく微笑んだ。 「私が、この町子ちゃんの伯母で、フォーラ・フェマルコートと言います。よろしくね」
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