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戻す者 4

 輝が目を覚ましたのは、あれから一日経った日の夕方だった。麻酔が効いていたのか、ただ疲れていたのか、その両方なのか、輝の体は重かった。  輝は体を起こして、自分が今いる場所を確認しようとした。すると、誰かの手がそれを止めた。そちらをみると、そこにはおじさんがいた。 「まだ寝ていたほうがいい」 「でも、あなたは」  また輝が何かを言いかけたので、おじさんは笑って輝をベッドに戻した。 「町子からすべてを聞いた。大変だったな」  そう言って、おじさんは輝の額に手を触れた。輝はその手の暖かさですべてを知った。この『おじさん』のこと、そして、町子が抱えていたもののこと。 「いえ、大変だったのは皆も同じことです。町子も」  輝が町子の名前を出したその時、輝の視界の端、おじさんの向こう側から、町子がそっと現れた。 「輝、あなたが戻す者として覚醒したってことは、私のことも分かっているってことよね」  輝は、そう言われて、頷いた。  町子のことは、覚醒した瞬間に理解した。そして、いまおじさんに触れられて、確信に変わった。 「軽蔑した?」 輝から目を逸らして、つぶやくような小さな声で話しかけてくる町子に、輝は、首を横に振った。 「いや、今までよく耐えて頑張ってきたって思う」 「本当に? 私、本当は覚醒していないのに、偉そうな口ばかり聞いていたのよ」 「それが悪いことだとは思わない。むしろ、そうさせてきた周りの人間のほうが罪深いと思う」  輝がそう言うと、おじさんが少し寂しそうに笑った。町子が、自分のことを隠していたことは知っていた。周りの人間のほとんどがそれを知っていた。シリンであれば大体の人間が分かるはずだ。おじさんは、それを知っていたうえで町子に、このままでいいのかと聞いていた。しかし、町子はしばらくこのままでいいと答えた。自分が覚醒していなくても、ある程度の能力が開花している今なら皆の役に立てるからと。  しかし、それを放っておいたことが今までの彼女を追い詰めることになったこと、それを、彼は気にかけていた。 「伯父さん」  町子は、彼を伯父さんと呼んだ。輝にはもう理解できていた。おじさんが何者であるのか、そして、町子にとってどんな存在であるのか。 「輝にはもう」  町子の言葉に、おじさんは頷いた。そして、おじさんは輝の手を取り、深呼吸をしてこう言った。 「高橋輝、今までよく頑張ってくれた。そして、お前も察している通り、俺の名はアース。アース・フェマルコートだ。地球のシリンであり、町子の伯父だ」  アースは、輝に笑いかけた。そして、輝から、先程の女との戦闘の様子を聞き出した。輝はある程度話し終えると、疲れてきたので休んでいいかと聞いた。すると、アースが休んでいいと言ったので、静かに目を閉じて眠った。  アースは、輝が眠ってしまうのを確認すると、町子に輝のことを任せて、外に出た。そして、外で待っていたシリウスと合流した。 「確認はとれたか、アース」  シリウスは、そう言って歩き出した。二人は町子や輝に聞かれないように細心の注意を払いながら、外に出た。そこは草原の真中にある一軒の家で、周りには風に揺れる丈の長い草と青い空だけが広がっていた。輝はその家の二階にいて、家の隣には車が一台、置いてあった。  外に出たアースとシリウスは、しばらく草原の中の道を歩きながら話し合った。 「因果律を操るシリン、地球のシリンに最も近い存在が何体もいる。博士はそう言っていた。お前はどう思う?」 「どうもこうも」  アースは、苦笑した。 「あのわけのわからない組織がクエナを攫い、ジョゼフの文書を手に入れた時点で大体の想像はついていた」 「ジョゼフの文書って、あの、惑星のシリンを二体作る実験をしていた、元地球渡航者のじいさんの研究書か?」 「そうだ。あれのおかげでずいぶんと俺も回り道をした。それがまた出てくるとはな」 「お前はそれの犠牲者だもんな。あの実験の実験台になって記憶の一切を失った」  アースは、そのことについては何も言わなかった。触れてほしくない過去というわけではなかったが、ここで話題にするほどのことでもなかったからだ。 「シリウス」  アースが、真剣な顔をしてシリウスを見た。シリウスは唾をのんだ。アースのこういう顔は久しぶりだった。 「輝が覚醒した以上、奴らは輝を敵視して攻撃を仕掛けてくるかもしれない。俺一人で守れればいいが、限界はある」 「分かっているさ」  シリウスは、そう言ってアースの背をたたいた。 アースは、飄々としてはいるが、いざとなると自分一人で事を抱え込む性質がある。こうやって人を頼るようになったのは最近のことだ。だから、アースのほうから何かを頼まれるのは嫌な気がしなかった。むしろ、歓迎するべきことだった。 「俺やマルスも協力する。まだ覚醒しきれていない町子も狙われるだろうからな」 「そうだな」 そう言って、アースは少し安心した表情を見せた。 「なんだか、懐かしくないか、ここ」 遠くを見つめているアースに、シリウスはそう言って、草原の草を撫でた。風に揺れる草の葉は、柔らかかった。 「柔らかいな。そうでもないか」  そう言って苦笑いするシリウスに、アースは何かを言いかけた。言いかけて、呑み込んだ。この草原は確かにあの草原とは違う。しかし、あの頃を思い起こさせる何かはあった。 「どこも変わらないさ、シリウス。空の色以外はな」
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