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パレスチナの月 5

 聖地に着くと、そこにはたくさんの人間が来ていて、ジブリールが姿を現したと言われる広場には人だかりができていた。輝や町子たちは、信仰がここまで厚く姿を現すのをはじめて見た。近所のお寺の、くじ引き券入りの豆まきに群がる人間とはわけが違う。純粋な信仰と、そこに潜む一抹の悲しみ。それが見て取れた。  輝の感性は日に日に鋭くなっていった。それは、戻すものとしての能力の覚醒を嫌でも予感させていた。輝が人だかりに行こうとするので、シリウスが一度それを止めた。  この町は前の町より風が強く埃っぽい。空気も乾燥していた。緑も少なく、明らかに貧しい。その町が今、聖地としてにぎわっている。これは悪いことではない。 「マフディ、この町で一体何をしろってんだ?」  パレスチナの月、カリムはむしろこうなっていることを望んでいたのではないか。シリウスはそう考えていた。そうなると、カリムを助けてほしいといったマフディの言葉はどこかおかしい。 「マフディ、さっきまでのことだが」  シリウスが言いかけると、マフディはその言葉を急いで遮った。 「シリウス、あなたの腕を見込んでのことです。これ以上はどうか」  納得がいかない、そんな表情をシリウスは見せた。輝はどこかに違和感を抱いていた。ここに来る前、来る途中。どこかやはり引っかかる。どんな引っ掛かりかはわからないが、また何かあるのだろう。  そして、すでに何かに気が付いているはずのシリウスが何も言ってこないのも気になる。マフディに口止めされているのか、それとも、まだ確信が持てていないのか。  一行は、人だかりのある聖地から離れ、少し落ち着いた場所にある空き地でいったん休むことにした。水筒の中の水もあとわずかだった。どこかで調達しなければならない。  この辺には共同の井戸はあるが、外部のものが使うことは許されていない。町の中で細かく分かれた地区の住民がきっちりと管理していた。水が水筒からなくなる前に、この問題をどうにかして先程の町に帰らなければならなかった。  そのことを話し合っていると、五人の前に誰かが現れた。  なんと、先程見た、あの双子の女の子だった。こちらに先回りしていたのだろうか。 「こんな問題、解決する訳ないわ」  サタンの女の子が言った。 「私たちについてくるといい。このマフディって男が、何を企んでいるのかがすぐに分かるわ」  ルシファーの女の子が言った。  企んでいる。  どういうことだろう。輝たちは目を見合わせた。シリウスだけが、なんとなく事情を納得したように立ち上がって二人の悪魔を見た。 「案内してくれるか」  それを聞いて、町子が飛びあがった。 「シリウスさん、どういうつもり? 天使と悪魔、信頼するのがどっちかなんて、火を見るより明らかじゃない! 悪魔についていくなんて!」 「町子」  町子を呼んだシリウスは、町子を見ていなかった。まっすぐ見ていたのは目の前にいる悪魔たちだった。彼女らは笑ってもいないし怒ってもいない。無表情だった。 「どのみち、だまされてでも動かなきゃ問題は解決しない。道筋が立った以上、早めに問題を解決してしまいたいんだ」 「でも、彼女らは悪魔。夜の王であるシリウスさんとはいえ、敵う相手とは思えないの」  シリウスの身を案じる町子を、シリウスはようやく見た。そして、優しく笑いかけてこう言った。 「俺一人じゃない。みんなで行くんだ。それに、ピンチになったら、あいつが駆けつけてくれるだろ。見るものも、戻すものも、そして俺やフォーラさんも、あいつにとって失っちゃいけないものだからな」
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