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粉挽き小屋 3

 レジの横にあったベルを手にとって鳴らし、クチャナが全員分のパンを出して奥にいる小柄な男性を呼んだ。すると、しばらくして男性はやってきて、泣きはらした顔でレジにやってきた。  すると、セインとクチャナを見るなり、男性は顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。 「またしても、みっともないところを見せてしまいました」  いいんだよ、クチャナはそう言って、このパンを店内で食べていってもいいかと訊いた。すると、青年はもちろんです、と答えた。  四人は、青年が出してくれたテーブルと椅子に腰かけて、そのテーブルの上にパンを並べて食べ始めた。寂しそうに笑いながら店の奥に去っていった青年を見て、輝はクチャナに問いかけた。 「彼ともいっしょに食事をしたい。彼や、あのおじいさんに何かがあって、それを俺たちが解決しなきゃならないなら、事情を説明してほしい。いいだろ?」  すると、クチャナは笑って応えた。 「もちろん。ここで私たちから話そうと思っていたが、彼から直接事情を聞いたほうが早いだろうからね。どれ、呼んでこよう」  そう言って、クチャナはパン屋の奥のほうに行って店主を読んできた。彼はクチャナに連れられて恥ずかしそうにしながらやってきた。  セインが椅子をもう一つ持ってきてテーブルに添えたので、クチャナは彼をそこに座らせた。パン屋の店主は、申し訳なさそうに、肩をすぼめて、瞳を泳がせた。 「あんなに言われちゃ、こうもなるよね、確かに」  町子がそう言うと、店主は突然首を振り、顔を上げて大きな声で返した。 「それは違います! あのご老人は悪くないんです!」  その態度にびっくりして、町子は一瞬心臓が止まりそうになった。 「すべては僕が悪いんです。とはいってもなぜ僕が悪いのかもわからないのですが」 「それは、どういうことなんです?」  輝が尋ねると、店主はうつむき加減に話し始めた。 「皆さんはシリンという人種ですから、この話を信じていただけるものと思います。なので、ここからは事実を包み隠さずお話ししましょう。私の名前はマルコ。このパン屋を経営しているものです。そして、あのご老人はこのパン屋のパンを作っている小麦粉を挽いている粉ひき小屋の主です」 マルコの話はこうだった。  マルコは、粉ひき小屋のおじいさんの一人娘である、ある女性に恋をした。おじいさんの娘にしてはずいぶんと若いその女性の名前は、ルフィナ。流れるような金の髪は背中まであるストレートヘアで、ひどく美しい女性だった。少なくともひとめぼれをしたマルコからすれば美しくて聡明だった。そのルフィナが若いのは、まぎれもなく彼女がシリンだったからだ。シリンは、子供を産んでその能力をその子供に移さない限りは不老。だから、おじいさんが若いころに産んで、年ごろまで育ったルフィナはまだ若いままだったのだ。だが、それを周りに知られるわけにはいかないから、おじいさんはルフィナを都会に働きにも出さなかったし、めったに遊びにも行かせなかった。マルコは、ルフィナと付き合っているうちにシリンのことも聞いたし、彼女の置かれた状況も理解してきたつもりだった。 そのうち、マルコはルフィナに告白をした。愛している、と、一言。すると彼女はたいそう喜んだ。二人はそうして相思相愛になった。しかし、ある時をさかいに、マルコはルフィナと会えなくなってしまった。 それは、一人の青年がここにやってきて住み着いてからだった。彼はアントニオという名で、町から、父親や妹を連れてやってきた。彼はすぐにこの土地になじんでいった。その頃に、マルコのパン屋にはよくアントニオの妹が来るようになった。彼女は日に何度も来てはパンも買わずに帰り、そのうちマルコに色目を使うようになってきた。パンを買わないのなら来ないでくれといっても聞かずに毎日やってきた。 ちょうどその時期に、マルコはルフィナに会いに行っても会えなくなってしまったのだ。彼女に会えない理由を知りたいと言っても、ルフィナの父は「お前の胸に聞け」の一点張りだった。そのうち家に近づくだけで怒鳴られるようになり、ついには、パンを作る粉さえも売ってくれなくなった。マルコは仕方なく他の家から粉を仕入れることにしたが、ルフィナの父が挽いた粉以上に良いものには出会えなかった。そして、もう一度粉だけでいいから納入してくれと頼んだら、先程のようなことになってしまったのだ。
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