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青い薔薇 11

『自由』  あの、強そうな人が言ったその言葉は、突き抜けていた。  どこかに得体のしれない説得力があった。輝にはまだ分からないその感覚。束縛されていない状態、思いのままに動き回れる状態、それを自由というのだろうか。本当にそれだけなのだろうか。自由という状態は、そんな物理的なものだけなのだろうか。  おじさんに、あの、強そうな人に備わっている自由とは、それとは質の違うものだと思った。根本的に何かが違う。そう思った。  しばらく寝ていたほうがいい、そう言われてベッドに寝ていると、一度、ローズがおじさんと一緒に来て輝の包帯を替えていった。そして、立ち上がれるようになると、ローズの家の電話を使って、一緒に来ている人間に電話をするように言った。輝は携帯電話を町子たちに預けたままにしていたので、その電話を借りて町子の携帯に電話をかけようとして、ハッとした。  電話番号が分からない。携帯には入っているが、覚えているわけではない。 「彼女らの泊まっているホテルは分からないの?」  焦る輝に、あきれたように腕組みをして、ローズがアドバイスをした。今まで気が付かなかった。自分がどれだけ携帯電話に頼って生活をしていたか、よくわかった。携帯一つないだけでこんなに焦るなんて。文明はどれだけ人間を思考停止にしているのだろう。それに気が付いて、輝は少し携帯電話が怖くなった。  輝がホテルの名を告げると、ローズはすぐに電話帳で調べてくれた。そのホテルに電話すると、フロントの人間が出て、用件を聞いた。今夜宿泊予定のフォーラ・フェマルコートの名と自分の名を告げると、しばらくして電話口にフォーラが出た。 「輝君! 大丈夫? 心配していたのよ!」  電話口のフォーラの声は明るかった。少し緊張しているのか、震えていた。 「すみません。いままで、連絡をすることすら忘れていました。少し、けがをしましたが、ローズさんに助けてもらったので、大丈夫です」  輝は、ここでおじさんの存在を出すのをやめた。先程「自分のことは内緒にしておいてほしい」といわれたことも理由にはあるが、なぜだか、言ってはいけない気がした。 「青い薔薇のシリンは、ローズさんっていうのね。彼女は、大丈夫なの?」 「はい。なんだか助けられてばかりで。おかげで俺もスッキリとしました」 「スッキリした? じゃあ」 「はい。すぐにでもそちらと合流できそうです。ただ」  そう言って、輝はローズを見た。彼女の問題がまだ残っている。それをどうにかしない限りは帰れない。幸い、あの、強そうな人も一緒にいる。ある程度危険な場所に行くことになってもどうにかなりそうだ。実際、密猟者相手ならば強い人がいたほうがいいだろうから。 「ただ?」  フォーラが返してきたので、輝はこう答えた。 「ローズさんは俺が助けます。あなた方のところへ帰るのは、その後です」  輝は、そう言って電話を切った。本当は町子やテンの声も聞きたかったが、そこまで話していたらいつまでもダラダラといつまでも話が続きそうだったのでやめた。 「ローズを助ける、か」  照れながらそっぽを向いているローズの横で、おじさんが笑った。輝を笑ったのではない。おそらく、自分自身を笑ったのだろう。ローズは、不機嫌そうだ。 「助けられるなら、やってみなさいよ」  ローズは、不機嫌そうにそう吐き捨てた。その瞳はどこか寂し気で、揺らいでいた。自分の感情をどこへもっていったらいいのかわからなくなっていたのだ。 「輝、ローズを助けると言ったが、具体的に、どうすればいいのか、わかっているのか」  おじさんの問いかけに、輝は頷いた。 「これは俺のやり方です。日本人としての俺の。でも、間違っているとは思えません。だから、おじさん、あなたにも協力してほしい」  輝の目は、しっかりと未来を見据えていた。自分のやるべきことを知っていた。日本人として、ローズの憎しみに対しての答えを見出した輝のやるべきこと。それが明確に分かっていた。おじさんは、輝のその瞳にそれを見出した。そして、強く頷いた。 「分かった。とりあえず、俺やローズは何をすればいい?」  ローズの抱えている問題、それを解決することなど、この強そうな人ならばすぐにやってしまえるだろう。強さとはそういうことだから、そう輝は思った。なのに、自分ではそれをやろうとしない。このおじさんという人はおそらく、輝を試しているのだろう。戻すものとしてシリンや地球文明にかかわっていく、その過程でどれだけ強くなれるのか。  そして、戻すものに本当にふさわしい人間なのか。  輝は、その試練に応えるように、ローズとおじさんに向かって、こう言った。 「サバンナに行ってもらいます。俺も含めて、全員猟銃を持って行ってもらいます。おじさんは、周りを見て、危険があれば排除してください。俺とローズさんは、密猟者を見つけ次第、始末します」
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