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第十五部-地下千階。
ミリが生み出した一つの大剣は、姿を崩さないまま地面に突き刺さっている。
一方、ミリはボロ雑巾の様に転がった勇者を、指でつつく。
(起きないわねえ…)
彼女は勇者を持ち上げた。地面に突き刺さった血の大剣はアイテムボックスへと押し込まれる。
(あら、忘れる所だったわね)
怪物の死骸を仕舞い忘れて居ることを思い出す。巨大な死骸をも、自らのアイテムボックスに強引に仕舞い込んだ。
吸血鬼は自らに用意された客室へと向かった。
☆☆☆
ミリは王城に辿り着く。片手には勇者を抱えていた。
彼女は表に立っている門番に接触しない様に、自らに用意された客室へと舞い戻った。
その途中で、彼女はボロ雑巾の様な勇者を、城の使用人がいつか見つけるだろうと、廊下に乱雑に立て掛けた(放置したとも言える)。
ミリに用意された客室は、人気がなく広く、そして静かな部屋だ。悪く言えば、暗殺をしやすい部屋だとも言えるだろう。
また、部屋の壁際には、一つのテーブルと椅子が置かれていて、その隣には、1人では明らかに大きいだろうと思えてしまうソファーがある。
彼女はゆったりと、そのソファーへ腰を掛けた。
唐突に、彼女の携帯電話が鳴りだした。掛けてきたのは美玲だった。
「はい、もしもし。どうかしたの?」
ミリは誰かを確認した後、すぐに応答する。
『えーっと、何かね。凄く強い魔物…というか、よくわかんないのが目の前に居るんだけどだけど、今目の前に居るんだけど、その処遇をどうしたら良いのかなあ?って』
美玲が口に出したそれは、態々訊ねる必要があったのかと、ミリに首を傾げさせる物だった。
「倒せば良いじゃない?」
『私と陵の鑑定だと、種族名が表示されないんだよね。だから、何か意味が有るのかなあ?って』
「…貴女達の鑑定で見る事が出来ないとなると…、それは天照大神ですら知り得ない情報になるのよね?」
地球の最上級神が知り得ない存在が、今、美玲達の目の前に現れたと言う事だ。
『まあ、この私と陵の力はあーちゃ…じゃなくて天照大神様から貰ったものだからね』
ミリは彼女の言葉を聞きながらも、自らが居座っている部屋に向かってくる人気を感知する。
「ごめんなさい。私も今から忙しくなりそうだわ。その件は…シンに訊ねてちょうだい。私がそう言ったって言いなさい」
『あ、忙しかったんだ。態々ありがとうございます。じゃあ、シンさんに聞いてみるよ』
そこでミリと美玲の会話は終わり、繋がった線は切れた。それに代わる様に、部屋の扉が開かれる。
「星王様、少々お時間を頂けないでしょうか?」
「ええ、良いわよ」
☆☆☆☆☆☆
「があっ!?」
ティルは壁に叩き付けられた。
ティル、クリスタル、ローズ、それから陵と美玲は、今までに無いほど、厳しい戦いに直面していた。
彼らが戦っているのは、地下1000階の恐ろしく広々とした空間だ。
そこには惑星の核がほんの少しだけ見えており、それを中心に茶色い地面が囲っている。一種の、そう、幻想的と言うに相応しい光景が広がっていた。
「ミリさんは?」
「忙しいらしいから、シンさんに掛けてくれだって!」
美玲の言葉を聞いて、陵が早速電話を掛ける。
彼らが対峙している存在は、惑星の核より力を受け取っていた。それはつまり、いや、だからこそ、美玲も陵も安易に破壊して良いものなのかと、ミリに電話を掛けたのだ。
『どうした?』
「シンさん、よくわからない敵が目の前に居て、どうしたら良いかわからないんだけど、どうしたら良い?」
支離滅裂だが、そこまで話をしている暇はない。つい先程、ティルは壁に叩きつけられ、クリスタルですら追い込まれかけている。
守護神に相応しい結界は何度も叩き割られ、何度も結界を貼り直す。それで何とか、本当にギリギリ耐えている…といった具合だろう。
ローズは何とか死なない様に逃げ回る事だけで精一杯だ。
『それは興味深いな。…倒せないのか?』
「倒す事は出来ると思う。…まあ、かなり辛勝になると思うけど」
陵と美玲が加われば、倒せなくはないだろう。彼と彼女のアイテムボックスには、今までに手に入れた、恐ろしい兵器や神器が詰め込まれているのだから。
『…私が行こう」
「来るの早過ぎ」
シンが陵と美玲の前に姿を現した。
「…あのよくわからない獣が、それか?」
「まあ、そうだね」
シンの問いに、美玲が頷く。
「あれを殺せば、惑星の核に直接触れるようになる様だ」
「殺す分には問題無し?」
「問題は無いな。但し、核に少しでも何かをしようものなら…地上は天変地異に見舞われるだろう」
実は、陵達が地下に潜っただけでも天変地異は引き起こされている。例えば、ミリが倒した巨大な怪物とか。
だが、それはまだ小さな変化だ。核に何かをすると言う事は、それ以上の変化を齎してしまう。
「あ、そう言えば、このダンジョンの核って何処にあるんだ? もしかして…惑星の核がそれだったり…「それは無さそうだな。まあ…有り得ない話では無いが」」
陵の疑問を、シンが食い気味に否定した。
「惑星の核を養分にして、いや、だからこそ、このダンジョンはここまで成長したのか」
シンは周りの観察を続ける。このダンジョンは明らかに大きさが可笑しかった。"惑星の教科書"にすら、このダンジョンの存在は記されていない。つまり、このダンジョンは惑星側にとっても、許容できない想定外な存在だと言う事だ。
「まあ良い、取り敢えずあれを倒してしまおう。…とは言え、私が火力でごり押して倒してしまうと…惑星の核にも傷をつける事になる」
彼自身が"よくわからない獣"と評したそれに目を向け、陵と美玲に聞かせるように告げる。
「何らかの方法で、あれの能力を抑えなければいけない訳だが…」
「そこで俺達の出番か」
彼が意図する意味が、陵にも美玲にも理解できた。
「俺はこれとこれで」「牛神さん」
陵は右手に光線銃サブマシンガンを、左手に光線銃ハンドガンを、美玲は牛神さんの大斧を。
「行くよ。美玲」「うん、行こう」
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