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第十五部-血は巨獣と共に舞う。

「くっそ…」  勇者は自身の剣が通らずに歯噛みをする。焦っても仕方がないと、第三者から見てもそう思える程に巨大な、尚且つ装甲の硬い敵を相手にしているのにも関わらず…だ。  彼はポッと出の勇者ではない。様々な実践を積んだのち、勇者剣を扱う特別な資格を得て勇者となったのだ。…であれば、焦ってはならない事など、簡単に、それこそ手に取る様にわかっていなければ可笑しかった。  それなのに関わらず焦らせるのは…、巨大な怪物が勇者の攻撃の一切を無視して、彼自身の出身国へと足を進めているから。 「なら…一か八かだ」  勇者剣を上に掲げ、大気のエネルギーをそれに吸い込ませる。その技は酷く実践に不向きなのだが、彼にとって最も威力を持った一撃を放たせる。 「くら…えっ!!」  その一振りの剣は、地面を斬り裂き巨大な怪物の身体に一筋の線をつけた。  …だが、それだけだった。  巨大な怪物は初めて勇者を認識し、煩わしそうに尻尾で吹き飛ばした。  めきゃめきゃ、と鳴る音に準ずるように、彼の身体は音を立てて破壊された。  骨はほぼ全て砕け、辛うじて脊椎と頭を守る事に成功したが、勇者の戦いはそれで終わってしまった。 (くそ…、ここまでか…) ☆☆ 「あら、勇者もやられたのね」  気配が消え、その怪物に向かっているミリは、少しだけ面白そうに呟く。 (ま、神代の化け物と言われてしまえば、その結果は当然ね)  少なくとも、神が姿を降ろして初めて、それを倒し得るだろう。ミリはそう考えている。であれば、そもそも只の人であった勇者には勝ち目など無かったのだ。  ミリは巨大な怪物の目の前に姿を現す。それは災厄と言っても違いない程の威圧感を放っていた。  その威圧感に対応するかのように、ミリも怪物に威圧をし返す。すると、大気が震えた。怪物の目線が、完全にミリへと向き… 「GHOAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」  咆哮を上げた。それは更に大気を揺らし、木々をなぎ倒した。  ミリは怪物に飛び乗る。足裏から血の刃を生み出しスパイク代わりにすると、次の瞬間、一気に走り出した。  すると、彼女が巨獣の身体を走ると、それに続くように、まるで電子回路の様な跡が血で描かれていた。  巨獣の腕の様な物が、ミリを捕らえようと動く。血爪で八つ裂きにし、あっさりと彼女は突破する。  それでも彼女を止めようとする巨獣の背には、毛細血管の内部の様な形へと変動していく。  それはまるで、ウイルスを捉えるかの様に彼女に絡みつこうとする。 「…邪魔をしないでくれるかしら?」  彼女はそれらですら足を遅くする様子も無く、縦横無尽に駆け回り、切り裂き、突破する。 (これでやれるかしら? …念には念を入れた方が良いわね。無駄な力を使うのも控えたいもの)  正直、ミリが全開戦闘を行っていれば、こんなに巨獣の背中を駆け回る必要は無い。…が、それでは少々気疲れを負ってしまう。  他国の為に、態々そこまでの労力を割いてやる気はない。  気を取り直した様にミリは走り始めた。彼女の後ろには、変わらずに電子回路の様な跡が続く。  巨獣の背を、邪魔な障害物を幾度となく壊し、彼女は走り、跡を描き続ける。  やがて、巨獣の全身を、跡が、血痕が、覆う。 「これで終わりよ」  ミリは血痕に触れる。血痕より、ミリの血液が巨獣の肌に突き刺さり、やがて巨獣の血液に触れた。  吸血鬼特有の、血液を操る力。血力。  それがやがて、巨獣の血液すらも管理する。巨獣の血液は、本来あるべき筈の無い流れへと変わり、巨獣の中身を掻き回す。  やがて、巨獣の口からは森を飲み込むような、恐ろしい量の血液が吐き出された。  その吐き出された血液は、ミリの手によって空中に浮き、一つの形をとった。大きな剣だった。  森を飲み込むような量の血液が、一本の剣へと圧縮された。それは当然、恐ろしい程の硬さと重さと…、そして、斬れ味を誇り…  巨獣の一部をあっさりと切り飛ばした。 (これ…結構使いやすいわね)  その手応えに彼女は満足感を得る。 「GYAUUUUUUUUU!!!???」 「アナタの身体は…無駄なく使い回してあげるわ」  _____首を叩き切った。
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