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第十五部-大陸を超えた対談。
勇者が住んでいる国は、ミリが統治している土地とはまた違った大陸にある。
「国王直々にお出迎えなんて嬉しいわね。オクレリアス陛下」
その国の土地に足を踏み入れたミリに対し、勇者が住まう国-オケアドル-の陛下が自ら出迎えた。
「よく言う。そちらは我が国の最強を軽く圧倒するだけの力を多量に持っているのだろう?」
「あら、別に私は脅していないわよ? ちょっとだけ、夫が勇者を脅しただけよ」
既に還暦を迎えていても可笑しくは無いくらいに貫禄のある顔で、陛下は恨みがましい目線をミリに向けた。だがしかし、そんな表情にすら、ミリは悪戯っぽく微笑みを返すだけだった。
「それで…先に返したそれ の話は聞いてくれたのかしら?」
「ああ、聞いた。…どうやらこの先は長話になりそうだ。我について来てくれないか?」
ミリの言葉に重々しく彼は提案をする。話して"はい、おわり"とはならないのは当たり前で、むしろ、これからの会話の内容を知っている者からすれば、長話になるのは周知の事実だ。
「ええ、当然良いわよ?」
「助かる。では、ついて来てくれ」
陛下が罠を仕掛けている可能性を考えていない訳が無い。けれども、そこで引いてしまっては駄目だろう。
「こちらが貴女の為に用意させて貰った部屋だ。会議室は少し先にあるがな」
「歓迎したければすれば良い、話を聞きたいのなら会議室に連れて行けば良いわ。正直、貴方達がどうするかまでしか見届ける気は無いのよ」
ミリは陛下の言葉に一線を置く、別に彼女は交渉をする為に来ている訳では無いのだ。単に、自身らが(主にシンが)行った事柄の負い目を無くす為だけに来ているのだ。
「勇者から話を聞く限り、貴女は星王と呼ばれる強大な存在なのだろう? ならば媚を売ろうと考えるのが当然な結果なのでは無いか?」
「ええ、そうね。けれども、媚を売るだけの能無しが蔓延れば…その先は破滅しか無いわよ?」
その様な者はミリやシンが作る世界に、惑星に必要ない。歪んだ教えも必要ない。
「もちろん、私は知っているわ。媚を売る事で這い上がり才能を開花させた存在も居る事を。けれども、それは"その様な世界が既に成り立っていた"という事実が無いと不可能なのよ。媚を売る事に絶対的な不快感を覚えていれば、それはまた違ったものになるかもしれないわ」
陛下が口を開き掛け、ミリはそれを閉ざす様に答える。そんな簡単な事を引き合いに出したいわけでは無い。
「…貴女の世界にそれは無いと?」
「さあ、どうかしらね? まだ始まってすら居ないもの」
☆☆☆
「あら、ありがとう」
ミリは何かもてなしの品を出してくれたメイドに対し、一言礼を言う。既に陛下には陛下が満足するまで話しをし終えた後だ、もう既に日は落ちている。
「失礼します」
メイドはそそくさと外に出て行ってしまう。
「馴れない物ねえ…。ねえ、そう思うわよね?」
彼女以外誰も居ない筈の部屋にミリは問い掛けた。
「…私の前に出てきて私との会話を楽しみなさい。そうすれば、バレた事実は墓まで持って行ってあげるわよ?」
今度は目線を上にあげ、天井をじろりと睨むように見つめる。それは神祖の吸血鬼としても、星の王としても、相応しい眼力だった。
すると、それに反応する様に天井がバきっと外れ、身を軽やかに黒装束を纏った女が地面に足を着けた。そして、頭を垂れる。
「…どうか、私の首だけで勘弁していただけませんか?」
自らの死に対して覚悟は出来ている。けれども、女の手は震える。ミリの眼力はそれ程に恐怖心を駆り立てるモノだったからだ。
「…何言ってるのよ。別に私は気を悪くした訳じゃないわよ? ただ、気にいらない事があるとすれば…」
ミリは流し目を女に向ける。
「…貴女が死ぬ覚悟を得てしまっている事かしら。少し足掻くくらいはしなさい」
最も気に入らない事柄だ。彼女の気配の隠し方は一流と呼んでも差し支えの無いモノだ。当然、彼女の仲間である隠密神アイリスに敵う筈は無いが。
「私は…国に命を捧げると決めています」
重々しく告げる女。
「…はあ、私の下はこうであって欲しくはないわね。まあ良いわ、少し話につき合いなさい。別に隠す事も無いもの」
ミリは心底そう思う。別に慕われるのは良い、その様な職種が出来るのも良い。けれども、生きる事を足掻かせない理由は一切として無い。
「わ、私で宜しければお供いたします」
「ええ、楽しい時間になると良いわね」
☆☆
「…では、私はここで失礼します」
「…そうね」
黒装束の女はミリに頭を下げると、先程と同じ様に天井へと戻って行った。その直後に、部屋の扉は開かれる。
「あら、久しぶりね。勇者」
「・・・」
ミリの為に用意をされた。との名目であるこの部屋に、勇者が足を踏み入れた。
「…なんか言いなさいよ」
少し小突くように、ミリは勇者に口を開く様に促す。
「なるほど、私の監視…という訳ね。随分と舐められたものだわ」
それは殺気ではなく覇気、眼力が勇者を貫く様に収束する。
「いや、そうではない」
「だったら何か様があるのかしら?」
ミリは心底恨みがましい目線を勇者に向けていた。彼女からして彼の印象は最悪だ。当然、本来ならばその思いは隠すべきだが、この場では隠そうともしない。
「その件は、本当に申し訳なかった」
「申し訳ない? …よく言うわね」
ふん、と彼女は苛立たしそうに告げる。
「見ているのも不快だわ。今すぐにこの部屋から出ていきなさい」
珍しいミリの厳しい言葉。基本的に彼女がそこまで人を拒絶することは無い。
「…わかった、失礼させてもらう」
勇者はそんなミリに対し、そそくさと部屋を後にする事でしか、やり取りをする事が出来なかった。
☆☆
「…何だか、外が騒がしいわね」
ミリの耳は騎士の物と思われる金属音や、怒号が薄く小さく捉えた。
「…何があったのかしら?」
彼女はあっさりと、自らの為に用意された部屋の外に、足を踏み出してしまう。
「ねえ、そこの貴方。何が起こったのかしら?」
丁度、彼女はそこを通った執事風の男に訊ねた。
「申し訳ない、余裕が無いので失礼する」
「待ちなさい。それは外に居る強大な化物に関してなのかしら?」
男が彼女を躱して通ろうとするも、彼女の脚が壁を蹴り、男を通せん坊する。
「…ああ」
「ふうん、そ、ありがと。もう行って良いわ」
隠密神アイリス程に、彼女の感知能力は高い訳では無い。だが、それ程までに大きな存在だったとしたら、彼女が気が付かない道理はない。
「…? ああ、勇者が戦ってるのね」
その気配を切り裂く様な一つの気配を感じた。けれども、すぐ様に納得と理解を得る。
「私も行こうかしら…?」
少なくとも、それは勇者では手に負えない。どちらかと言えば神寄りである事を、ミリは理解していた。故に少しだけ頭を悩ました。
少し思考した後、彼女は招かれた屋敷から飛び出した。
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