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第十五部-勇者と聖剣使い。
「逃げないでください…と、あれほど言ったのに」
「っち、見つかったか」
屋外に逃げ出した勇者は、聖剣使いこと雄二に発見される。
「クライダ、行くぞ」
『ん、使って』
雄二は容赦なく聖剣を抜いた。
「…やるしかないな」
勇者も聖剣に呼応する様に、勇者剣と呼べそうなそれを何処からか取り出した。
「空間魔法…?」
雄二はシンの空間干渉能力を知っている。故に警戒度を最大限に引き上げる。
(取り敢えず…仕掛けるっ!)
雄二は勇者に向かって走り出す。
「「はあっ!!」」
雄二の剣と勇者の剣が重なり、唾ぜり合う。
「ぬんっ!」
「っつ!?」
本物の勇者に偽物の勇者では競り勝てる道理など無い。雄二は押し飛ばされてしまう。
「くらえっ!!」
雄二は宙を舞いながらも、勇者に向けて、一撃、二撃、三撃と氷の刃を飛ばした。
一撃を足を踏み出して、二撃を身体をひねって、三撃を斜めに振り下ろして、勇者は斬り落とす。
「お前…紛い物の勇者だろう?」
「生憎、私が勇者を名乗った事はありませんよ」
勇者の問いに、雄二は皮肉を返す。と同時に勝ち目が無い事も理解した。
「どちらにせよ。お前が私に勝てない事は理解したはずだ」
「そうですね」
雄二はアイテムボックスからピストルの様なモノを取り出し、迷う動作も無く、上へと打ち上げる。
それはけたたましい音と共に、赤い煙の軌跡を描きながら上へと飛んで行った。
「っち!」
それの意図を正しく理解した勇者は逃走を再開しようとする。
「逃がす訳ないでしょう?」
それを許すまいと、勇者の前に回り込む聖剣使い。
「ここは街の外だ。殺してでも押し通る」
「街の外だからこそ…こちらの勝ちです」
勇者が水平に剣を構えて本気の色に変わる。…が、今までと同じように雄二は剣を構える。
ワオーーン!!
その2本の剣に呼応する様に、狼の遠吠えが響き渡った。
「なんだっ!?」
勇者が狼狽した次の瞬間、聖剣が彼の脚を斬り裂く。その一太刀は切断せずともバランスを崩させるだけの威力を含む。
「っつ!?」
「拘束させてもらいます」
雄二は聖剣で勇者剣を弾き飛ばす。その動作に合わせる様に脚を蹴り飛ばし横転させる。
次の瞬間__________、勇者剣が雄二を背中から貫いた。
「がはっ!?」
雄二の口からは多量の血が噴き出す。
勇者剣は勇者の身体から生み出されたものだ。勇者自身の手を離れたからと言って、勇者剣が動かないとは限らなかった。
『ユージっ!?』
明らかに戦闘不能になってしまうような一撃を見て、聖剣 は悲鳴を上げる。と同時に雄二の意識に反して魔法を発動、勇者を木の杭で串刺しにした。
「っつ!?」
勇者の急所は外れている。けれども身動きは一切として取れない。
「雄二っ!?」
元太が神狼族のブランに乗り駆けてきた。
『今すぐ運ばないと不味いと思うよ』
ブランの言葉を聞き、元太は即刻決断する。
「ワデル、串刺しになった奴が逃げないか見ててくれ。逃げそうになったら、無理のない程度で足止めしろ。ブランは俺が雄二を抱えるから、ミリ様の屋敷まで全速力で駆けてくれ。後、そこの聖剣を咥えて」
『おうっ!』『わかった』
元太が雄二を抱えて、ブランが聖剣を咥えると、彼はブランの背に乗り直した。
『いくよー』
どちゃ、という音と共に、ブランは急発進した。
☆☆☆
「ミリ様っ! 雄二が勇者にやられましたっ!」
元太はブランに乗り、ミリの書斎部屋に直行した。
「ふむ? 雄二が下手を打ったのか?」
偶々その場に居たシンが、元太に問う。
「…まあ、そう言われてみればそうなのかもしれません」
元太としては"下手を打った"と言う言葉に対し抵抗を覚えざる得ない。
「…私が行こう。折角、陵が捕まえてきたのだから、その上司が逃してしまったら元も子も無いだろう」
シンは書斎部屋から姿を消した。恐らく転移したのだろう。
「元太、雄二をそこに寝かせなさい」
「あ、はい」
ミリはシンが居なくなったのを確認し、元太に指示を出す。
「…綺麗に刺し抜かれたわね。けれども、すんでの所で致命傷は避けてるわ」
彼女は穴の空いた雄二の身体に触れて、そして傷の具合を確かめる。
「…今はフィリカが居ない、だから、薬で何とかするしかないわ」
そして、彼の穴の中に回復薬を注ぎ込む。
「おお…」
「まあ、薬で足りるのだけれども」
回復薬のおかげで、穴は見る見ると修復されていく。
☆☆☆
シンが勇者の前に姿を現した。とは言え、勇者は聖剣 によって、一切の身動きが取れない状況に追い込まれているのだが…。
聖剣 が生み出した無数の木の杭を、あっさりと片手間にシンは消失させてしまう。
「ミリが罪無き人々に救いを差し伸べようとしている時に、かの勇者は反乱…か」
ボソリと、呆れたようにシンは勇者に告げる。
「何を言っている?」
当然、彼の意図を勇者は読める筈も無い。
「私が世界を壊そうとしている主犯だ」
「っ!?」
改まって、勇者にとっては最も意味のある自己紹介をする。
「要らないものは捨て置けとミリには告げたのだが…」
世界に住まう、虫のごとく存在する人の命など、拾うに値しないとシンは告げたのだが、ミリはそれは身勝手過ぎると彼に告げた。
だから、少しでも人をすくおうと勇者を自らの手元に招いた訳だが…、案の定、雄二は大怪我を負い、今やシンが態々顔を出す事態に至っている。
「最後の選択だ。ここで降参をするか、死ぬか選べ。お前が死ねば、お前の国との交渉すら出来なくなることは理解しておけ」
つまり、見知らぬ国は壊されるか、放置されるかだけの選択肢しか残されなくなると言う事だ。
「さあ、選べ」
最後の選択の時間だ。
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