170 / 176

第十五部-勇者、星王と出会う。

「ぐあっ!?」  抱えられた勇者は捻じ曲げられ、開かれた空間に投げ込まれた。 「あら、いらっしゃい。貴方が件の勇者ね」  投げ込まれた先に居たのはミリだった。つまり、そこはミリの書斎部屋だ。 「お前は…?」 「彼らの上司…って所よ」 「じゃあ…、ダンジョンを破壊し、世界を壊させようとしているのは…」 「それは私の夫ね。私に興味は無いわ」  親玉の様な雰囲気を出しながらも、関係が無いと告げる。 「止める事は出来るのか?」 「出来たとしてもしないわよ。そこに掛けなさい」  暖かな茶が汲まれたカップを、勇者の前に置いた。 「…何故、世界を壊すのか、その理由を貴女は知っているのか?」 「知ってるわよ。…止める事はしないわよ?」  ミリの言葉に、勇者の顔がキツくなる。 「なら…何故、私をここに連れてきた?」 「そんなに怖い顔をしなくても理由くらい教えるわよ。…貴方の住んでいる大陸は私が全く知らない場所よ。だからそうね、貴方に貴方の所の王を紹介してもらおうと思ったのよ」  見ず知らずの土地の王なんて、当然彼女が知る由は無い。いきなり、見ず知らず土地の王に会いに行っても、当然出会う事など出来ないだろう。 「…何故?」 「さあ? それくらい、自分で考えたらどうかしら?」  ミリは勇者の鋭い視線に、柔らかい視線を交錯させる。 「雄二、彼を部屋に案内してあげなさい。ついでに面倒もみなさい」 「はい、わかりました」  ミリは屋敷に招かれた勇者を聖剣使いに託す事にした。元々決まっていた事であるので、雄二の目の色は、恐ろしく平淡なまま変わる事は無かった。   ☆☆☆☆☆ 「良いの? ミリさんに渡しちゃって」 「良いの、渡しちゃって。どちらにせよ、俺達には専門外な事だろうし」  美鈴の質問に陵は答える。 「まあそれは良いとして、二つ目のダンジョンが見えて来たよ」 「…え、随分大きいんだね」  陵の指差す方向に生えている巨大な岩山を見て、美玲は少しだけ感心した様な声を出す。 「こうやって今回攻略するダンジョンの中ではかなり大きい方だしな」 「へえ?」 「取り敢えず行こうか。降りてくれ」  自身が乗っている竜に指示を出し、空を下ってもらう。ダンジョンの入り口に辿り着いた。 「じゃあ、早速で悪いけど、さっさと攻略に取り掛かるよ」 「良いぜ。けどよ、そんなに急ぐ意味があんのか?」  少し急いた印象を受ける陵に対して、ティルは疑問の声を上げる。 「ここのダンジョンは結構大きいからさ。急がないと次行くまでに時間がかかるんだよ」 「…元々、ダンジョンとは時間を掛けて攻略するモノだろう?」  陵の言い分に、今度はローズが待ったの声を上げる。 「一つ一つ時間を掛けてたらアウトだよ、まだまだ攻略しないといけないダンジョンが大量にあるんだから。って訳で、前回と同じように行こう」  陵はバギー車を取り出し、前に美鈴を抱え込むようにして乗り込む。その後ろには、密着する様にローズが乗る。  それを確認した陵はアクセルを回す。前輪のブレーキを解除して、一気に走り出した。 ☆☆ 「前とは違って…かなり走るな」  前回のダンジョンでは、これほどまでに走っていれば、既に上の階層に繋がる階段を発見している筈だ。 「まあそうだろうな。やっぱり、大きさが全然違うし。っ!? 敵っ!!」  陵がそんなローズの言葉に返事をすると、蝙蝠に似た様な細かな魔物たちが、天井から彼らのバギー車に向けて突っ込んできた。 「ローズ、実戦だ」 「…わかった」  守護神クリスタルの言葉を聞き、ローズは彼女の眷属として能力を行使する。守護結界がバギー車の前に展開され、"バンバン"と細かな魔物たちの身体によって音を鳴らした。 「轢いていくから、しっかり掴まって」  陵は更にアクセルをひねると、バギー車はさらに加速する。けたたましく地面に骨の音を鳴らして突破する。  ガコン 「前方、鉄球」  バギー車の前輪が罠のスイッチを踏んでしまう。前方からは道中目一杯の鉄球が転がってくる。 「任せろ」  ティルが一瞬で先頭へと飛び出る。自らの腕に闘気を纏わせ、一撃で鉄球を殴り壊した。 「随分と古典的な罠だったな」 「落とし穴とかじゃなくて良かったね」  陵と美玲が口々に言い合ったそれはフラグ以外の何物でもなくて…。  ガコン 「「あ」」「おい?」 「む?」「まじかよ」  バギー車は垂直に真下へと落ちて行った。 ☆☆ 「ローズ、飛べる装備は?」  落下しながらも、落ち着き切った口調で陵はローズに訊ねる。 「結界を足場にすれば問題無い。そっちは?」 「俺達は転移が出来るから問題無いよ」  陵はローズの質問に答えながら、アイテムボックスから暗視スコープを取り出す。  落とし穴なだけあって真っ暗だからだ。 「私とティルが先行しよう」 「ああ、任せた」 「行くぜ、クリス」 「うむ」  陵に任され、クリスタルとティルは落とし穴の壁に足を着ける。と同時に、一気に下へと駆け下がった。 「相変わらず、神様ってのは凄いな」  物理的に人間離れした動きに陵は関心の声を上げつつも、美玲を自らの小脇に抱える。 「行くよ」 「おっけー」  陵と美玲は互いに頷きあい、壁際に転移をする。  ガリガリガリ  靴と手を壁に当てて軽く落下速度を落とすと、今度は更に反対側の壁際へと転移する。  それらを、速度が完全に無くなるまで繰り返した。 ドサッ! 「遅かったな」  一足先に下っていたローズが、彼らに話しかける。 「こっちの能力は手間だからね」  美玲の言う通りで、落下速度を何度も転移することによって調節するなど、面倒さの塊でしかない。 「それより、クリスタルとティルは?」 「私が降りた時には居なかったが…」  人よりも数倍速く降りた神達は、ローズが降下した時には、既にその場には居なかった。  それはつまり、彼女らの前にある大きな扉の中に、足を踏み入れているのだろう。  ドカンっ!?  彼女らの前にある扉がふっ飛ばされる。その先からは、クリスタルとティルが姿を現した。ティルの片腕には、ヘッドロックをキメられた竜の顔の姿があり、もっと言うならば、その竜の首は1つではなかった。 「それ…ダンジョンボス?」  陵は思わずティルに訊ねる。 「おうよ。眷属にしてみたぜ」 「してみたって…はあ…、わかった」  これは何を言っても無駄だろうと、陵は結論付けて、ティルに問い訊ねるのを止めた。 「んじゃあ、先に行こうぜ?」 「そうだな、それが良いだろ」  ティルが壊した門扉を通って、ティルとクリスタルが攻略したボス部屋を通って、彼らは更に先を目指した。
良い
エロい
萌えた
泣ける
ハラハラ
アツい

ともだちとシェアしよう!