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第十五部-ダンジョン攻略1
(勇者…か)
陵は先程腕を切り飛ばした人物の事を考える。
「じゃあ、これから攻略に移るから」
(まあ…勇者って概念が、紛い物からではなく、本物から作られた可能性がない訳ないから…)
陵は考えながらも、他の面子に声を掛ける。彼らはダンジョンの入り口にいる。
「ペースは…そうだな、出来るだけ急ぐって感じで、急げる場所は急ごうと思う」
(そう考えると、こっちが知らなかった勇者が居ても不思議じゃない訳だ)
「じゃあ、出来るだけ突っ走っちまうけど良いんだよな?」
ティルは逆に、陵達を気遣って問い掛ける。
「そうだね。私達は人だけど、神についていけるように乗り物も貰ったからさ」
美玲は彼の懸念に返す様に、アイテムボックスから四輪のバギー車を取り出した。二人乗りではあるが、無理をすれば3人でも乗る事が出来る。
「なんだそりゃ? 父上が?」
「ん、シンさんから貰ったやつだよ」
ティルの質問に答えながら、美玲が乗り、陵が美玲を覆い隠すように乗った。
「ローズは俺の後ろ」
「…わかった」
陵に言われ、彼がバギー車に跨った動きに倣って、彼女も跨る。
「じゃあ、クリスタルとティルはついてきて」
ドルンっ ドゥルルルっ!!!
「は?」「む?」
キュルルルルっ!
彼らが乗った単車は走り出した。
「はあっ!?」「驚いてる場合かっ! 行くぞっ!!」
走り出したとは言え、乗っていない2人は神だ。追いつく事に苦労はしなかった。
☆☆
物凄い勢いで洞窟内を爆走する三体の影、1つは前に盾を出現させながら走り、その直後に一番大きな1つが走る。最後に続く1つは、前が置き去りにした怪物共を四散させて進んでいく。
「ボスっぽいの発見…」
美玲は陵の下から顔を出し、未だ接触していない怪物を両手で狙う。
光線銃ハンドガンが光弾を放つ。
「ヒット♪」
クリスタルの障壁に接触する前に、その怪物は息を引き取った。
クリスタルは自らの前に倒れたそれを、バギー車の邪魔にならない様に進路から弾き出した。
「美玲、前の扉は…」
「ボス部屋だね。そのまま突っ込んで良いよ」
人であれば、ダンジョンのボス部屋を、その扉を破壊する事は不可能だ。だがしかし、ここに居るのは人ではない。
「しっ…」
クリスタルは右拳で大きな扉を破壊した。
キキーっ!
バギー車はタイヤの回転を止める。
「あれは…竜か。初めから竜が出てくるとはな」
ローズはボス部屋に鎮座していた敵を見て、少しだけ驚いた様に呟く。次の瞬間、竜は翼を広げて飛び上がった。
「ああ、多分、このダンジョンは若いから、ラスボスとボスを合わせてあれ一体しか居ないんだよ」
そんな驚きに、陵は問題無いと告げる。
「つまり…あれ以上に強い敵は出てこないのだな?」
「そういう事だな。よっと」
陵と美玲が竜の対になった翼の後ろに転移をする。次の瞬間、1人の手からは刀が、1人の手からは大きな斧が振り落とされる。あっという間に、竜は地面へと真っ逆さまだ。
「あとは任せたっ!」
陵と美玲は竜の背中から離脱する。
「一撃で決めてやらあっ!」
彼らが離脱し、竜の落下地点にはティルの姿があった。彼は腕に闘気を纏い、それの顔面に拳を振りかざした。
一瞬だった。それの頭は壊れて四散し、身体をもボロボロに砕き切った。
「うっし、終わりだな」
「そうだね。ご苦労さま、ティル」
「お前らが落としてくれなきゃ、もっと時間かかっただろ」
世辞は要らないとばかりに、肩を竦めて美玲の賞賛に反撃をする。
「飛べないと苦労するよね」
「そりゃあな」
神と言えど、闘いの神に空を飛び回る手段はない。故に、中空の敵を倒すのに、足を地につけている敵を倒す事よりも時間がかかるのは道理である。
「おっと、ここに出口がある」
陵がペタペタと壁を触っていると、壁がガラガラガラと開いた。
「ふむ…、行くのか?」
ローズは彼の動きを見て、訊ねる。
「行くしかないだろ」
「…それもそうだな」
陵は開いた先へと、慎重に一歩を重ねる。それに他も続いた。
「…あれが、シンさんが回収しろって言ってたダンジョンコアか」
開いた先には真っ白な広い空間が広がっていて、その奥にぽつんとダンジョンコアが置かれていた。
「よっと、まずは1つ目。回収完了」
陵はダンジョンコアを取り去り、自らのアイテムボックスに押し込んだ。
「じゃあ、ダンジョンの外に出よう。もう、このダンジョンでやる事は無くなったから」
1つ目のダンジョンを、彼らは攻略し終えた。
☆☆☆
「…新手だな」
「そうみたいだね」
ダンジョンから一歩を踏み出したと同時に、大勢の兵士が目に入った。
「…今度は大量に連れて来たな」
「お前…やってくれたな?」
陵の目線と、兵士の先頭に立つ男-勇者-の視線が交錯する。
「お察しの通り、ダンジョンは壊させてもらった。…で、前会った時には腕を斬り飛ばした筈なんだけど…何でまた生えてるの?」
前回の出会いで、既に彼は勇者の片腕を斬り飛ばしている。それなのに、勇者は五体満足な姿を見せていた。
「さあな? 教える訳ないだろう?」
「それもそうだな。…じゃあ」
彼は勇者の後ろに転移をし、両脚を一閃する。
「!?」
「…これを躱すのか」
(兵士は動かないのか? …まあ、好都合だから良いか)
勇者は驚きつつも、彼の攻撃を跳ねて回避する。剣を振り抜いた勢いのまま、後ろ回し蹴りを彼は勇者の身体に当てる。
勇者の身体は地面から浮いていた。故に、彼の身体は耐える術も無く後ろに弾き飛ばされた。
「これで終わりだ」
陵は勇者が空中に飛ばされる方向に転移し、剣を突き刺さる様に置く。
「なめるなっ!!」
「嘘だろっ!?」
空中に浮いた勇者は無理矢理に姿勢を反転させ、陵の剣を弾き、更に空中に浮いたまま彼の顔面に拳を振るう。
「…まあ、ヒョロいからってお前からカウンターを取れない程、目が悪い訳じゃないんだけどな」
「うごっ!?」
前回と同じように、今回は掌底でクロスカウンターを決めた。更にそこから発頸を使い顎を大きく揺らす。
勇者の身体は地面に片膝を着かざる得なかった。
その片膝を、残酷にも陵は蹴り飛ばし、地面に勇者を平伏させる。
「ティル、捕獲しといて」
「ったく、人使いが荒すぎだろ」
「クリスタルは兵士を無力化させて」
「ふむ、わかった」
陵の指示に2人は動き出す。
「くっ!」
「大人しくしてろっての」
ティルは怪力で無理矢理、勇者を捕縛してしまう。
「お前たちはそのままじっとしていろ」
クリスタルは兵士たちの周りに、大きな結界を張り、動きを完全に封じてしまう。
「お、竜族のお二人さん、迎えに来てくれて助かったよ。じゃあ、クリスタルが封じてる内に逃げるぞ。…あ、勇者はそっちが持っててくれ」
陵は捕縛された勇者を、竜の片手に握らせる。また、彼等も竜の背に乗り込んだ。
「じゃあ、行こう。クリスタルは離れたら開放してやって」
「ああ、わかった」
バサッという音がした後に、竜の身体は徐々に空中へと浮き始める。彼らは次のダンジョンを目指して、空へと飛び立った。
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