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第十五部-ダンジョン攻略の始まり。
「ティル、クリスタル、ローズ、準備は出来てる?」
美鈴は重要な戦力である三人に声を掛け、確認を取る。
「おう」「問題ない」「大丈夫だ」
それぞれ三者三様な答えが返ってくる。
そんな三つの声を聞いていた美鈴の後ろに、二人の竜が降り立つ。
「彼らがダンジョンまで俺達を送ってくれる人たちだ。くれぐれも粗相の無い様にな」
そんな竜の身体から、彼らに見える様にひょこっと顔を出して陵がたしなめる様に言う。彼らは陵が態々族長に話を通して貸してもらった戦力兼足だ。
「よろしく頼む」
クリスタルが告げて頭を下げると、ティルとローズも彼女に倣って頭を下げた。二人の竜も頭を下げ返した。
「…ま、そんな所だろうな。じゃあ、美鈴は俺の方に乗って、ティル達はそっちに」
「おうよ」
陵に言われた通りにティルが一人の竜の背に乗る。それに追随する様にクリスタルとローズも乗った。
「じゃあ、お願いします」
陵の後ろに乗った美鈴は、ティルらが準備を終えた事を確認すると、竜にお願いをする。
ざざっ ばっさばっさ
そんな音と共に大きな翼が広げられ、はばたかれると、やがて、竜の身体は浮いた。
「取り敢えず、下が見える程度には低空飛行で頼む」
シンが用意した地表図を片手に広げ、陵は自らが背に乗る竜にお願いをする。
"ぎゃうっ"、そんな声と共に竜は陵が示した方向に身体を進めた。
それを見ていたティルらを乗せる竜も、陵らを追い掛ける様に空中ではばたいた。
☆☆☆
おおよそ5時間程飛び続けた。そろそろ休憩を視野に入れても良い頃だろう。
「そろそろ休憩にしよう。何処か、良いと思った場所に降りて貰えない?」
陵は自らが乗る竜に提案する様に告げる。
…だがしかし、それの返事を聞くまでの時間は、急な敵性物体の接近によってかき消されてしまう。
「あれは…ワイバーン?で良いのかな?」
先に敵影を発見したのは美鈴だ。とは言え、あまりこの世界の生物に詳しくない為、多分そうだろうとしかわからない。
陵らやティルらが乗っている彼ら の大きさは、さほど大きくない。だがしかし、こちらに攻撃を仕掛けようとしているワイバーンらは、ワイバーンの最大個体と言っても差し支えの無い様な大きさであった。
ワイバーンらが咆哮する、狙いを小柄な竜に定める、一気に襲い掛かった。
…が、竜の身体に後一歩な所で、ワイバーンらは顔面から何かにぶつかった。守護神クリスタルが生み出した障壁によって、ワイバーンらの進路が塞がれてしまったのだ。
「あとは任せて」
美鈴は陵の後ろから姿を消す。と同時に、ワイバーンの後ろに現れる。
バァンっ
一つ仕留める。
バァンっ
別の個体を仕留める。
只々、感情無く処理をするだけの彼女の手によって、本来災害に成るであろう程のワイバーンの群れは全ての命を消滅させた。
「ただいま」
「おかえり。じゃあ、丁度良い所で降りてくれ」
美鈴が陵の後ろに帰って来る。彼女の温もりを感じたと共に彼は竜に指示を出す。
二人の竜は少し開けた大地に足を着けた。陵も美鈴も、ティルらも大地に足を着けた。
「ありがとう。二人は人化は出来る?」
振り返って陵が問い訊ねると、竜らは頷きを返す。
「生肉と焼かれた後に肉、どっちが良い?」
生肉が良いらしい。
「じゃあ、これで」
陵はポンと大きな生肉をアイテムボックスから取り出すと、二人に差し出した。
「じゃあ、こっちも食事を作ろう。…あ、クリスタルは何かやらなきゃいけない事がなかったっけ?」
「ん? …ああ、だが、食事作りを任せるのは…」
「それは効率が悪いから却下。用事を済ませちゃって良いよ」
「…なら、言葉に甘えさせてもらう。ローズ、私について来てくれ」
陵に言われ、自らのやりたい事をする事に決めたクリスタルは、突然にローズに告げる。
「え…、あ、おいっ!?」
ローズはクリスタルに手を引かれ、強引に調理組から距離を離された。
「ここまで離れれば問題無いだろう」
「だ、か、ら、何をしたいんだっ!?」
クリスタルの手を強引に振り解こうとするが、ローズの力では守護神の腕力を振り解く事は出来ない。
「そう暴れるな。今から私が与えた力の使い方を教えようと思う」
「…眷属化」
「そうだな。とは言え、私もローズが初めてなのでな、どの様に教えれば良いのかわからない」
眷属化した側が頼りない事に、眷属化する事が初めてなのだ。お互いに手探り手探りになってしまうのは仕方が無い。
「…私で実験すると言う事だな?」
「まあ…悪い言い方をすればだな」
バツが悪そうに、クリスタルは彼女の言葉を認めた。
「はあ…、まあ良い。好きにしろ」
「…良いのか?」
「ここで嫌だと言った所で何も始まらないだろう」
クリスタルの反応に"らしく無いな"とローズは思いつつも、背中を押す様に言い切る。
「…そうだな。なら、まずは私の能力をどれだけ使えるのかを見て行こう。話はそれからだ」
ローズはクリスタルの能力の、五十分の一程を使用出来る事が判明した。
☆☆☆
ばっさばっさと、ゆっくりと空遊する二人の竜が居る。それぞれの背には二人組と三人組を乗せ、彼らは静かな青空を飛ぶ。
「Zzz…」
陵の前に座っている美鈴は、心地良い日差しと風に当たりながらお昼寝モードだ。落ちない様にと後ろから陵が覆う形で抱きしめている。
一方、三人で乗っているティルらは昼寝をする気配も無く、ばっちりと起きていた。美鈴や陵とは違って真面目である。
陵の目には、眼下には森や山ばかりが見える。これが地球であったのなら、高層ビルや住宅街など、人々の生活している証拠を視界に収められたのだろうが、ここは生憎地球では無い。
(こうやって見ると…、綺麗な自然だよな…)
眼下に見えるラフタの自然と、地球の街並みと、更に新世界の環境を並行して重ねる。
(新世界の自然も中々良いんだけど、それとどうやって共存するか…)
一応、彼だって地球の街並みを見て育った人間だ。ショッピングモールなどの楽しさは知っているし、電車などの便利さだって知っている。
(簡単じゃないよなあ…)
先は長い。けれど、星を管理する側に居る彼は考えなくてはならない。シンが世界の管理者だとするならば、彼の元で仕事をしている時点で、そうなってしまう事は想像が出来た事だ。
(ま、美鈴とゆったりと永遠に過ごせると考えれば…安いモノだろ)
少しだけ強く美鈴を抱きしめて、陵は銃を取り出した。ターゲットは前に飛んでいる鷲の様な魔物の集団だ。
「俺が攻撃したと同時に、ブレスをお願い」
陵の手元にある光線銃が火を吹く。放たれた光弾に沿う様に竜の口からブレスが放たれる。
竜のブレスが所詮鳥類の雑魚共を焼き尽くす、陵の光線銃がフルオートで火を吹く。次々に残骸が地に落ちていく。
「開けた。突っ込んで」
鷲型の魔物の集団のどてっぱらに穴が開いた。それを見逃さずに自らが乗る竜だけではなく、もう一人の竜にも指示を飛ばす。
物凄い勢いで彼らは速度を上げ、あっという間に魔物の集団を突破した。
☆☆☆☆☆☆
既に日は暮れて、にも関わらず深夜飛行を続けていた。
「そろそろな筈…、あ、あった」
目的のダンジョンの一つ、彼らが住まう街に最も近いダンジョンの姿を上空から確認できた。既に辺りは真っ暗な為、少し所では無く見辛い。
「じゃあ、少し斜めに下降…そうそう、そんな感じで降りてくれれば大丈夫だから」
見つけたら終わりではない。竜にその地に降りてもらわなくてはならない。
ドスンっ!
そんな音と共に竜が降り立ったのは、ほんのわずかに大地が見えた森の隙間だった。
「咆哮を上げて」
更に陵は、周囲の魔物を避ける為に二人の竜に指示を出す。
竜は通常、様々な生物の畏怖の対象である。故に、咆哮を響かせるだけで魔物避けになるのだ。
…だが、そんな竜さえも食料と出来る存在は当然居る。例えば、飢えたワイバーンなどの知能の低い竜種などや、ヘカトンケイルなどの地球で言う所の、竜同様に畏怖される者達だ。
「ティル、クリスタル、任せて良い?」
噂をすれば影とはこの事か、降り立った彼ら目掛けて突っ込んでくる存在が居た。
「これくらいなら俺一人で十分だろ」
「そうだな。この程度、軽く捻れなければレイ様に怒られる」
ティルは突進してくる、未だ姿の見えないそれに対し腰を落として構える。
Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaooooooooooooooooooooooooooooooooっ!?!?
そんな大きな叫びを掲げながら突っ込んできたのは、ランドドラゴンと呼ばれる知能の低い竜種だった。
「おおー、懐かしい奴じゃねえか」
言葉とは裏腹に、あまり感動していない声音でティルは呟く。
次の瞬間、漆黒の鎧がティルの腕に纏われると、それはそのままにランドドラゴンの頭に突き刺さる。
突き刺さった拳は、彼が突き刺した拳よりも格段に巨大な拳を纏っていた。闘気が巨大な拳を創り出しているのだ。
巨大な竜種を"殴り倒し"た。ずしゃああっ!と竜種らしい巨体が引き倒された。
「トドメは任せた」
「ん、わかった」
引き倒されたランドドラゴンの額に、陵が無情にも光弾を叩き込み、頭を破壊した。
「新手は…居ないかな。じゃあ、今日の活動はここまでにしよう」
陵は辺りを確認し、締めの言葉を吐いた。
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