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第十四部‐惑星は…。
「今日は態々集まってくれて助かった。…まあ、仕事の調節はしてくれたと聞いてはいるが…」
シンは書斎部屋に集まった面々に視線を流す。
「ええ、そこら辺は調節してあるわよ」
人手が増え、完全に管理職へとシフトしたミリが管理職らしい仕事をしてくれたらしい。
「それは助かった。レイ、ティルとクリスタルは何処まで行った?」
今度は、ティルらの訓練結果を問い訊ねる。
「私を相手に…約1時間ほどは持たせられる様になりました」
「…なるほど、驚きの成長速度だな」
レイと戦い、1時間以上も戦闘状態を維持出来る、その事実自体が恐ろしいモノだ。レイがラフタの最高神擬きと戦闘した時を思い出してほしい。仮にも最高神を務めていた存在を、抵抗を許さずに圧倒したのだ。つまり…そう言う事である。
「ですが…、これからの伸びしろはあまり期待出来ないかもしれません」
「それは、彼ら自身が…か? それとも彼らの"神の力"が…か?」
「"神の力"が…です」
「レイがそこまで言うのなら…、それは随分と期待しているな」
シンは彼女が自らの指示以上に、彼らに肩入れをしている事を知る。
「ええ、素直な子は大好きですから」
彼女の言葉は、微笑みと共に吐き出された。
「さて、レイから報告は聞いたわけだが、お前達の体感的にはどうだ?」
レイの言葉を飲み込んでから、彼らにも問い訊ねる。彼女の言葉の方が彼にとっては信に値するのだが、彼らにも聞かない訳には行かない。彼らの心に自信が宿っていなければ意味が無いのだ。
「俺は…強くなってると思います」
「私もティルと同じく」
爆発的な成長を感じられた訳では無いが、5年前に比べれば、明らかに強くなっているのは理解出来た。
「そうか、ならお前達に大仕事を与える」
そこまで言うのなら、彼らに任せてしまっても良いだろうと、シンは考える。
「「!?」」
"大仕事"と、態々彼が言った意味を理解出来ない彼らでは無い。
「説明は陵にお願いしよう」
「りょーかい」
シンは陵と美玲にバトンタッチをすると、自らは書斎部屋に居る別の面々に声を掛け始める。
「まず始めに…って感じなんだけど、俺と美玲、ティル、クリスタル、ローズはこの世界の南半球にあるダンジョンを全て攻略するって予定がある。そしてそれが、さっき、シンさんが言った"大仕事"だ」
陵はそんなシンの動きを視界の隅に捉えてから、ティルらに説明を始めた。
「ダンジョンを…全て…?」
ローズはあんぐりと口を開ける。ここには人外ばかりが多く、忘れてしまいそうになるが、本来、ダンジョンはどれか一つでさえ、どれだけの大きさであれ、攻略すれば後世まで伝えられてしまう程なのだ。
故に、驚くのも無理はない。
「…なるほど」
クリスタルはローズとは反対に、納得した顔を見せる。
「…で? いつ出発すんだ?」
ティルの顔にも、同じ様に驚きの表情は浮かんでいない。寧ろ、先を促してしまう程には"大仕事"を受け入れている。
「出発は明後日。行きは竜族に送ってもらう事になってる」
「わかった」
空を飛ぶ事の出来る竜族は、ダンジョンへの足になってくれるらしい。
「待て待て待てっ!? ダンジョン攻略をそんなホイホイと出来るのかっ!?」
自らの驚きに誰も反応をしてくれなかった反動か、ローズは悲鳴に近い声をあげる。
「出来て当然だろう。私もティルも人ではなく神なのだから」
「…そう言えばそうだったな」
クリスタルに告げられた言葉は、否応無しに事実を突き付ける。それは息を呑んでしまいそうになる程で。
「うん? ローズもダンジョンを一人で攻略出来ると思うけど?」
彼女らの会話を聞いていた陵は、心底不思議そうに告げる。
「…私は正真正銘の人なのだが?」
「いや、そもそも、相当に大きくないと神の力なんていらないし」
確かにダンジョンを攻略する事は、一般的な人類史において偉業に値する物である。
だからと言って、人に不可能だと告げている訳では無いし、増してやローズは、神の力を一部ではあるが行使する事の出来る眷属である。
「…は?」
「この世界の常識的には、そう思っちゃうのも無理無いけどな」
この世界の住民を、新たな世界に移動するにあたって、この世界の常識的な考え方は必要不可欠である。
陵がこの世界においての"常識的な考え方"を知っているのは、彼らが住民の移動を先導していたからに他ならない。
「絵本とかでダンジョン攻略は偉業だとか書いてあるみたいだけど、しっかり要点要点を抑えてれば無理無く攻略出来るし」
陵と美玲は今回の仕事の下調べを既に終えている。更に言えば、それに関してのノウハウも頭の中に入れている。
「「「…は?」」」
流石にこれには、ティルもクリスタルも、ローズと同じ様に口を開けざる得ない。
「ま、それはおいおい話して行くとして〜」
「今話せよっ!?」
「やだ、面倒くさい」
ティルの絶叫に対しても、陵はバッサリと切る。
「いずれ話す。だからまあ、今は待って」
「…わかった」
そう言われてしまえば閉口するしかない。
「…でまあ、大まかな攻略の仕方なんだけど、基本的には分かれないで俺たちは動く」
だがしかし、そこで陵が続けた内容は、今までの会話とは真逆に受け取れてしまう様なモノだった。
「ん? さっき楽勝だのなんだの言ってなかったか??」
楽勝であるのなら、戦力分散をさせて一気に複数のダンジョンを攻略してしまえば良いだろう。それなのに、一つに纏めると陵は言ったのだ。ティルが聞き返してしまうのも無理はない。
「それは、別の敵との遭遇を考慮してる」
「…ダンジョン以外だと言うことだな?」
クリスタルは訝しみながらも再度問う。
「そう言うこと。俺から説明しないといけない事は終わったし、何か他に質問ある?」
「…特には無い」「俺もねえよ」
「じゃあ、俺達は次の仕事があるから失礼するよ」
伝えるべき事は伝えた。陵は美玲に目で合図をしてシンに一言を告げると、書斎部屋を後にした。
☆☆☆
「マグルさん、居ますよね?」
陵は洞窟の中に向けて、比較的大きな声で問い掛ける。
陵と美玲が立っている大地はラフタではない。何れシンの管理下に置かれる事になる新世界だ。
『居るぞ』
彼らの頭に言葉が響くと同時に、四足の巨大な竜が姿を表した。彼こそが竜族の族長である。
「どうも、進捗をお聞きしたくて」
『足代わりに使える者をと言われたからな。速い者ばかりを選ばせてもらった』
ダンジョンへの移動の際に、移動する手段として竜族に依頼をしていたのだ。
「それは助かります。それから…明後日になりました」
『…ほう? 少し急いたか?』
「いえ、仕事は早めに終わらすに限る…ただそれだけです」
新世界に引越しをする前に、彼らがやらなくてはいけない事は沢山ある。
『忙しいな』
「まあ、そうですね。でも、それなりの対価も貰っているので」
タダ働きをしている訳では無い。彼的には気にする程の事でもない。
『ああ…そう言えば…』
マグルは思い付いた様に声を上げる。
「何か?」
『神狼族の族長が呼んでおったぞ』
全く彼に心当たりはないが、彼らには用があるらしい。
「…美玲、時間は?」
「ん、あるよ」
彼らは時間を確認し合う。
「じゃあ、移動しよう。俺達はここで失礼します」
『うむ、また何かあれば気軽に来い』
彼らは神狼族が住まう森林へと向かった。
☆☆☆☆☆☆☆☆
「つうっ!?」
「まあまあだな。ドレッグに嫁入りしたってのに腕が落ちる気配がねえ」
ライエルが振り下ろした大剣を、レオンは正面から弾き飛ばした。
「…皮肉ですか?」
「そんな訳ねえだろ」
レオンは即否定するが、皮肉だとも取れる程に彼は軽々しくライエルを圧倒してしまっていた。
「そう…ですか」
ヨロヨロしながらも、ライエルは立ち上がった。
「ライエルとドレッグ、それからクレイズとパライドには奴隷騎士の先頭に立ってもらわなきゃならねえしな」
「…それは、北半球の話ですね?」
陵と美玲が先導して、南半球のダンジョンを全て攻略するのと同じ様に、北半球はレオン率いる奴隷騎士達がダンジョン全てを攻略する事になっている。
「おうよ。安全に行くから安心しな」
奴隷騎士を総動員させて、北半球のダンジョンを迅速に攻略する。それが目標ではあるが、それ以上に安全を取らなければいけない。
ライエルは奴隷騎士では無いが、奴隷騎士の一師団を率いる事となっている。
「…それにしては、あまりに規模の大きな話だと思いますが?」
「それは気にすんなとしか言えねえよ」
結局のところ、レオンもシンやミリから指示された通りに動いているに過ぎないのだ。
「レオン、ライエル、そろそろ終了にして下さい」
そんな彼らの間に、フィリカがゆっくりと足を着ける。
「んあ? もう、そんな時間か?」
「ええ、他の奴隷騎士も貴方達が頑張っていては休むに休めませんよ?」
フィリカの言葉にレオンとライエルは周囲を見回す。すると、他の奴隷騎士は彼らが訓練をしている間、彼らと全く同じように訓練をしていた事を認識した。
「わりいな、お前ら。今日の訓練はここまでで終わりだ。解散」
レオンは口早に、訓練を続けていた奴隷騎士達に告げる。
『ライエル、迎えに来た。随分とボロボロだな」
その解散の言葉と共に、彼女の夫であるドレッグが地面に降り立ち、人化した。
「…態々ありがとう。かなり…きつい…」
「後は私が支えよう。では、レオン様、フィリカ様、失礼します」
ドレッグは再度、竜の姿となり自らの家へと帰って行った。
世界中のダンジョン全てを攻略し終える時は、着々と近付いていた。
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