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第十三部‐到着とその頃の勇者は…。

「あの砦がガラインド…か。かなり強固な作りに見えるな」  目的地周辺まで歩くと、街の砦が見えた。 「人にしては…ですが」  レイは真っ直ぐに街の砦を見る。 「…大…きい…」  デリは話しながらも"大きい"とジェスチャーをしている。  彼女達は顔を見合わせて、ずんずんと砦に向かって足を速めた。  やがて砦の前に辿り着くと、堂々と彼女達は門を通ろうとする。当然、一度は門番に止められたが、あっさりと身分証明を済まして、砦を通過してしまった。 「かなり栄えていますね。それに、この街にもダンジョンがある様です」 「流石、ダンジョン国家の街なだけありますね」  この街にも、彼女達が雇われた街と同じ様に稼働中のダンジョンがある様だ。それで客を釣っているとも言えるだろう。まあもっとも、彼女達を雇った街のダンジョンは既に停止しているのだが…。 「襲撃より先に…そちらも攻略してしまいましょう」  いつも通り、レイはこの街のダンジョンも攻略する事に決めた。 ☆☆☆ 「…あ、はい。クレイズさんの言う通りで行きたいと思います」  聖剣使いこと勇者の雄二は、フィリカより奴隷20名を借り、レイから連絡を貰った新たな勇者の奴隷の回収に来ていた。  その20名は上位100人から選出されている。 「だからよお、そんな腰を低くなさんなって」  槍使いであり、嘗てはライエルの大剣術の訓練にもよく付き合っていたクライズは、奴隷である自分に向かっての物腰が異様に低い雄二に苦笑いする。 「…なんども言いますけど、自分はこの中では新参なんです。腰が低くなるのは諦めて貰えると助かります」 「だがな、クライズの言う通りでやり辛いのも事実だ」  クライズと双璧を為す剣使いのパライドは至極真面目な顔で告げた。 「あははは…」  笑って誤魔化した。…と言うよりもクライズとパライドが雄二を逃がしてくれたらしい。 「さてと…そろそろ見えてきますね」 「そうだな。…あれでは無いか?」  パライドは雄二の言葉に頷いたが、その次の瞬間には、自らの瞳に目的地の村を映した。 「おい、後ろの奴らも付いて来てるよな?」 「大丈夫です」  フィリカが扱っている奴隷の中で、あくまで戦闘奴隷ではあるが、トップツーのパライドとクライズ。彼らが同行したのは、単純に雄二の手伝いが出来るからだ。  彼らは忠言する事も許されている。  だから、クライズに声を掛けられた他の奴隷たちが、彼らに倣って目的地の村に歩き出していた。 「すみません。レイ様の遣いの者なのですが、奴隷を受け取りに来ました」  雄二は村の門番にヘコヘコしながらも丁寧に告げる。 「レイ様の…? わかった。ちょっと待っていてくれ」  門番は村の中に引っ込んで行ってしまった。 「雄二さん。ここで合ってるみたいですね」  クライズとは別の槍使いが呟く。彼女も単純な技量で言えば雄二の近接戦闘の全てを凌駕する。 「間違ってなくて良かった…」  ここは森の中だ。本当にそれが目的地なのかは話しかけてみなければ判らない。それ故に、安堵の息を吐いた。 「そんなん一々気にしてたらやってけねえぞ?」 「わかってますよ。ただ、やっぱり間違ってたらカッコ悪いじゃないですか」  クライズの言葉に雄二は返す。 「「確かに」」  クライズとパライドは彼の言葉に頷きを返した。 「私が村長です。レイ様に収容しろと言われた奴隷はあちらで面倒を見させて頂いてます。…案内をしましょう」 「ありがとうございます」  やがて村長がやって来て、雄二らは奴隷が収容されている場所へと向かった。 ☆  雄二が奴隷達が集まっている部屋に踏み入れようとした時、見知った他人が視界に入り込む。奴隷化された勇者達が警備をしていた様だ。 「・・・」  雄二は他の勇者達とは袂を分けた身である。故に、視界に移しただけで通り過ぎた。 「…多いな」  収容されている奴隷の数を見て、雄二は初めて驚く。 「これを護衛って難しいんじゃねえか?」 「…やっぱりそう思います?」 「そうだな。…だがまあ、やってやれぬ事は無いだろう」  クレイズとパライドと意見を交換しながら、彼は奴隷をどの様に移動させようかを考える。 「…勇者を使うか」  必然的にそんな結論が雄二の口から洩れる。 「言う事を聞かないと思うがな」  パライドは"期待してない"とでも言いたげな口調で反応する。 「…え? 奴隷化されてますよね?」 「奴隷化したのはお前では無いだろう? お前に奴隷の管理権は無いのだから、彼らを縛る事は出来ない」  村に居る勇者の大半を奴隷化したのはクリスタルだ。そして、奴隷を縛り付けられるのはクリスタルだけだ。 「…ええ、どうしよう」 「取り敢えず、指示を出してみれば良いだろう。それで無理なら…諦めれば良い」  パライドはこう言うが、雄二は絶対に無理だと考えていた。だって彼は…勇者達からすれば、聖剣を盗んだ盗人でしかない。  …まあもっとも、雄二も勇者達を蔑んでいる節があるのだが…。 「じゃあ、それで…」  雄二も腹を決めた。 ☆ 「…と言う訳だから、奴隷達の護送に協力してくれないか?」 「「「「「「・・・・・・」」」」」」  雄二の言葉に誰一人として勇者達は反応しない。ダンマリのままだ。 「困ったな…」  彼は勇者達の様子を見て頭を掻く。ダンマリの勇者達が彼に抵抗している様に、彼も勇者達にかなりイライラしている。 (…あ、携帯であの人に頼んでみよう)  雄二は今回の任務において、携帯電話を持たされている。  彼は徐に携帯を取り出して、とある存在に電話を掛ける。思った以上に電話は直ぐに繋がった。 『雄二くん、どうしたの? 私じゃなくてミリさんに掛けないと駄目だよ?』  掛けた相手は美鈴だった。電話越しの彼女はかなり驚いている。 「あー…えっと、ですね。今、俺の目の前に勇者が居るんですよ。美鈴さんなら言う事を聞かせられるんじゃないかなって思いまして…」 『あー…、そっか。今回の奴隷回収には勇者が居るんだもんね。女子だけなら出来るけど? …多分』  美鈴も何分、異世界転移してから、高校に行かなくなってからそれなりの時間が経っている。故に、昔の様に女子に幅を利かせられるかは自信が無かった。 「無理だったら諦めるんで、大丈夫です」 『じゃあ、音量を最大にして勇者の前に置いてくれる?』  美鈴に指示をされて、雄二は勇者達の前に携帯電話を置く。 『どうも、電話先の真泉美鈴です。男子は…まあ、想像し難いかもしれないけど、女子は私の事知ってるよね? ここに居るかはわからないけど…あのグループに入ってた女子は特にね』 「ひっ!?」  勇者組の中の一人の女子が悲鳴を上げる。何故、悲鳴を上げたかまでは美鈴のみぞ知るところだろう。 『あっれー? 悲鳴が聞こえちゃったな~? って事は、私に服を剥がれた事のある人? まっ、この世界じゃ関係ないけど、私のパソコンフォルダにも保存されっぱなしだと思うよ~』 「「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」」 「直美っ!?」  勇者組の内、二名が見えていないのにも関わらず、携帯電話に向かって土下座をしながら、念仏の様に"ごめんなさい"を繰り返す。それを見ていた男の一人は悲鳴に近い絶叫を上げる。 『…あれえ? 昔みたいに反撃しないの? 今度は殺しちゃうぞ??』 「た…助けてください…」 「お…お願いします。…何でもしますから」  神にでも祈る様に彼女達は携帯に懇願をする。本当に異常な光景が広がっていた。 『ふーん、じゃあ良いけどさ。ただまあ…雄二くんの言う事は聞いてね。ってか、次ナメた真似したら…本当にどうなるかわかんねえからな。覚えとけよテメエら』 「「はっ!? はいぃぃっ!?!?!?」」  頭を地面に擦り付けながら、力強く彼女達は下げ続ける。美鈴の声は、無関係な雄二の背筋すらも凍らせる程に怖かった。 『じゃあ、雄二くん。多分言う事は聞くだろうから後は宜しくね。…あ、勇者の男子を殺されたくなかったら女子が頑張ってね~」  そう言い残して、携帯電話は通話を終了した。彼女達は顔を上げようともしない。 「…って事です。まあ、美鈴さんに何かされたくなかったら、言う事を聞いてください」 (…美鈴さんってマジで怖い人なんだなあ…)  雄二は彼女の恐ろしさが、高校生活での噂以上の物であった事をしみじみに理解したのだった。 ☆☆ 「悪魔の美鈴さんは久しぶりに見た」  偶々、美鈴のサポート係として書類を漁っていた隆二が呟く。電話の内容も隣で聞いていた。 「悪魔悪魔言われるけど、あっちの自業自得だよ?」  美鈴は隆二の言葉に首を傾げる。 「いっくら水をぶっかけられたりしたからって、制服剥いで写真を撮る奴は居ないだろ」 「…そうかなあ? まあ、あの時は陵の件があって気が立ってたのもあるんだよね」  美鈴への集中攻撃、所謂いじめが始まったのは、ちょうど陵の家族が無くなった時期と重なる。 「あー…確かに。言われてみれば、俺達は美鈴さんが胸倉掴まれた動画をアップした時からしか知らない…」 「その節はお世話になりました」  隆二、元太、庄司の3人組に色々と手伝って貰った事は彼女も陵から聞いている。 「まあまあ。美鈴さん達のお陰で奴隷から解放されたし、助け合いだろ」 「そうだねー」 「…あ、旦那さんだ」  美鈴と隆二が話していると、陵が見えた。 「まだ旦那じゃないんだけどね」 「…え? 不仲説?」  隆二は彼女の言葉に相当驚く。 「そうじゃなくて。…やっぱり結婚式とかやりたいって陵が言っててさ」 「…普通は逆じゃないのか?」 「私は…なんか、どっちでも良いって思ってるんだけどね。でもさ、一世一代のイベントな訳でしょ? 結婚式とかってさ。…だったらやらないと勿体無いって陵に言われたんだ」  そんな陵の事をちょこっとだけ嬉しく思う美鈴も居ないわけでは無い。 「相変わらず愛されてるなあ…美鈴さんは…」  そんな彼女に隆二はしみじみと呟く。 「…あ、惚れ気みたいになっちゃった!? ごめんごめん」 「いや、そんなに。…でもまあ、簡単に想像できたから。…俺も出来ないかなあ…」  異世界に来るまでの間、彼女いない歴=年齢な彼に、異世界は甘くは無かった。…そもそも、彼には出会いが少ない。 「あれ? 婚活パーティーとかは…」 「出てるけど慣れてなくて…」  婚活パーティーの自分を振り返って、隆二は苦い顔を浮かべる。 「…頑張れ。よっと、そっちは終わった?」 「終わった。ミリ様に提出しないと」  ミリの書斎部屋へと、彼女らは足を向けた。
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