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第十三部‐襲撃前に寄り道を。

 コンコン  部屋の扉が叩かれる。 「今、出る」  クリスタルは部屋をノックした主に声を掛ける。軽く服の皺を伸ばした。 「…何の用だ?」  彼女は扉を開け、外に立っていたメイドに問う。 「急ぎの用が出来たとの事です。会合室に向かって欲しいと言伝を預かりました」 「わかった。少し待っていてくれ」  クリスタルはまた、部屋の中に顔を突っ込んではレイとデリにメイドからの要件を伝える。 「…では、案内をしてくれ」  彼女達は揃い、クリスタルはメイドに案内する様に指示した。 ☆ 「よく来てくれた」 「急ぎの用だと聞いたからな。前座は飛ばすが構わないな?」  会合室に入ると、彼女達は領主に出迎えられた。 「ああ、早速そこに腰を掛けてくれ」  領主に促され、彼女達は腰を落ち着ける。領主は彼女達の対面に腰を掛けた。 「…今回呼んだのは他でもない、敵派閥の本拠地…即ち、君たちの所へと暗殺者を送り込んだ勢力が明らかになったからだ」  一息を吐き、領主様は真剣に告げる。 「なるほど。では、私達は何処に行けば良い?」 「…疑いはしないのか?」  実際、彼女達が領主の言葉を鵜呑みにする必要は全くない。それ故の彼の言葉だった…が。 「何を疑えと言うのだ?」  かつてミリは言っていた筈だ、"要らないと捨てられた人間を集めれば良い"と。それはつまり内乱だろうが内戦だろうが、優秀な存在を、他国にトカゲのしっぽ切りにさせれば良いのだ。  それ以上でも以下でもない。彼女達の目の前に居る領主、彼の派閥が他の派閥を斬り捨てたとしたら、斬り捨てられた者達はそのままミリの手駒に成るだけだ。  …まあ、明らかに害悪な存在はミリによって斬り捨てられるのだろうが。  クリスタルはあまり気が乗らない様だが、それはそれだ。レイと共にその様な方向に持っていく事が決まっている以上、彼女もその話に乗っかるしかない。 「…わかった。結論から言えば、そこで間違いは無い。だから安心してくれ」  そんな領主の言葉に、クリスタルもレイもうんともすんとも言わない。別に間違いであっても関係がないからだ。 「場所は?」  暫く後、結局彼女の言葉から出たのは問いだけだった。 「場所は…ガラインドと呼ばれる街だ。そこに指示を出した派閥の者が居る」 「なるほど、ガラインドと言う街の領主が黒だと言いたいのだな?」  少しだけ皮を被せられた様な言葉を、それが領主の意図だとわかっていながらもクリスタルは剥ぎ取る。 「…そう、思っている」 「所詮赤の他人がどの様に手を汚そうが、関係は無いからな」  完全に状況証拠しかない状態で、領主は彼女達を動かそうとしている。別にそれに否を言うつもりはない。例えそれが、この国の秩序を乱す事になったとしても。 「・・・」 「地図は無いか?」 「…ああ、これがそれだ」  領主は1枚の地図を広げる。この世界には衛星写真など無いので、当然それは、あまり精密性の無い地図だった。 「これは貰っても?」 「もちろん」 「わかった。レイ様、どうします?」  クリスタルはこれからの予定を問う。 「すぐに出発しましょう。ここも飽きてきましたから」 「…だそうだ。それで構わないな?」  彼女は礼の言葉を聞き、もう一度だけ領主に目を向ける。 「ああ、動いてくれるだけありがたい」 「そう言って貰えると助かるな」   ☆☆☆  場面は移り変わり、公道と言っても差し支えの無い道を彼女達は歩いていた。 「…楽しいのですか?」  レイは自らの前を歩くデリに問う。 「…ん…、…楽しい…」  まさに心がピョンピョンするとはこの事かと、そう言えてしまう程に、彼女の身体はルンルンとしていた。 「…久し振りにしっかりとした道を歩いている気がする」  一方、クリスタルは長い馬車道に対し、ゆっくりと歩いている自分に思いを馳せる。今までは走ったりだの運ばれたりだの、もしくは獣道だったり…とか。 「とは言え、魔物が出る事に変わりは無いか」  クリスタルは次の瞬間には、自らの正面に足を置こうとした魔物を斬り裂いた。 「…上手…上手…」  パチパチパチ…とデリが手を叩くが、クリスタルはそれに微笑みを返すだけだった。彼女にとっては当たり前すぎる事だから。 「…橋が落ちてる」  地図の通りに歩いていると、川に掛かっていた橋が壊されているのを見つける。 「飛び越えてしまえば良いでしょう」  レイは"タンっ"と地面を踏み、向こう岸に着地した。それに倣ってクリスタルも跳ぼうとしたが、寸での所で踏み留まった。 「デリは私が運ぼう」  デリは運動能力が極端に低い。死王故では無く、死王に成る前からも彼女はそうだったらしい。剣などもからっきしであるそうだ。  故に、橋の無い場所での幅跳びは簡単ではない。 「…ん…、…お願い…」  デリをお姫様抱っこして、クリスタルはレイの隣目掛けて跳んだ。 「…ありがと…」 「気にするな」  デリは彼女の腕から下に降ろされた。 「では、また先へと行きましょう」  それから暫くの間を歩き続けると、レイの足が突然止まった。 「…どうした…の…?…」  デリはそんな彼女を見て首を傾げる。その後ろで、クリスタルもデリに釣られ首を傾げていたのは内緒だ。  因みに、釣られて首を傾げた事に気が付いたクリスタルは、内心で悶え狂っていたらしい。 「流石、ダンジョン都市やダンジョン国家と呼ばれている国だなと思いまして…」 「…この付近にダンジョンが?」  レイの言わんとしている事は、最後まで言い切らなくとも理解出来る。 「ええ。では早速、寄り道と行きましょう」  当然、領主に頼まれた仕事もする。だが、それをするにしても、ダンジョン1つを攻略する余裕は有るだろうと、レイは考えていた。 ☆☆☆☆ 「…弱いな」  クリスタルは斬り裂いた魔物の、ダンジョン産の魔物の脆弱さを感じて呟く。 「それはそうでしょう。このダンジョンは出来たばかりの様ですから」  そう言うとレイは、ヒョイヒョイと雑魚を躱し続けて、勝手に次の階層に向かってしまう。 「…行こう…」 「追いかけるしかないか」  デリもクリスタルも、彼女を追いかけて進んだ。  彼女が上った次の階層に頭を出すと、彼女の気配は無い。恐らく、彼女はクリスタルらが先に進んでいる間に、更に次の階層へと進んでしまったのだろう。  次も次も次も、クリスタル達はレイの姿を見かけなかった。 「…ここが最終階層か?」  どうやら、本当に小さなダンジョンだったらしく、彼女達は最奥に辿り着いてしまった。ダンジョンの根幹とも呼べるダンジョンコアが見つかったのだから、それは間違いない筈だ。  …だが、変わらずにレイの姿が無い。 「…レイ…居ない…」 「…居ないな」  この超短期間で行方不明になってしまったらしい。 「っつ!?」  クリスタルの目前に光の柱が立つ。本当に突然の出来事だ。 「…あら? どうやら最終階層の様ですね」  その光の柱から出てきたのは、今まで一度も姿を見かけなかったレイだった。 「…今まで何処に?」  クリスタルはレイに訊ねる。 「どうやら、別のダンジョンに強制転移をさせられてしまった様なのです。ああ、もちろん、転移罠の先にあったダンジョンも攻略してきましたが」  レイは言いながらも、片手にはクリスタル達の目の前にあるダンジョンコアと、ほぼ同等な物を持っていた。 「…そうですか」 「では、そちらも取ってしまいましょう」  レイはこの場に存在している、未だ稼働中のダンジョンコアに手を伸ばす。 「…では、寄り道は終了ですね。戻りましょう」  彼女はダンジョンコアを両手に、満足そうに微笑んでいた。 ☆ 「すっかり、真っ暗になったな」  ダンジョンの外に足を踏み出すと、辺りは既に真っ暗になっていた。 「…今日の所は、この場で羽休めとしましょう」  レイの提案に、特に可もなく不可もないので、デリもクリスタルも頷く。  それぞれが寝床の準備に取り掛かった。  そんな中、クリスタルは不意に顔を上げてみる。偶々、空が明るく照らされている様に見えたからだ。 「…星、か」  彼女は、かつて屋敷に居た時に勇者組から教わった星遊びをしてみる。偶々、今夜の星空が綺麗だったからと言うだけの話だ。  宙に浮かぶ星を繋いで繋いで…竜の形に成ったり、剣の形に成ったりした。 (そう言えば…昔、父上に見せられたな)  クリスタルはあくまで、彼女自身の記憶をたどって、自らの過去に想いを馳せる。  例えばこれが、彼女の相方だったとしたら、彼はただ驚くかもしれない。  これが陵だったら、美鈴だったら、はたまた勇者組だったら、地球と同じ星座が無い事に対して、故郷への想いを馳せるかもしれない。  シンやレイだったら、きっと何も思わないのだろう。いやむしろ、"あの星に行ってみよう"となるかもしれない。  鬼神や聖神だったら、はたまた、デリの様に大昔に閉じ込められた者だったら、星空が変わらない事に安堵をするかもしれない。  ミリだったら、これからの子供たちに見せてあげたいと思うかもしれない。  レオンやフィリカだったら…。 (人では無くなったからと…全く変わらないな)  彼女自身の星に対しての感性は、それはあくまで人のモノだと彼女は再認識する。  例え、ダンジョンを一日で攻略出来るようになっても、ほんの寄り道感覚で人で言う所の偉業をこなせる様になったとしても、それでも変わらないのだと実感するのだった。 (人でも神でも…変わらないな)
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