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第十三部-三人で外に。
「…んん…」
デリは目を覚ます。嘗てはラスボスを務めていたボス部屋の中で。
デリは起き上がろうとするが、レイにガッチリと抱きつかれ動けなくなっている事を思い出す。
「…ん…」
デリの身長は155cm前後、レイは170cm近くある。だから、レイに抱きかかえられる分には何の違和感も無い。
だがしかし、レイよりも3回りくらい胸が大きく、そして体温が死王故に冷たい。つまり、柔らかくて小さくて冷たくての三拍子が揃った最高の抱き枕と化していた。
また、デリはデリで体温が恋しいらしく、それに否が無いのだ。千年以上も独りで閉じ込められていれば、そうなってしまうのも仕方が無いだろう。
デリはレイが目を覚ますのを待った。
☆
「…ふあ…」
クリスタルが目を覚ます。ボス部屋に無造作に置かれたベットの上で。
(昨日は色々と大変だった…)
デリの年齢を聞き、"やはり自分はデリに対して敬語を使った方が良いのでは?"と思ったのだが、それを話すと明らかに落胆した表情をされた為、クリスタルはかなり焦った。
こう…なんというか、心がきゅってなる様な、胸が締め付けられる様なそんな表情をデリに向けられた。
クリスタルはレイが起きていない事を確認すると、"珍しいな"と思いつつも地面に足を垂らす。そして、無造作に寝間着を脱ぎ捨て、いつも通りの騎士服に着替えた。
「…くあ」
あくびが零れる。
(…素振りでもするか)
☆
レイの目がパッチリと開かれる。クリスタルが振るう風切り音が聞こえる。
「…おはよ…」
腕の中に居たデリが、レイに言う。
「おはようございます。安眠出来ました」
デリから腕を離すと、レイはまるでロボットの様に綺麗にベッドから起き上がる。
「…ん…、…それ…なら…良かった…」
そんなレイに追随する様に、のっそりのっそりとデリが起き上がった。
「…あ、おはようございます」
そんな彼女達を見て、振るっている剣に集中しながらもクリスタルが挨拶をする。
「ええ、おはようございます」「…おはよう…」
彼女達も口にすると、早速ベッドから降りる。それからベッドを亜空間に仕舞った。
「…熱心…」
デリは寝間着のまま、髪がぼさぼさなままトテトテとクリスタルに元に歩いて行っては、そう呟く。
「そうだろうか?」
「…ん…、…それに…活き活きしてる…」
デリの感想はクリスタルの精神状態の中心を突くモノだった。
「それはそうだと思う」
だが、その言葉にクリスタルも深くは考えずに認める。好きで振っているのは紛れも無い事実だからだ。
「クリスタル、デリ、簡易な物になってしまいますが、食事を取りましょう。取り終えたらダンジョンから脱出します」
剣が当たらない様に…ではあるが、くっ付いているクリスタルとデリにレイが告げる。
「わかりました」
「…ん…」
ダンジョン攻略はこれで終わり…らしい。
☆☆☆
「…人が居ませんね」
彼女達三名は、ダンジョンの地下3階に転移していた。初めから外に転移しないのは目立つことを避けるためだ。…と言うよりも、勘ぐっている犬に憶測の余地を増やす為だ。
「確かに、居ませんね」
クリスタルもレイの言葉に頷く。
「…なるほど、ダンジョンの前で張ってる人が居ますね」
「何故?」
「このダンジョンの機能が停止したから…ではないでしょうか?」
「…停止しているのですか? 確かに魔物も見つかりませんが」
レイの"停止した"との言葉に、クリスタルは初めて気付かされる。確かに魔物が居ないのだ。
「…何時そんな事を?」
レイがダンジョンを停止させた姿を、クリスタルは見ていない。
「主がダンジョンコアをダンジョンから切り離したのです」
デリをダンジョンから解放する際に、シンが勝手にやった事らしい。つまり、レイは知らぬ存ぜぬである。
「…なるほど。そのダンジョンコアはシン様が持って行ってしまったのですね?」
「いえ? デリの身体に埋め込まれてますよ?」
「え? は?」
レイの暴露によって、クリスタルの視線がデリに注がれる。
「…ん…。…力…、…使い方…、…わからない…けど…」
デリが彼女にコクリと頷いて見せる。つまり、デリの中にダンジョンコアがあるのは紛れも無い事実らしい。
「…そうなのか」
クリスタルは会話について行けなくなった。というか、考えるのを止めた。
彼女達はダンジョンから外に足を踏み出した。
「少し時間を頂けませんか?」
早速彼女達に声が掛けられる。
「何でしょう?」
「ダンジョンを攻略されましたか?」
「ええ、しましたよ」
本来は偉業だ。目立つのが嫌ならば黙っているべき案件ではある。…が、レイはあっさりと認めてしまう。
「…私について来て頂けませんか?」
「行き先によります」
「冒険者ギルドです」
「…すみませんね。私達の所属はそちらと仲が悪い様でして、お断りさせて頂きます」
これが領主だったとしたらレイは足を運んだが、たかがダンジョンによく潜ってる程度でしかない冒険者の元締めに会えとなるのであれば、断るに決まっている。
彼女に会う利益が無い。
「…ですが」
「無理な物は無理なのです。諦めなさい」
レイが告げるだけ告げると、彼女達は揃って足を前に歩き始めた。
「…久しぶりに戻ってきましたね」
「そうですね。…あまり日数は経っていませんが」
「…立派…」
クリスタルはダンジョンに入る前から、継続して取っている宿の前でしみじみに呟く。レイの言う通り日数は経っていないが、クリスタルの感じ方も理解出来る。
デリは永らくぶりの建物を見て、少し感動していた。
「おや、久しぶりだねえ。てっきり死んだものかと思ったさ」
「少々長い間篭ってまして」
宿に入り、女将さんと軽く談笑を交わすと、レイはそのまま取ってある部屋に直行する。クリスタルもデリも続いた。
「…凄い…」
二つのベッドが並ぶ部屋を見て、デリは少しだけ嬉しそうにする。ベッドメイキングはされていたので、どうやら彼女達が居ない間もしっかりと目を掛けてくれていたようだ。
「この後はどうしますか?」
ベッドに腰掛けて、レイはクリスタルに問う。その膝の上にちょこんとデリが乗った。
「いえ、特には」
クリスタルは無難な回答を選ぶ。特に欲求が無いのも事実だ。
「ならば、今日はゆったりしましょうか。…?」
結論付けようとすると、レイの袖をデリが引いた。
「…私…歩き…たい…」
レイやクリスタルの興味は惹かなくとも、デリは"外を歩く"というだけで興味を惹かれてしまう。
「…私はそれでも構いません」
クリスタルはそんなデリの提案に、問題無いと返す。
「そうですか。では…少し休憩を取ってから、街並みを見て回る事にしましょう」
道が変わった結論を作った。
☆
「…外…だ…」
フラフラとレイの周りを歩き回るデリの姿は、まるで小動物の様だ。
(…この可愛い物体は一体何なのでしょう?)
レイは頭に"?"を浮かべつつも、口には出さない。同じ様な事をクリスタルも考えていた。
デリはとある屋台をじっ…と見たが、すぐに視線を外した。自らに対価に成る様なモノは払えないし、何より動く死体なのだから、きっと、一般人が触れたらびっくりどころの話では無いだろう。
「いるか?」
「…良いの…?…」
そんな彼女が過ぎ去ってから、クリスタルが屋台飯を彼女に差し出す。
「流石にそんな意地悪はしない」
「…ん…、…ありがと…」
彼女はそれを受け取って食べ始めた。スプーンとフォークがあったのだが、迷わずにスプーンを取った当たり、フォークの使い方がわからないのかもしれない。もしくは、"掬う"動作は慣れていても"刺す"動作は慣れていない…とか。
「…ん…、…美味しい…」
死人だから満たされる感覚は無いが、どうやら味覚は死んでいないらしい。
「…それは良かった「てめえらがダンジョン攻略者かっ!!」」
クリスタルがそれを見て微笑もうとすると、邪魔者の声に妨害される。
「何用だ?」
彼女はそのイラつきを隠す事せず、声の主に瞳を向けた。
「っつ!?」
「何用だと訊ねているだろう?」
イラつきを隠さなかった目が、やがて鋭く威圧する目に変わる。
「うっ…」
声の主は気圧されてしまったらしい。だがしかし、先程の声で彼女達に視線が集まる。
「…責任は取って貰うぞ?」
彼女は声の主の背後に回ると、住民に見せつける様に足を蹴り折った。ここは屋台が並ぶような大きな通りだ。
「ぐああああああっ!?!?」
それの悲鳴と周りの悲鳴を聞き、これで新手に絡まれる事も無いだろうと一人満足する。
「デリ、レイ様、少し移動しましょう」
「そうですね」
「…ん…」
警備兵が彼女らを見つける前に、彼女らは動けなくなったそれを放置して、別の通りに移動する事にした。
「…噴水…」
デリは水が噴き出るオブジェを見て、目を輝かせてふらりと行ってしまう。レイもクリスタルも止めるより先に追いかける。
「…綺麗…」
そこまで大きな物でも特別な物でも無いが、彼女にとっては綺麗な物らしい。
「…少しここに座りましょう」
レイはそんな彼女とクリスタルに、噴水の縁に腰掛ける様に言うと、物陰に目を向ける。
「…やはり、バレていたか」
「何時ぞやの暗殺者か。今日は何の用だ?」
当然クリスタルも、彼女達をつける気配には気が付いていた。だから、物陰から何かが姿を現した時も驚かなかった。
そこに居たのは、ダンジョンでクリスタルが誤って足を折ってしまった女性だった。
「領主のご命令で、ダンジョン攻略者を招待する。故に、ついて来ては貰えないだろうか?」
「…まあ、それなら良いでしょう。今からですか?」
「お時間の都合が合えば、今すぐにでも招待させて頂きたい」
前回出会った時よりも、目の前の暗殺者は物腰が低かった。
「良いでしょう」
ダンジョンの次は、領主との面会らしい。
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