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第七部‐隠密神のお仕事。

「こちらがご用意させて頂いたお部屋になります」  王子との対談を終え、陵と美玲は当屋敷のメイドに、とある寝室へと案内された。  羽休め出来る部屋…とはこの事である。 「わかりました。ありがとうございます」  彼はメイドにそう言い、軽く会釈する。 「いえ、仕事ですから。御夕食は後ほど、こちらに運ばせて頂きます」 「わかりました」 「では、ごゆっくりどうぞ」  メイドは自身の仕事をこなし、彼らから離れて行った。 「…さて、寛ごうか」  彼はメイドを見送り、用意された部屋に手を掛けた。 「そうだね。…()()さんも」  美玲は彼に追随する様に、自身の周りについて来ていた者の名を口に出し、誘い、()()は用意された部屋に入った。 ☆ 「ふう…やっと口が開けるよ〜」  今までの彼や彼女とは違う、彼女の声が、寝室を閉じられてから、部屋に広がった。  今までずっと、彼女は気取られぬ様に、陵と美玲の周りをウロウロしていたのだ。 「アイさんも忙しいよね。街中ですれ違った時はびっくりしちゃった」  騎士団長を急かしたのは、隠密神であるアイが、自身の目の前に姿を現したのが理由だった。  隠密神である彼女は、主に様々な国の情報を集めながら渡り歩いている。  偶に、今回の様に情報を与える為に他者と接触する事もあるが、それはかなりレアケースである。  彼女が手に入れた情報は、全てミリの元に届けられているという事は明言しておこう。 「あれで解る美玲も美玲だと、僕は思うけどね〜」  カラカラと笑いながら、アイは楽しそうに言う。 「ま、取り敢えず立ってないで座ろうか。アイさんが来たってことは…何かあるって事だろうし、…あ、あの使者さんの身元教えて貰ったけど…上手く使えなかった。謝っとく」  先の王子との会話で、あんなに強気になっていたのは、半分は、美玲がアイから情報を受け取ったからだ。  アイは片側に、陵と美玲が向かい合う様に、置かれているベッドに腰掛けた。 「あーうん、良いよ良いよ。そこまで重要でも無いし、というか寧ろ、手に入れたばかりの情報でよく仕掛ける気になったよね」 「あの使者さんが、吸血鬼族の族長だったのは驚いたけどね」  吸血鬼族…とは言っても、この国限定ではあるが…。 「暗部を取り仕切ってるのも、あの人だっけ?」 「この国の…だけどね」 「それはわかってる。もっと突っ込んでくれば責任問題にしてやったのに…ま、機を逃したって事で一旦忘れた方が良いだろうな」  族長が私達を"試している"。それはあまりにも無礼であるし、誠実さにもかなり欠ける。 「そうだね。それに囚われてると本末転倒だと思うよ」  アイも陵の言葉に頷きを返す。 「…で、アイさんがここに居るって事は、何か理由が有るんじゃないの?」  美玲はずずずいっと、アイの顔を覗き込んだ。 「あ、そうだった。ティルの事なんだけどね、ちょっと頼みたい事があるんだ」  そんな彼女も動きに、アイは重要な用事を思い出す。 「「頼みたい事?」」  陵も美玲も首を傾げる。 「簡単に言っちゃうと…、ティルを大会に出場させて欲しいんだ」  またまた突飛な内容を、アイは口に出した。 「大会? なんの?」 「えっと…戦闘系?」  アイも、シンから言われた事柄を伝えているだけなので、そこまで詳しくない様だ。 「ああ、武闘大会みたいな感じなの?」  美玲は何となく理解出来たらしい。 「あ、そうそう、そんな感じだよ」 「…それって、俺達が面倒を見ろって事だよな?」  2歳くらいしか違わない男の面倒を、陵らに任せるつもりらしい。 「簡単に言っちゃうとそうだねえ…」 「まあ…それは良いんだけど、その大会とやらに出させる意味は何?」  陵がこう訊ねるのは、"武闘大会に意味も意義も"感じていないからだ。 「さあ? そこら辺は僕にもわかんないよ。僕も興味無くてシン兄に聞いてすらないし」  それは隠密神であるアイにも同じようで…。 「あーうん、わかった。じゃあ…その大会が開催されるのは何処?」  陵は陵で"まあいいか"と前向きに考える事にする。ティルの面倒を見て欲しいと言われたが、自身らが遊んではいけないとも言われていないから。 「この国の王都だよ。だから、陵と美玲は休暇の合間にちょこっとだけ彼に目を掛けてやってくれれば良いよ」  あまり重要視はしなくても良い。それがアイからの答えだった。 「ん、じゃあ、騎士さん達は誰が連れて帰るの?」 「ああ、あの騎士達は勝手に帰るよ。指揮官なんか居なくっても戦えるもん、彼らは」 「あ、そうなんだ。てっきり往復するのかと思った」  レオンの元に騎士を無事に送り届け、それから再度、この王国に戻ってくるのだと陵は思っていたらしいが、どうやら違った様だ。 「わかった。観光がてら、ティルを連れて王都に行ってくる「あ、クリスタルはどうするの??」」  陵の決断に割り込みながら、美玲はハテナを解決させようとする。 「それは個人の自由かな。…でも…」 「…ついて来るよね」  どちらでも良いと言ったが、結末はわかってしまった。それは彼女の性格故にだろう。 「そゆこと、だから…よろしく」 「あいあいさー」  どうやら、重要な話は一段落ついたよう… 「あ、ちょっと待った待った」  …ついていなかった様だ。慌てたようにアイが話を続けようとする。 「「?」」  そんなアイに揃いも揃って、こてんと首を傾げる陵と美玲。 「これ、持っといて」  そんな彼らに笑いそうになるのを堪え、アイはとある物体を取り出した。 「これは…ワイヤレスイヤホン?」  陵の美玲も、かつて地球で、電器屋さんなどで見た事があった。コードの無い、会話用の、片耳に引っ掛けるタイプのイヤホンだった。ちょっとゴテゴテしていて、水晶体の様になっていた。 「そうそう、天照大神さん?が、うちの研究者に知恵…というより発想を分けてくれたんだ。で…研究者が完成させたのがそれだよ。耳に付けてみて、付け方はわかる??」  アイはそれを彼らに装着させた。 「えっと…どうするの?」  装着し終え、美玲が訊ねる。  美玲も陵も、ワイヤレスイヤホンのコントローラーは持っていない。イヤホンだけで会話が出来ないのは道理である。 「後ろに1つだけボタンがあるよね? そこを長押ししてみて」  アイのそんな指示に大人しく従う彼ら、すると"起動しました"という声がした。  それと同時に、彼らの手元に四角い物体が出てきた。…液晶パネルだった。 「スマホ・・・っぽいけど、ちょっと違うな」  陵はそれをマジマジと見て、そんな感想を述べる。 「スマホはわからないけど、取り敢えずそれをタッチしてみて」  更にアイから指示がとぶ、陵も美玲も同じ様にタッチした。  すると、そこには"アドレス帳"とでも呼べそうな物が表示され、そこにはシンやミリ、それからアイや天照大神の名が書かれていた。 「ああ…これがコントローラーなんだ?」  美玲は手に持った物体を正しく理解した。 「そうそう、理解が早くて助かるよ。そうだなあ…試しに僕に電話を掛けてみよっか」  アイは取り敢えず、通話の仕方を教える事にした。 「アイさんは持ってないよ?」 「僕は…ほら、ここにあるよ」  アイが取り出したのは、正真正銘パカパカケータイだった。 「何で私達はこっちなの??」  陵も美玲もワイヤレスイヤホンでは無く、"そっちで良い"と思う。 「それは色々と理由が有るんだよ。それも後で説明するから…まずは電話を掛けてみてくれる?」 「じゃあ、私やる」  アイに言われ、美玲がコントローラーを操作して、アイに電話を掛けた。  アイの携帯がブレて、彼女は電話をとった。 「もしもーし」 「はいはい、聞こえてるよ。じゃあ、使い方はわかったね?」  アイは美玲が使いこなせた事を確認して、再度訊ねる。 「問題なさそうだな」 「なら良かった。…で、陵と美玲の電話の形が、ワイヤレスイヤホンになっているのには、君達が魔法を使えないからって理由があるんだよ」  アイは淡々と話を続けていく。 「えっと…?」 「僕のこれは魔力を貯めれば動くんだけど、君達は使えないでしょ? だから光の力を吸収して使える様にしてるんだよ」 「でも…それって、別にアイさんの形と一緒でも良くない?」 「これをずっと手に持ってる訳にはいかないでしょ?」 「「あ、なるほど」」  常時着用して、光を吸収させる為にこんな形になっているのだと、陵も美玲も理解出来た様である。  だから、光を吸収する様な、水晶体の様な形をしていたのだ。 「ま、そんな感じかな。あ、コントローラーはボタンを長押ししたら消えるから」  アイはサラッと、コントローラーの仕舞い方を告げる。陵も美玲も試しに…と長押ししてコントローラーを手元から消してみた。 「ちょっと目立ちそう…」 「ちょっと恥ずかしいよな…」  陵も美玲も、日常からこれを付けないといけないのか…と、少し気持ち重くなる。 「これ以上の小型化は出来ないって、うちの研究者は言ってたよ。光を吸収する装置が大きかったんだって」 「うー…我慢する。便利だもんね」  美玲もこの道具の素晴らしさは理解していた。だから仕方が無いと諦めるしかなかった。 「そそ、じゃあ、僕のお仕事は終わりかな。渡すべき物も渡したし、伝えるべき事も伝えたし」  アイは座っていたベッドから立ち上がった。 「あれ? もう帰っちゃうの?」  美玲が言う。 「うん、僕もやらないといけない事があるからね」 「そっか、じゃあ、また今度お世話になります」  今回の情報と言い、彼らが使う情報を集めているのは、紛れもなく隠密神である彼女だ。だから"お世話になっている"。 「お世話しまーす。じゃっ、バイバーいっ!!」  アイは、その部屋の窓を開け、そのまま外へと飛び出して行く。 「元気な人だよねえ…」 「だなあ…」  陵と美玲は、そんな彼女を見送って、そう呟くのだった。
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